更新2022.05.29
フランス在住35年のタカさんが往復1500kmの相棒にVWパサート ヴァリアントを選ぶ理由とは?
守屋 健
みなさん、こんにちは!今回はフランス在住で、フォルクスワーゲン・パサート ヴァリアントを愛車としているタカさんのインタビュー記事をお届けいたします。
筆者とタカさんはある仕事がきっかけで知り合ったのですが、その際に「フランス車を乗り継いできたけど、今はドイツ車に乗っている」ということがわかり、インタビューをお願いしたところ快く引き受けてくださいました。写真はすべてタカさんから提供していただいています。
フランスに長く住み、様々な経験をされてきたタカさんのお話はとても興味深く、読み応えのあるインタビューになったと自負しています。ぜひ最後までじっくりとご覧ください!
■往復1500kmの相棒はVWパサートヴァリアント
――自己紹介をお願いします
タカ:タカといいます。現在は58歳で、通訳と輸出入代行の仕事を行っています。フランスには住みはじめて35年になります。
――現在の愛車について教えてください
タカ: VW パサート ヴァリアントで、2007年式です。ディーラーで新古車を購入して14年間所有し、現在の走行距離は10万2千kmですね。実はこのクルマ、ディーゼルエンジンなので、売り時を逃してしまったというのが正直なところです。このまましばらくは乗り続けようと思っています。
普段は買い物などに使用していて、稀に輸出入商品の運搬、顧客の空港送迎などにも使っています。ステーションワゴンっていうスタイルは非常に合理的で、普段の買い物にもバカンスにも仕事にも、何にでも使えるのがいいですね。夏季バカンスで南仏に、冬季バカンスはアルプスに行くことが多いので、その度に往復1500kmほど走ります。
――相当な距離を走りますね!
タカ:ヨーロッパの自動車雑誌には「長距離走るときに疲れるか疲れないか」という価値基準があって、簡単に言えば「疲れないクルマがいいクルマ」なんです。いわゆるグランツーリスモ的性能が常に求められている。そうした観点からも、パサートは信頼性が高くて気に入っています。
――今までの主な愛車遍歴について教えてください
タカ:シトロエン・エグザンティアが初めてのフランス車でした。8万kmの中古車を購入して乗りましたが、2年程乗って10万kmになる直前に売却しました。油圧サスペンションなどが面白かった印象があります。
その後はプジョー・406に乗りました。3万kmほど走ったの中古車を購入して、7年間所有し、およそ10万kmまで乗ったところで売却しました。足回りが良くて、長距離運転でも快適なクルマでしたね。
そして、ルノー・エスパス。帰国する友人から中古車を購入しました。小さな子供が2人いたので、いろいろと重宝するクルマでしたが、故障が多かったです。後年になってフランスの自動車雑誌でもエンジンや電子制御系、特にインジェクションまわりが酷評されているのを読みました。
――シトロエン、プジョー、ルノーと、すべてのフランス車メーカーを乗り継いだのですね
タカ:でもやっぱり共通点があって、フランス車ってシートというか、全体的に乗り心地が柔らかいですよね。フランスに初めて来たときにタクシーに乗ったのですが、あまりに乗り心地が柔らかくて驚いた記憶があります。
――以前お話を伺ったときに、フランス車に比べてドイツ車は壊れない、とおっしゃっていましたが、その他にも何か違いを感じることはありますか?
タカ:最近はフランス車も剛性が高くなって、高速走行時やカーブでの安定性が良くなったと聞いています。ドイツ車との差は小さくなったのかもしれません。しかし2000年代初め頃までは、独仏車間の剛性や足回りの堅牢性には大きな差があったと思います。1990年代のフランス車からドイツ車に乗り換えたときには、その剛性の違いに驚きました。
――それについては同感ですね。近年のドイツ車の乗り心地は、かつてのフランス車的というか、どちらかというと柔らかい乗り心地に変化してきていると思います
タカ:今から考えると、すべてを柔らかく仕上げるクルマ作りは、フランス車の個性だったのかもしれません。最近は、各国のクルマが画一的になってきて個性がなくなってきたなと感じます。フランス車のデザインは相変わらず独特ですが……。
■驚きのフランス道路事情とは?
――同感です!ここからはフランスの交通事情についてお聞きしたいと思います。フランスの道路を走行するときに、特に注意しなければならないポイントや、ヨーロッパの他の国・日本などと大きく異なる点はありますか?
