試乗レポート
更新2023.11.22
W116好き必見、メルセデスベンツ280Sモデルの試乗レポート
中込 健太郎
秋だからキャブレターのクルマに乗りたい!!
ここ一年ほどキャブレターのクルマとともに暮らしてきて、その自然にエンジンに燃料が送り込まれる感じ、のどかな印象はなかなか良いものだと気に入っておりました。今回、大変珍しいメルセデス・ベンツで初めてSクラスを標榜したW116型のキャブレター仕様「280S」に試乗させていただく機会を得ました。メルセデス・ベンツのキャブレター車とはどのようなものか?どれほど違うのか?実は最近乗った車のなかで、この「W116」がもっともワクワクしたクルマの一台であると言って良いでしょう。せっかくなので、ここに少しインプレッションをまとめておきたいと思います。
まず、運転席に座ると過剰なほどに大きいステアリングと、遊びは少ないものの整然としかるべきスイッチだけが並ぶウッドの操作盤が私を迎え入れてくれました。この頃から樹脂製のパーツが見受けられるようになりました。おそらく歴史的に見れば、このクルマのそうした部分に、多くの失望の声が集まった時期もあったのかもしれません。しかしその実態は、住宅建材用のスイッチに使われるような、いかにも中身の密に詰まった、しっかりとした押し心地、触り心地のあるものがほとんど。「W116」のその風合い自体に時代を感じ、メルセデスクオリティの片鱗を見たような気がいたします。
イグニッションをひねると、たちまち目を覚ます直列6気筒エンジン。アクセルを踏み足してやったり、という心配はまったく無用なのです。ポロロンとエンジンがかかると、そのアイドリングは軽やかで「さあ出かけよう」と思わせる雰囲気。今の最新のクルマにはない、あの「お出かけへの誘い」は一体なんなのでしょうか。このクルマでも感じることができました。ドライブにいれて走り出すと、さすがに旧弊な3速AT、そのだいぶ「標高の高いところまで」一気に登ってしまう感じは少し違和感を覚えないではありませんでしたが、その分大してパワフルでもないであろうこの2800ccのエンジンで、コンパクトではないボディを軽やかに加速させていくのです。「W116」は変速ショックも小さく今の道路事情にもしっかり追従していくパフォーマンスを持っています。
このシリーズ主力はV8エンジンですし、今以てメルセデス・ベンツ最大の6900ccのエンジンの設定まであっただけに、余裕綽々というわけにはいきません。しかし、まったく不足ということはなく、この車のキャラクターとしては、これ以上のパワーは不要だと思うほどでした。鼻先が軽く、大きなハンドルは相当に敏感なはずのステアリングに遊びを持たせ、街中での取り回しを向上させるのに、大いに貢献しています。ここは無理だろうという世田谷区、大田区あたりの路地の角も、するすると鼻先を収めていきます。
そして一度大きな道に出ると少しリアを沈ませて、ひと呼吸おいて加速していくさまは、波の穏やかな場所で小型ボートにでも乗っているかのよう。爽快で、おおらかな気持ちになれるものです。そしてその絶妙なステアリングとの相性がよく車線変更も望外クイックにこなしていくのです。そしてブレーキ。「ほわん」とソフトなタッチながら、意図したところでしっかり止まる。さすがメルセデスだと思いました。
メルセデス・ベンツの素晴らしいところは最近のモデルに乗っても、しっかりとブレることなく、まっすぐ加速して、意図した方に曲がり、余分にハンドルを切ることを必要とせず、意図したところで「耳を揃えて」停止することですが、このクルマに乗ってみて、その先の「行間の味わい」があるのが印象的でした。操作感覚に重厚さはあるのですが「すべてが軽やか」なのです。まるで昔のフランス車に乗っているかのような感覚」なのです。もしかするとオレンジの可愛らしささえ感じる内装がそう感じさせたのかもしれませんが。なによりもどこまでも走っていたいと思わせたこと。メルセデスでありがちな「全てまかせた」とは違う、ドライバーとして、ツーリストとして「そこはかとなく遠くまで乗っていたい」感じはドイツ車というより、フランス車の流儀のようなものを感じさせてくれました。
たまたま乗せていただいた時季が秋深まる10月中旬でしたが、このメルセデス・ベンツ(W116)は一言で言えば、とても「秋の似合うクルマ」だと思いました。しかしこれはほかの時季、お呼びでないというラテンのクルマの「時季を選ぶ」のは異なり、クルマのゆとりで季節を敏感に感じることのできるクルマなのではないか、そんな風に思うのです。そしてこういう気づきから、メルセデス・ベンツの、さらにはドイツ車の奥深さのようなものを、なるほどと感じさせてくれたような一台でした。
