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更新2018.03.20

なぜボクは試乗を行うのか?その2つの理由を考えてみた

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JUN MASUDA

ボクは試乗が大好きだ。

ボクが試乗を行う理由は2つある。

1.単に購入の候補としてそのクルマに乗ってみる(乗ってみたい)場合
2.具体的に購入を考えていないとしても、そのクルマに採用されている技術に興味を持っている場合

である。

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自分で運転してはじめて理解できることがある



1つ目の理由「購入の判断」について、目的はいたって簡単だ。
そのクルマを買っても問題がないかどうかを判断するために乗る。それだけだ。

ただし、これはかなり重要な行為であり、クルマには「乗ってみないとわからない」ことがたくさんある。
つまり「数字や見かけだけでクルマは判断できない」ということだ。

たとえば「人」も同じだと思う。
人は数字だけで判断できず、たとえば「身長190センチで、体重85キロの男性」というスペックだけを見て、バスケットボールを得意だと判断するのは早計だ。
同様に、「190センチで体重150キロ」だからといって相撲が強いとは限らない。

「数学のテストで100点」を取る人が「勉強ができる」「数学が得意」と断じることもできない。
もしかするとほかの教科は弱いかもしれないし、数学が苦手なのを克服しようと努力した結果の100点かもしれないからだ。

同様にクルマだって、「0-100km/h加速」が3.5秒だからといって「速いクルマ」だと言い切ることは出来ない。
たしかに3.5秒は速い。相当に速い。
だが、それはマニュアル・トランスミッションで達成される3.5秒なのか、ATで「アクセルを踏むだけ」で達成される3.5秒なのかによっても意味は異なる。

たとえば、メルセデスAMG最上位サルーンであるS63 4MATIC  Longの0-100km/h加速は3.5秒だ。
対してメルセデスAMG渾身のピュアスポーツカー「GT」シリーズのトップレンジ、AMG GT Rの0-100km/h加速は3.6秒である。
しかし、AMG S63 4MATIC  LongのほうがAMG GT Rよりも速いとは言い切れないのだ。

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速さとは単に加速のみで語られるものではないし、「0-100km/h」に至るまでの過程、つまり「加速前半や出だしが速いのか」または「後半の伸びがスゴいのか」によっても速さの質は全く異なる。
さらに「サーキットでの”速さ”」という観点だと、また違った見方もできるはずだ。

そして、こういったことは「乗ってみないと」わからない。
同じような加速タイムでも、音もなくショックもなく加速してゆくクルマもある。
そして、ライオンのような咆哮とともに、ガッツンガッツンとシフトチェンジのショックを感じさせながら前へ前へと進むクルマもある。

そして、どちらが好みに合っているかはそのクルマに乗ってみて、自分自身でアクセルを踏み、ステアリングホイールを操作してみるまではわからない。
たとえばお見合いにおいて(その経験はないが)、釣り書が自分の好みにマッチしていても実際の人物がそうでない場合もあるだろうし、その逆もあるということだ。

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クルマに採用される機能やデザインには理由がある



試乗をする二つ目の理由、「その技術に触れてみたいから」ということを考えてみよう。

自動車の歴史において、いくつかエポックメイキングな技術がある。
ターボやスーパーチャージャー、4WDといったものから、デュアルクラッチやドライブモードといった技術、そして少し先になると「ドアミラーの代わりに後方確認用のカメラ」も後に語り継がれることになるだろう。

例を上げてゆくとキリがないが、ここでは「ドライブモード」について触れてみたいと思う。

ドライブモードとは、エンジンのアクセルに対するレスポンス、シフトプログラムを「モードによって」変化させることに端を発したと記憶している。
たとえば、通常は「ノーマルモード」で走り、「スポーツモード」に入れた場合、たとえノーマルモードと同じアクセルの踏み代であったとしても加速性能が向上したり、ATではシフトチェンジのポイントが上げられる(たとえば2000回転から4500回転に、など)、という具合だ。

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最近のドライブモードにおいてはサスペンションの硬さや、ステアリングホイールの重さ、エキゾーストシステムのサウンドまで関連させ変動させるのが一般的だ。

