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更新2020.07.12
旧車のレストアについて考える[part6:エンジンを降ろす]
ユダ会長
まず一方は「生活に余裕があり、そして旧車への情熱が並々ならぬ人」。
そしてもう一方は、「旧車がたまらなく好きで、その維持のためなら努力を怠らない人」だ。
この場合、ある程度の修理は自分でやることが鉄則となる。著者の周囲には、どちらかと言うと後者の方が多いように思う。
旧車を維持していくうえでの難関は「エンジンを降ろすところ」ではないか?経験上、そう思うところがあり、今回はその点を中心に話を進めていきたい。
そもそも「なぜエンジンを降ろす」のか?
旧車を維持していくうえで「どうしてもエンジンを降ろさなければならない修理」が発生する場合がある。
一般的ではない話と思うかもしれないが、クルマによってはクラッチ板や、タイミングベルトの交換のたびにエンジンを降ろす必要があるケースも存在する(事実、著者の乗るMGBや、以前乗っていたオースチン・ヒーレー・スプライトなどはクラッチ交換でもエンジンを降ろす必要があるのだ)。
エンジン脱着の工賃は、(ショップ等によっても異なるが)最低でも10万円前後の出費を覚悟する必要がある。
その後、部品の交換や修理の工賃を含めると、当然ではあるがトータルの費用が結構な金額になったりする。
では、それなりに費用が掛かることを大前提として旧車を維持するのか?もしくは、そのハードルを超えて自分で修理するのか?この決断次第で、旧車の維持に掛かる費用が変わってくると著者は考えている。
もちろん「エンジンを降ろす作業」には、知識と経験、そして工具が必要となる。
「そんなことは不可能だよ!?」
と普通であれば考えるかもしれない。
しかし著者は、20代半ばのまだ旧車に関する知識が少なかった頃、ある経験から「エンジンを降ろすのは自分でやって当たり前なんだ!」という極論にたどり着いた。そして、いまでも、必要とあらばいつでもエンジンを降ろして修理やレストアを行っている。
「エンジンを降ろす」という行為に対する高いハードル
まだ九州から上京してアパート暮らしだった頃、筆者はアルバイトをしながら苦労して手に入れたオースチン・ヒーレー・スプライトMk3を所有していた。
このとき、3年ローンで買ったその日に動かなくなる、というハプニングに見舞われたのだ。さらに、専門店で購入したわけではなかったので、その店ではどうすることもできなかった。
そして葉山(神奈川県)にある、個人の趣味で仲間を集めて修理を行っているT氏を紹介してもらった。
修理費は、ショップが半分は持ってくれたような記憶がある(当時は納得がいかなかったが、安く買って保証なしだったので、致し方ないどころか感謝する必要があるのだが…)。そして、ここで経験したことが、その後の自分の人生を大きく変えることになった。
仕事を終えてローダーでクルマを運び、ガレージに入れた。そして次の瞬間には、集まっていた仲間たちに取り囲まれ「どういう症状なのか?」と質問攻めにあった。あまりのできごとに、当時はかなり「たじろいた」。とにかく、自分の知識のなかで最大限の言葉を探しながら症状を伝えたと記憶している。
そして次の瞬間には「よし!じゃあエンジンを降ろそう!」と、いきなり保安部品を外しはじめたのだ。
仕事終わりに行ったのだから既に夜9時を回っていた。しかも翌日も普通に仕事が入っていたのだが「これは逃げられない」と悟った。おそらく他の方々も翌日は仕事だったはずだ。
なかには大御所の俳優までいた。
数人がかりで保安部品を外すと、ガレージのうえを通る金属の柱にチェーンブロックを下げ、一気にエンジンを降ろしはじめた。
その団結力に絶句しているうちに、いとも簡単にエンジンを降ろしてしまったのだ。
必死に手伝っていたのでうろ覚えではあるが、おそらくは3時間は掛かっていなかったと思う。
そこからエンジンをバラしはじめ、原因の追求が終わったのは深夜1時くらいだった。
既に疲労困憊していたが、そのときに一番感じたことは「エンジンは、こんなに簡単に降ろせるんだ!」だった。
「イヤ、そうじゃないだろう!」とツッコまれても仕方がないくらいのレベルだが、このときは妙に嬉しく、ドキドキしたのだ。
エンジンを降ろすのに必要なものとは?