[ライター・カメラ/中込健太郎]
ここ一年ほどキャブレターのクルマとともに暮らしてきて、その自然にエンジンに燃料が送り込まれる感じ、のどかな印象はなかなか良いものだと気に入っておりました。今回、大変珍しいメルセデス・ベンツで初めてSクラスを標榜したW116型のキャブレター仕様「280S」に試乗させていただく機会を得ました。メルセデス・ベンツのキャブレター車とはどのようなものか?どれほど違うのか?実は最近乗った車のなかで、この「W116」がもっともワクワクしたクルマの一台であると言って良いでしょう。せっかくなので、ここに少しインプレッションをまとめておきたいと思います。
まず、運転席に座ると過剰なほどに大きいステアリングと、遊びは少ないものの整然としかるべきスイッチだけが並ぶウッドの操作盤が私を迎え入れてくれました。この頃から樹脂製のパーツが見受けられるようになりました。おそらく歴史的に見れば、このクルマのそうした部分に、多くの失望の声が集まった時期もあったのかもしれません。しかしその実態は、住宅建材用のスイッチに使われるような、いかにも中身の密に詰まった、しっかりとした押し心地、触り心地のあるものがほとんど。「W116」のその風合い自体に時代を感じ、メルセデスクオリティの片鱗を見たような気がいたします。
イグニッションをひねると、たちまち目を覚ます直列6気筒エンジン。アクセルを踏み足してやったり、という心配はまったく無用なのです。ポロロンとエンジンがかかると、そのアイドリングは軽やかで「さあ出かけよう」と思わせる雰囲気。今の最新のクルマにはない、あの「お出かけへの誘い」は一体なんなのでしょうか。このクルマでも感じることができました。ドライブにいれて走り出すと、さすがに旧弊な3速AT、そのだいぶ「標高の高いところまで」一気に登ってしまう感じは少し違和感を覚えないではありませんでしたが、その分大してパワフルでもないであろうこの2800ccのエンジンで、コンパクトではないボディを軽やかに加速させていくのです。「W116」は変速ショックも小さく今の道路事情にもしっかり追従していくパフォーマンスを持っています。
このシリーズ主力はV8エンジンですし、今以てメルセデス・ベンツ最大の6900ccのエンジンの設定まであっただけに、余裕綽々というわけにはいきません。しかし、まったく不足ということはなく、この車のキャラクターとしては、これ以上のパワーは不要だと思うほどでした。鼻先が軽く、大きなハンドルは相当に敏感なはずのステアリングに遊びを持たせ、街中での取り回しを向上させるのに、大いに貢献しています。ここは無理だろうという世田谷区、大田区あたりの路地の角も、するすると鼻先を収めていきます。
そして一度大きな道に出ると少しリアを沈ませて、ひと呼吸おいて加速していくさまは、波の穏やかな場所で小型ボートにでも乗っているかのよう。爽快で、おおらかな気持ちになれるものです。そしてその絶妙なステアリングとの相性がよく車線変更も望外クイックにこなしていくのです。そしてブレーキ。「ほわん」とソフトなタッチながら、意図したところでしっかり止まる。さすがメルセデスだと思いました。
メルセデス・ベンツの素晴らしいところは最近のモデルに乗っても、しっかりとブレることなく、まっすぐ加速して、意図した方に曲がり、余分にハンドルを切ることを必要とせず、意図したところで「耳を揃えて」停止することですが、このクルマに乗ってみて、その先の「行間の味わい」があるのが印象的でした。操作感覚に重厚さはあるのですが「すべてが軽やか」なのです。まるで昔のフランス車に乗っているかのような感覚」なのです。もしかするとオレンジの可愛らしささえ感じる内装がそう感じさせたのかもしれませんが。なによりもどこまでも走っていたいと思わせたこと。メルセデスでありがちな「全てまかせた」とは違う、ドライバーとして、ツーリストとして「そこはかとなく遠くまで乗っていたい」感じはドイツ車というより、フランス車の流儀のようなものを感じさせてくれました。
たまたま乗せていただいた時季が秋深まる10月中旬でしたが、このメルセデス・ベンツ(W116)は一言で言えば、とても「秋の似合うクルマ」だと思いました。しかしこれはほかの時季、お呼びでないというラテンのクルマの「時季を選ぶ」のは異なり、クルマのゆとりで季節を敏感に感じることのできるクルマなのではないか、そんな風に思うのです。そしてこういう気づきから、メルセデス・ベンツの、さらにはドイツ車の奥深さのようなものを、なるほどと感じさせてくれたような一台でした。
[ライター・カメラ/中込健太郎]