こういった「ドライブモード」について、それを体験することによって見えてくる事象がいくつかある。
そして、それらについて考えることがそのクルマへの理解を深める、ボクは考えている。
「ドライブモード」だと、なぜこういったモードを自動車メーカーが採り入れるようになったのか、ということだ。

ボクは、その主な理由として、いくつか要素があると考えているが、それらには密接な関係があるとも推測している。

まず、エンジンやシャシーコントロール技術の向上によって、クルマにおける(セダンやスポーツカーといった)カテゴライズが意味をなさなくなってきている、ということだ。

今やセダンやSUVであっても、スポーツカー並み、いやそれ以上の出力を持つエンジンが与えられるようになった。
こういったエンジンの搭載は、可変サスペンションのようなテクノロジーの普及によって実現されたものだ。
サスペンションの設定が「固定」の場合、セダンやSUVのような「柔らかい」足回りでは高速走行やGのかかる状況に対応できない。
だが、サスペンションを電子的に「硬くする」ことや、高速走行時に車高を下げることでスポーツカーに近いコントロール性を獲得することも可能になった。

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そして自動車を取り巻く環境についても無視できない。
今や、クルマの社会に対する責任や、環境問題に起因して、スポーツカーにて運転を楽しむことは「悪」になりつつあると言ってもいい。
だからといってスポーツカーメーカーはスポーツカーを作ることをやめるわけにはゆかない。
しかしながら、社会に対する「免罪符」が必要だ。
その免罪符とは、アイドリングストップだったり、気筒休止システムであったり、低回転でポンポンとシフトアップするプログラムであったりする。
だがそれらはスポーツカーメーカーにとっては「本意」ではないだろう。
そこでスポーツカーメーカーは「ドライブモード」によって、本来あるべき姿を引き出せるようにしたのだろう、とボクは考えている。

さらに購買層の変化も無視できない。
上で触れた2つとも関係するが、セダンやSUVのハイパフォーマンス化、スポーツカーのコモディティ化によって、それまでセダンやSUVを買わなかった人がそれらのクルマを買うようになったり、今までスポーツカーを購入しなかった人もそれを手に入れるようになった。
つまりセダンやSUVに「快適性」だけを求めたりしないし、スポーツカーに「スポーツ性だけを」求めたりしなくなった、ということだ。
ユーザーの好みが多様化し、より多くの要素をクルマに求めるようになったと言ってもいい。
そういった幅広い要望をカバーするために、各自動車メーカーはドライブモードを取り入れているのだろう。

こういった「なぜその技術が採り入れられるようにあったのか」を考えることは、ボクにとっては非常に楽しい作業だ。

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余談ではあるが、もうひとつメーカーの考え方のわかる例として、「シート位置」を挙げてみよう。
たとえば、ロータスの左右シートは「極端に」寄っている。
ほぼ左右シートが触れんばかりの配置だ。
これは「車の幅が狭いから」ではない。
たとえばエキシージだと幅が1800ミリあるから、もうちょっと余裕のある配置でもいいはずだ。
だが、ロータスは「ロールセンターをできるだけ集中させる」ために左右のシートをギリギリまで寄せている。

反面、レンジローバーのシート左右は「離れて」いる。
ゆったりとした空間を演出したいという意図もあるかもしれないが、聞いたところでは「レンジローバーはオフローダーだから、ウインドウを開けて、下を向いて路面を確認しながらゆっくり走行する場面もある(崖のようなシーンかもしれない)。だから路面を確認しつつ運転できるよう、シートを車体の外側に近い位置へと配置している」のだそうだ。

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両者はシートが「中央に寄っている」「左右で離れている」という両極端なレイアウトであるが、それぞれのメーカーのアイデンテティを反映した確固たる理由があり、それはブランドのルーツでもあり信念だとも言える。

メーターやスイッチの配置にしても「なぜここにこの表示なのか、なぜここにこのスイッチがあるのか」、その理由を試乗しながらボクは考える。

そして、そういった作業は「試乗をしてみないと」絶対にできないものだとボクは考えている。

[ライター・撮影/JUN MASUDA]

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