それから自分なりに、大きな目標を立てた。
「エンジンの降ろせるガレージ付きの家を買う」という大チャレンジだ。
まず、敷金礼金なしのレオパレス暮らしから生活をスタートした。
そこで頑張った過程は省略するが、30代に突入する直前に中古で家を購入することができた。35年ローンだから、まだまだローンは残っているし、偉そうなことは一切言えないのであるが…(笑)。
実は、家を購入する際に挙げたいちばんの条件は「背の高いガレージのある家」であった。
なぜなら、ガレージのなかでエンジンを降ろすには、ある程度の高さが必要というのが大前提の条件だったからだ。
こうして、念願叶って購入した中古の家のガレージを翌日から大改造することとなった。
パイプやアンカーで枠を作り、チェーンブロックも格安で仕入れた。やがて、いつでもクルマのエンジンを降ろせるガレージへと、すべて一人で劇的ビフォーアフター(?)を行ったのである。
工具は毎月少しづつ買い揃えた。
セットで買うのが得なのは分かっていたが、伴うものがなかった。結果として、自分なりに納得行くまで工具を揃えるのに15年くらいは掛かったと思う。
こうして我が家のガレージでは、自分のクルマはもちろん、HCC95クラブ員の愛車もエンジンを降ろして修理を行える場所になった。言い換えれば、みんなが集まれる空間を作れたのかもしれない(その後、エンジンクレーンも譲り受け、今では溶接までできるような機材を揃えている)。
エンジンを降ろすまで
現代のクルマでは到底難しい話ではあるが、旧車(キャブレター車)は電装系が少ない。よってエンジンを降ろす際に特に難しい工程はない。
まずはラジエターを外してからキャブレター、マフラーのエキパイ、バキューム類や配線類を外し、下に潜ってクラッチのスレーブシリンダーやペラシャフトを外す。
エンジンマウントやミッションマウントは「こんなので固定されているんだ?」と落胆するくらいに簡素なものだったりする。
エンジンを降ろす際、これはクルマによっても異なるが、角度が重要になることが多い。そこは経験になるところだが、現在では海外を中心にYouTubeなどで工程をアップしている人もいるので、参考にすると良いかもしれない。もし「エンジンを降ろす」機会があったら、ぜひ事前に見ておくべきだ。
おそらく自分が考えているよりもはるかに簡単で、そして自身のなかにあるハードルが一つクリアできるのでないかと思う。
このハードルをクリアするか否かで、旧車の維持は大きく変わるのではないかと考えている。
エンジンを載せたあとの感動たるや…
エンジンを降ろすにはいろいろな理由がある。
降ろさなければ修理ができないのは前述したとおりだ。忘れてはならないこととして、無事に修理が終わったエンジンをボディに載せる必要がある。これはエンジンを降ろすよりも一苦労があるのだ。
特にエンジンとミッションのドッキングには専用の工具がないと難儀するケースが多い。
クラッチのセンター出しを行う際に必要なアライメントのツールは、ぜひ揃えておきたい工具である。
専用工具は調べると海外で格安で売られていることが多いので、手元に一つでも持っておくと便利である。
修理にはクラッチやタイミングベルト等の簡単なものから、エンジンのオーバーホールなどの重作業などさまざまだ。エンジンを載せて無事に始動すると…。いつも猛烈な感動を味わえる。もちろん「ホッとした」という感情も抑えきれないのだが…。
だがしかし、以前、エンジンを降ろした際、オーバーホールしてすべてを組んでエンジンを掛けたあとにクラッチが繋がらないことがあった。
なんと大チョンボでクラッチ板を逆さまに組んでおり、またもやエンジンを降ろす羽目に…………。
そういうこともあるから、大人数で作業する場合は、みんなで確認することがものすごく重要なのである。
今回はレストアの工程でもマニアックな内容の記事となってしまったが、意外と思っている以上に「エンジンを降ろす」ことは大変な作業ではない。
問題は場所と工具だろうか。
旧車に乗っていれば、周囲にエンジンクレーンなどを持っている人がいるかもしれない。
事実、ウチにもたまにエンジンクレーンを借りに来る人がいる(笑)。
ただし作業を行うのであれば、危険を伴う作業ゆえに自己責任で行う必要がある。
最初は見学からでかまわない。その後、詳しい人の指示を仰ぎながら作業を行うのがベストだと思う。
一度エンジンを降ろせば間違いなく、そこから別の世界が見える。
このハードルを超える機会があればぜひチャレンジしていただきたい。
旧車のレストアについて考える:過去記事一覧
https://current-life.com/column/yuda-restore-columm-part5/
https://current-life.com/column/yuda-restore-columm-part4/
https://current-life.com/column/yuda-restore-columm-part3/
https://current-life.com/column/yuda-restore-columm-part2/
https://current-life.com/column/yuda-restore-columm-part1/
[ライター・撮影/ユダ会長]