タカ:ウインカーを出さなかったり、車線を跨いで運転したりと、ルールを守らない運転者が多いので常に注意が必要です。自分が正しく運転していても事故に巻き込まれることがあります。また基本的に信号がない交差点では右から侵入してくるクルマが優先なので、常に右側に注意を払わないといけません。これに慣れるだけで運転がかなり楽になります。
またフランスでは、路上の縦列駐車は要注意です。縦列駐車の際に前後の車にバンパーが触れるのは当たり前と考えているフランス人が多いからです。バンパーはぶつけるためにある、と考えているのかもしれません(笑)。自分が注意していても前後に駐車する車がぶつけてきますから、新車のバンパーを傷つけたくないドライバーは有料駐車場に入れた方が無難ですね。
――その話、日本でも聞いてはいたのですが、冗談ではなく本当にある話なのですね
タカ:本当にある話ですよ。さらに信じられないことに、人がクルマに乗っていても、こつんと押して無理やり縦列駐車をしてきますからね!
――トラブルにはならないですか?
タカ:もちろん口喧嘩はしますが、あまり補償とかそういったトラブルに発展しないですね。私も乗っているときに後ろから押されたことがあって、もちろん文句を言いに行きましたが、その時に相手からは「いや、人が乗っているとは思わなかった」と言われました。そのときもそれで終わりです。
――日本の価値観からしたら考えられないですね
タカ:価値観の違いと言えば、ちょっとすごい話を聞いたのが、排気量が大きなクルマを買う理由が「小さなクルマを縦列駐車のときに押せるから」という(笑)。すごい国だと思います。
それから、フランスの運転するときに最初に言われたのが「アイコンタクトが大事」だということ。運転手なり、歩行者なり、とりあえず顔を見て、どうするかを判断する必要があります。ルールに従うというよりは、より直感的な判断が求められる感じですね。ラウンドアバウトでの走り方もよりアグレッシブなので、それを見ているとこちらでモータースポーツが発達した理由がわかるというか。価値観がまったく違うと思います。
――タカさん自身がフランスで運転していてよかったこと、印象的な出来事があれば教えてください
▲アゲイの風景
タカ:フランスに限らず、欧州ではバカンスなどで長距離移動をクルマで行うので、運転できることによって行動範囲が格段に広くなりました。鉄道で行けないような綺麗な田舎がたくさんあるフランスにおいては、クルマで動けるというのは大きなメリットです。
旅の途中で寄り道をして、あまり人が多くない村に立ち寄って、綺麗な景色とおいしいレストランを楽しむ。そんな旅のスタイルがブームになっているのですが、それをするにはやはりクルマがないと難しいですね。
――鉄道網がどんどん廃止されている今、郊外や田舎でのクルマの重要度はより増しているかもしれませんね
■都市部で急速に進むEVシフト
――一方パリでは、自動車の速度制限を原則30km/hにしたり、排ガス規制をより厳しくしたりすることで、内燃機関車の市中心部乗り入れを制限する方向に進んでいます。それに対しての市民の反応はどういったものでしょうか?また、タカさん自身はどうお考えですか?
タカ:パリの交通政策に対する市民の反応は賛否両論です。パリ市民の多くは『社会党』を中心とした左派と『緑の党』の連立政治を支持していますが、郊外からパリへの公共交通手段がイマイチ充実していないので、郊外からクルマで通勤している人にとって、乗り入れを制限されることは大きな問題となっています。
フランスでもEV購入時に約1万ユーロの補助金があるのですが、経済的に誰もが最新の電気自動車を購入できるわけではないので、公共交通網を充実させてから段階的に自動車制限をしてほしいところです。
現在グランパリ計画という交通網整備を柱とした首都圏都市整備計画(全計画の工事は2030年代に終了予定)が進行中です。この計画によってパリ郊外の交通網が充実したり、ビジネス街が郊外に分散したりできれば、クルマの乗り入れの問題は改善されるかもしれません。それまではマイカー通勤族にとっての苦難の時代が続きそうです。
――今年の4月にパリに行った際、電動キックボードのシェアリングサービスを数多く見かけましたが、クルマのシェアリングサービスも同様に普及しているのでしょうか?またそれによって、都市部ではクルマを持たないような人は増えているのでしょうか?
