更新2021.11.11
ドイツ本国でVWが開始したサブスクに見る「クルマの使い方の未来像」とは?
守屋 健
ドイツはカンパニーカー制度やカーリースなど、レンタカー以外の「クルマを借りて利用するサービス」が古くから発展していましたが、近年は自動車メーカー主体のサブスクリプションサービスの台頭も目立ってきています。2021年には、ドイツ自動車業界の巨人・フォルクスワーゲン(以下VW)がついにサブスクリプションサービスを開始したことで話題となりました。
今回は、VWのサブスクリプションサービスの内容を紹介しつつ、VWが描く「クルマの使い方の未来像」を紐解いていきたいと思います。
■ドイツに乱立するサブスクリプションサービス
VWが始めたサブスクリプションサービスの名前は、ズバリ「AutoAbo(アオト・アボ)」。ドイツ語でAutoはクルマ、AboはAbonnementを省略した形で、もともとは新聞や雑誌などの予約購読や劇場などの定期入場券を意味します。最近はバスや電車の年間契約定期券などもAboと呼ばれることが多いため、ひねりのないストレートなサービス名といえるでしょう。
ドイツではカーシェアリングも発達していますが、カーシェアリングが数時間や長くても数日間の利用を想定しているのに対し、サブスクリプションサービスは数週間から数か月間かけて利用することを念頭に置いています。一方で、多くのカーリースは年単位での契約が一般的であるため、サブスクリプションサービスは従来のレンタカーやカーシェアリングと、カーリースの間を埋めるサービスとして注目を集めています。
ドイツのクルマのサブスクリプションサービスは、もともとカーリースやレンタカーのサービスを行っていた会社が提供しているものと、自動車メーカーが提供しているもののふたつに大別できます。
前者で有名なものにはSixt、like2driveなどがあり、後者にはMINI、ボルボ、メルセデス・ベンツなどがすでに参入しています。日本でトヨタが提供しているKINTOもドイツで展開済みで、これらのサブスクリプションサービスサービスはすべて合わせるとおよそ40あり、これからもさらに増えていくと考えられています。
■「VWのサブスク」に垣間見える本音とは?
それでは、VW AutoAboのサービス内容を見ていくことにしましょう。
VWはEVモデルと従来からの内燃機関モデルの両方を提供しているものの、メーカーとしての主張は「とにかくEVに乗ってほしい」というもの。今回のサービス開始にあたり、最新車種であるID.3やID.4を2千台以上投入する予定で、それによりVWはドイツのサブスクリプションサービスの最大手のひとつに躍り出ることになります。
ID.3を借りる場合、最低契約期間は3ヶ月からで、月々の支払額は589ユーロ(約7万7千円)。しかし、最低契約期間を6ヶ月からにすると、月々の支払額は499ユーロ(約6万5千円)まで下がります。料金には充電にかかる費用以外はカバーされていて、具体的には車両の登録、車検、保守、検査、保険、税金が含まれています。
VW AutoAboのメリットは、メンテナンスの行き届いた最新車種を頭金なしで、7~14日後からすぐに乗れるということと、最低契約期間が過ぎたら月単位で簡単に解約できること、最低契約期間が過ぎたら別の車種に交換も可能ということ、といったことが挙げられます。特に車種の交換については、メーカー提供のサブスクリプションサービスではもっとも選択肢の幅が広いといえるでしょう。ステーションワゴンからバンまで選択できるのはVWならでは。また、セカンドドライバー、つまり複数の人が運転する場合でも、登録を無料で行えるのもポイントですね。
デメリットとしては、月々の無料走行範囲が800キロメートルと、競合他社に比べて少なめに設定されていることです。この距離を超えてしまった場合、1キロメートルあたり0.3ユーロの超過料金を徴収されます。もっとも、最初からかなりの距離を走ることがわかっていれば、無料走行範囲を1200キロメートル、さらに1600キロメートルに伸ばすオプションも用意されています(それぞれ39ユーロ、79ユーロが月々に加算)。
VWは、サブスクリプションサービスを利用すれば、修理や車検などの突発的な出費が抑えられコスト管理が簡単になるほか、家族が増えるなど状況が変わったときにクルマの乗り換えが簡単になったり、クルマの受け渡しや引き取りが玄関先でできるようになったりする点を「今までにないクルマの使い方」と強調しています。
■クルマは「所有するもの」から「使うもの」の時代へ
VWのセールスディレクター、Klaus Zellmer氏によれば、VWの売上の約20%は、2030年までにサブスクリプションやカーシェアリングによるものになると予測していているとのこと。つまり、単なる自動車メーカーとしてではなく、多種多様なサービスを提供する「モビリティサービスのプロバイダー」としても成長していく姿勢を見せています。
サブスクリプションサービスについても、インターネット上だけでなく、ドイツ全土に広がったディーラー網でも手軽に契約できるようにするなど、あらゆる場所・方法で同じサービスを提供していく方針のようです。
長らく、クルマは自らが所有して管理するものでした。これからは自分で持つのではなく、すでに万全の状態に管理されているクルマを、料金を払って利用する……そんな考え方がますます一般的になっていくのかもしれませんね。
[ライター/守屋健]