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更新2021.03.10
ハンドメイドによる「アルミのイオタ」の生みの親が「6輪F1マシン製作」に掛ける想いとは[vol.2]
松村 透
「ランボルギーニ イオタ?」「アルミを使ってボディをたたき出しで造っている??」
「イオタ」と「アルミを使い、ボディをたたき出しで造っている」。この2つのキーワードがすぐに頭のなかで結びつかないほど、私自身、現実味があるようには思えなかったことも事実。
その後、実際にお邪魔できることになり、茨城県水戸市にある巴自動車商会/カスタムビルド&レストア WATAHIKIにお邪魔したのが昨年の12月。そのときの模様(vol.1)がこちらです。
ハンドメイドによる「アルミのイオタ」の生みの親が「6輪F1マシン製作」に掛ける想いとは
https://www.gaisha-oh.com/soken/watahiki-tyrrell-p34-ep1/
前回の取材から2ヶ月。6輪F1マシンことタイレルP34の進行状況を拝見すべく、ふたたび巴自動車商会/カスタムビルド&レストア WATAHIKIに行ってまいりました。
■YouTubeではリアフレームまわりを紹介してくださっていますが、前回(昨年12月の時点では40%とのことでした)から進んだところを教えてください
▲カスタムビルド&レストア WATAHIKI代表の綿引雄司氏と製作中のタイレルP34
リヤラジアスロッドやロアアーム類を作っていますが、まだ寸法が決まっていないので、その点が少々難航していますね。結果として、造りながら寸法を割り出しています。
オリジナルのタイレルP34は、DFVエンジンおよびミッションがフレームの役目を果たしています。その結果、これより後方にはフレームがなく、足回りのみという設計です。そのあたりを考えながら作っていくのが時間もかかるし難しい。
■前回の取材時、設計図の代わりに型紙をお使いだと伺いました
▲タイレルP34が完成した際には、実際にコクピットに座れるようにしたいと語る綿引氏。これは楽しみ!
型紙は外板のボディーを作るときに使うもので、フレームなどの図面は簡単なものを作図していてます。自宅に帰宅後、アイデアが浮かんだときは、その場で簡単なイメージ図を書いて、翌日、作業場で車体を測りながら寸法を割り当てていきます。その際、簡単な設計図を作図します。そしてその図面をみながら実行します。
▲このようなイメージ図を元に、タイレルP34の各部品が生み出されていくのだ!(画像提供:綿引雄司さん)
▲工場内に置かれた工具類と、アルミ板の端材。改めて手作りのマシンであることを実感します
■市販車から流用しているパーツ、車名を教えてください
▲タイレルP34の特徴である「フロント4輪タイヤ」がよく分かるショット
タイレルP34は6輪ですし、まずハブをどうするかを考えることからスタートしました。
そこで思いついたのは、クラシックミニのフロントハブ(10インチキット)を使う案。このキットを使えば10インチで収まるだろうと考えたんです。そしてステアリングのギアボックスはポルシェ911、今回はナロー時代のものを流用しています。ポルシェの部品は精度がいいし、使いやすいですね。リアホイールはスペーサーやアタッチメントを組めば使えるだろうと判断し、センターロックで固定するF3000用のものを購入しています。そして、エンジン&ミッションはGSX1300R ハヤブサのものを流用しました。重量が軽く済むし、簡易に組むことができるメリットがあります。
▲エンジン&ミッションはGSX1300R ハヤブサのものを流用
デフはスズキ カプチーノ、ドライブシャフトおよびリヤハブはランチャ デルタ インテグラーレ用の流用です。 リアサスは、スズキのGXS-S1000というネイキッドタイプのバイクのモノサスの長さがネット上に記載されていたのを確認して流用することに決めました。幸いオークション上で長さが記載されていて「この寸法ならいけるかな」と判断し流用しました。
ドライブシャフトは4本のボルト&100ピッチで留まっているので、同じ4穴100ピッチでつながるディスクをネットで調べてみたんです。すると、その条件だけ当てはまるパーツがいくつか見つかった。ただ、オリジナルのタイレルP34のリヤディスク径が265mmと言われているのに対し、製作中のタイレルは235mmまでしか収まらないことが後々発覚します。※オイルクーラーも試作のためにいくつか購入してみてみましたが、結果的にサイズが合わず使えませんでした。そこで、ユーノス ロードスター(NA型)をはじめ、マツダ車が当てはまることがわかり、ブレーキディスクなどNAの部品を買ってみることにしたんです。
■現時点で「うまくいった箇所」や「特に苦労した箇所」を教えてください
▲真後ろからの眺めはまさにフォーミュラーマシンそのもの。サーキット場のピットかと錯覚してしまいそうになります
リアのフレームまわりは数値も合ってきたし、形もイメージ通りに仕上がったと思っています。ただ、サスペンションまわりは今のところただのパイプを溶接したもので、あくまでも暫定仕様です。寸法を図りながら模索している最中ですね。
取り付けるステーやロアアームの位置はタイレルP34のモデルカー通りになっていますが、そこからアッパーアームはどの辺に取り付けようか、はたまた自分が作ったフレームに合うか…などなど難題が山積しています。そのため、一度仮り付けしたもののやり直すだけでなく、プレート自体を作り直すこともあります(6mmの厚みのプレートなので、カットしたり穴あけしたりするのは結構大変です)。
■現在の完成度はどれくらいですか?