タカ:2011年~2018年まで、パリと近郊には『Autolib’s(オートリブ)』という小型電気自動車の公共シェアリングサービスがありました。パリでは利用者も多く大人気でした。その理由は、自治体の助成金が多く投入したことで料金が安かったからです。結果 多くのパリ市民がマイカー所持をやめました。しかし毎年5000万ユーロもの赤字が続いたため、2018年にサービスが終了してしまいました。
以前、東京オリンピックにも自動運転バスを納入した実績のある自動運転電気バスメーカーの『Navya(ナブヤ社・リヨン市)』の代表者に直接お話を聞いたことがありますが、小型自動運転バスなどによって大都市郊外の『最寄り駅まで1Km問題』(最寄り駅まで1Kmを越える場所に住む人はマイカーを利用する率が上がる)を解決しないと、大都市への自動車乗り入れ問題は解決しないというお話でした。
パリ郊外の細かな交通網を安価な投資で実現する方策を見つけなければ、マイカー乗り入れ問題の抜本的解決は難しいと思われます。朗報は、コロナ禍で電車通勤を避ける傾向が強まり、自転車や電動キックボード通勤者が増えたことです。こうした交通手段も首都圏の交通問題解決に少しは役立っているのかもしれません。地方においては、公共交通網が発達していないのと、通勤のための移動距離が長いので従来の自動車を利用する時代はまだしばらく続きそうです。
▲シャモニーの風景
――私はまだフランスの高速道路を走ったことはないのですが、ドイツの高速道路を走行した経験がおありでしたら、印象の違いなどを伺いたいのですが
タカ:フランスの高速道路は、遅いクルマでも平気で追い越し車線を長時間走行することがあるので危ないです。ドイツ高速道路の運転経験は少ないですが、ドイツでは速度無制限の高速道路における追い越し車線の意味を理解したうえで運転している人が多いという印象を受けました。遅い車は必要最小限しか追い越し車線を走らない、というルールが徹底されていますよね。
フランスにはドイツと違って料金所もあるのですが、パリの場合、街の周辺約20km圏内には料金所なく、その中でしたら無料で走行できます。ちょっと田舎の風景になってきたな、という場所に料金所があって、そこから先は有料というシステムですね。大都市圏内は通勤や運送で使うエリアだと捉えて、その圏内の高速道路は無料にする、という考え方です。
■フランスの田舎を走破するには、現在のEVはまだ力不足
――タカさんがもしVWパサートから次のクルマに買い替える場合、電気自動車(EV)は購入の候補に入りますか?
タカ:いいえ。次に購入するクルマの候補はハイブリッド車ですね。1日800kmといった長距離を走ることがあるので、EVにするとバッテリーの持ちが心配です。特に冬季のことを考えると不安が大きいですね。そう言った意味では、EVはいまだ過渡期だというのが私の印象です。
――タカさんにとってクルマはどんな存在ですか?
タカ:移動のための道具です。ただし、長く乗りたいので頑丈なクルマが理想です。
――最後の質問です。ヨーロッパでは、自動車だけでなく、交通全体の大きな転換期を迎えています。タカさんはこれから先、クルマや交通はどんな方向性に向かって変化していくと思いますか?
タカ:欧州に限らず世界の『交通システム』は、AIの活用による自動化が進んで、人の介入する余地が少なくなっていくのではないでしょうか。先ほどの回答とは少し矛盾しているかもしれませんが、クルマに対する『フェチズム』や『運転する喜び』がなくなる・変わっていくということを考えると、19世紀末から150年程続いた化石燃料車時代の終焉を目撃しているようでノスタルジックな気分になります。
――本日はお忙しい中、たくさんの興味深いお話、ありがとうございました!
タカ:こちらこそ、ありがとうございました。
■インタビューを終えて
ヨーロッパ在住者ならではの視点で、多くのエピソードを語ってくださったタカさん。フランスではやはり「長距離を走る」ことが大前提で、現時点のEVの性能はまだそれを満たすまでに至っていない、というお話が特に印象的でした。
縦列駐車にまつわる話も、実際にフランスにお住まいの方に聞くと改めて「すごい話だな」と感じました。ちなみに筆者の住むベルリンでも路上の縦列駐車は日常の一部ですが、さすがにグイグイ押して入るまでのことはしないので、同じヨーロッパでも国ごとに違いがあるのも興味深いですね。それではまた!
[ライター/守屋健 写真提供/タカ]