▲カウルを装着すると、よりフォーミュラーマシンの雰囲気が感じられます
50%くらいでしょうか。大枠を造り上げるところまではある程度のペースで進むと思うんです。問題は細部の煮詰めですね。6月20日のイベントに間に合わせるべく、詳細を詰めるのにそれなりの時間を要すると思います。例えばリアホイールのスペーサーなど、1cmや5mm単位で合わせていく必要があります。この図面に関しては専門の人に依頼しようかと思っています。また、ラジエーターについても適切な寸法のものをつくってくれる人を確保しています。(私有地内とはいえ)走らせることを前提に組んでいますから。
■6月20日のイベント出展時はver1.0。その後もアップデートしていきたい
▲地面すれすれの位置から撮影したタイレルP34
スタジオジブリの宮崎駿監督は「結末を決めずに作品(映画)を作りあげていく」と聞いたことがあります。私の手法もそれに近いかもしれません。今回であれば「ハンドメイドでタイレルP34を造り上げて、実際に走らせる」というゴールは決めていますが、作りながら試行錯誤していくうちに完成形が見えてくるわけです。宮崎監督も「このテーマで映画を公開する」というゴールは決まっていても、ストーリーは作りながら考えていくわけですよね。
▲実車を製作するにあたり、模型のタイレルP34も参考にしているのです
ただ、映画の場合は完成したら修正することは難しいと思うんです。しかし、私が造ろうとしているタイレルP34は、その気になれば永遠にアップデートが可能なわけです。まず6月20日のイベント出展時は"ver1.0"としてお披露目し、それ以降、バージョンアップを繰り返していくつもりです。その間に、他に造りたいと思っている作品に着手してしまうかもしれませんが。自分のなかで「次に造りたいもの」は決まっていますが、現時点ではまだヒミツです(笑)。
■YouTubeチャンネルをはじめようと思ったきっかけは?
ふとハードディスクに保存されている画像を見てみたら、今まで自分がやってきた仕事の履歴が蓄積されていることに気づいたんですね。そのまま誰の目にも触れないよりは…と思い、保存(記録)の意味も兼ねてYouTubeに公開してみようと思い立ったんです。
▲工場には他にもレストア中のクルマも多数
ただ、過去の画像だけではいつかネタ切れになってしまいます。そこで、今までもお客さんから預かったクルマの整備と並行して、自身でレストアしている"プロジェクトカー"的なものは随時存在していたが、普通の旧車は見慣れてきてしまっている感もあったので、ここらへんで変わった目玉になるような1台を!と思いタイレルにチャレンジ。何もないところから作り出してみたかった。YouTubeのネタとしてもいいかなと思い、タイレルP34の制作に着手した経緯があります。お陰さまで登録者数も順調に伸びてきています。
■綿引さんがいま、(新車で買えるなかで)気になるクルマはありますか?
▲敷地内に置かれたポルシェ911
すぐには思い浮かばないですねぇ…。最近のクルマは誰でも乗れるような感じになっていて、旧車のような「自分じゃないと乗れない」みたいなクセの強さが希薄に感じます。
■綿引さんにとって、アガリのクルマはありますか?
▲オーナーの911をよく見るとこのようなステッカーが
ディーノ、ジャガー E-type、ポルシェ…。アガリの1台として挙げられることも多いクルマに乗れる機会に恵まれてきたので…。そういう意味では、自分で作ったクルマをアガリのクルマとして、ナンバーを取得して乗り回してみたい…というのが目標なのかもしれません。
■取材後記
▲色味を調整してアルミ素材が持つ美しさを強調。人の手によって生み出したシルエットは、機械では表現できない趣きすら感じさせます
2021年6月20日開催予定の「サンブレフェスタ(道の駅おおた/群馬県太田市)」のお披露目に間に合わせるべく、本業の合間にタイレルP34の製作に打ち込む綿引さん。ハンドメイドゆえ、手探りなのはもちろんのこと「三歩進んで二歩下がる」こともある模様。完成したらコクピットに乗り込むことも可能(実際に乗ってもらう前提で製作中)なので、将来、綿引さんが製作したタイレルP34に触れたことがきっかけとなり、フォーミュラーマシンのドライバーになったり、プロのカーデザイナーとして世界で活躍する人が現れる可能性も充分に考えられます(また、そうであってほしいと個人的にも強く願っています)。
完成お披露目まであと3ヶ月…。近々、もう一度巴自動車商会/カスタムビルド&レストア WATAHIKIにお邪魔して、進行状況をレポートしたいと思います。ぜひご期待ください!
■巴自動車商会/カスタムビルド&レストア WATAHIKI 店舗情報
住所:〒310-0912 茨城県水戸市見川3-528-2
TEL:TEL/FAX 029-243-0133
URL:http://cbr-watahiki.com
お問い合わせ:http://www.cbr-watahiki.com/mail.html
●綿引さんのYouTubeチャンネル"cbrwatahiki"
「アルミのイオタ」および「タイレル P34」の製作風景も紹介されています
https://www.youtube.com/user/cbrwatahiki/featured
フェルッチョランボルギーニムゼオ Facebookページにて、綿引さんとご自身が製作された「アルミのイオタ」が紹介されています。
https://www.facebook.com/MuseoFerruccioLamborghini/posts/2424992091078410
こちらの画像は事務所に置かれた「アルミのイオタ」のオブジェ。実際に綿引さんが手掛けたイオタとともにトリノ国立自動車博物館に展示されたのです!
[お知らせ]
本日(3/10)発売のベストカー誌において、自動車評論家小沢コージ氏の名物コーナーである『愛のクルマバカ列伝』に綿引さんが紹介されているとのことです。こちらもぜひご覧ください!
https://bestcarweb.jp/
[ライター・撮影/松村透]