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更新2018.06.07
ヨーロッパで一番格式高い、エレガントさを競うコンクール「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステ2018」をレポート
林こうじ
コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステの紹介
コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステ(Concorso d’eleganza Villa d’este以下、ヴィラデステ)は、1929年から行われているイタリア・コモ湖畔で開かれている、ヨーロッパで一番格式高いコンクールデレガンス(エレガントさを競うコンテスト)だ。
▲ヴィラデステから臨むコモ湖
コモ湖はミラノから北に約30分ほど高速道路を北上したところにあり、スイスとの国境に程近いところにある。地図上で見ると「人」の形をした湖で、夏場は避暑地としてバカンス客でにぎわう。ジョージ・クルーニーが別荘を持っていたり、「スターウォーズ」の惑星ナブーとして撮影に使われたヴィラ・デル・バルビアネーロがあることでも有名だ。
ここ10年ほどは、BMWグループがイベントの主催を務めているため、VIPの送迎にロールスロイス・ファントムにBMW 7シリーズが周辺を走り回り、会場内にはBMWグループのコンセプトカーや名車が展示されるが、それはあくまでバックグラウンド。
主役は1920~1970年代の希少なクラシックカー、レーシングカー、そしてバイク、そして自動車メーカーやカロッツェリアの最新コンセプトモデルである。
▲フェラーリが発表したワンオフモデル、”SP38 deborah”
コンテストの審査には、エンジンをかけての敷地内の移動も含まれているので、外観だけをピカピカにレストアしたクルマではなく、ほとんどがしっかりと走行可能な状態にまでメンテナンスされている。
イベント自体は、土日に分けて開催される。土曜日はヴィラ・デステで開かれる、ほぼ関係者のみのエクスクルーシブなイベント。日曜日は会場をヴィラ・エルバに移してのパブリックイベントで入場料を払えば誰でも間近で名車を堪能することができる。今回は、日曜日のヴィラ・エルバでのイベントに参加した。
▲ヴィラ・エルバの屋敷から庭園を望む
ヴィラデステ2018の見所
▲「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」で真っ二つに切断されてしまうBMW Z8
スポンサーのBMWからは、有名映画に登場したBMWのクルマ・バイクが大集合。「007」シリーズののBMW Z3, Z8, 750iL、「Mrビーン」のmini、「ミッション・インポッシブル」シリーズのBMW各車などが会場内に展示されていた。
1964年式アストンマーティンDB5
エントリー車両では、007ゴールドフィンガーに登場したアストンマーティンDB5が、出展されていた。アメリカの銀行家が、数年前に約5億円で購入したとして話題になった車両そのものだ。もちろん、おなじみの回転式ナンバープレート、トランクに仕込まれた防弾シールド、射出ボタン付きのシフトノブなどの装備も確認することができた。
▲アストンマーティンDB5に装着されているとQの秘密兵器
1970年式ランチア・ストラトスHF
1970年のトリノショーに出品されたストラトスHF(通称ストラトス・ゼロ)は、ベルトーネに在籍していたマルチェロ・ガンディーニがデザインした、くさびのようなウェッジシェイプのコンセプトカーである。
▲ストラトス・ゼロのエンジンルーム
のちに市販された、ディーノの2.4リッター V6エンジンを積んだランチア・ストラトスとは違い、FFのランチア・フルビアのV4縦置きエンジンをミッドシップに搭載し、後輪を駆動している。
筆者はここ1年、自分のランチア・フルビア・クーペを修理・観察していたので、まったく同じ構造のドライブトレインが、この平べったいボディの下に隠れている姿に感嘆せざるを得なかった。
▲走行中のストラトス・ゼロ
リアタイヤは、フルビアのハブをそのまま使っているようで、当時のFFのランチアに使われていた珍しいPCD130の4穴のホイールがついている。対照的に、フロントは小さく、リアとよく似たデザインのPCD98(フィアット系のサイズである)の12インチホイールであった。当時の既存のコンポーネントを上手く使って、これだけインパクトのあるコンセプトカーを作りあげるとは、ガンディーニ・デザインも素晴らしいが、走行可能なレベルまでに実現させたベルトーネの設計者たちも素晴らしい。
1968年式アルファロメオ33/2ストラダーレ
ストラトス・ゼロも、まず走っている姿を見かけることはないが、アルファロメオ33/2ストラダーレも非常にレアなクルマだ。
日本にも4灯式のプロトタイプを所有しているコレクターが居られるが、あまり人目に触れる機会がなく、ナンバーをつけて公道を走る姿を見ることはなさそうだ。
こちらは、スイスのコレクターが持っている2灯式のストラダーレ。2リッターV8エンジンはあっけなく目覚め、ウォーミングアップのあと素晴らしい排気音を響かせていた。
2018年式マツダ・ヴィジョン・クーペ
マツダ・ヴィジョン・クーペは、内燃機エンジン搭載のコンセプトモデルらしく、移動時はスポーティーな排気音を響かせていた。エンジンの回転数と、クルマの動きを見る限り、発電用エンジンというわけでもなさそうだった。このエンジンは、ガソリンエンジンなのか、復活が期待されるロータリーエンジンなのか、ただただコンセプトカーを動かすためだけの既存のエンジンなのか、興味深いところである。
BMW S1000RRベースのトライク
「ミッション・インポッシブル・ローグネイション」で、モロッコのワインディングロードを、BMW S1000RRに乗ったトム・クルーズが、レベッカ・ファーガソンのバイクを追いかけるシーンに使われた車両が展示されていた。なんと、ウルトラロングなホイールベースの3輪車で、地面すれすれに着座したドライバーが、ステアリングと3ペダルを操作して運転するようだ。恐らく、バイクにはトム・クルーズが跨った状態で、ドライバーが運転し、撮影を行ったのだろう。フロントは2輪がバイクと同じようにバンクするリンク機構になっていたが、どのようなドライブフィーリングなのか、非常に興味深く感じた車両であった。
Automobili AmosのLancia Delta Integrale omologazione Speciale
今回エントリーしていたものの、会場の展示には間に合わなかったコンセプトカーがあった。
グリーンのフェラーリF40に乗っていることで有名なイタリアの若いエンスージアストが、ランチア・デルタ・インテグラーレをベースに、シンガーポルシェのようなレストモッドを施したモデルを15台ほど生産しようとしているらしい。ベースの5ドアから、3ドアに変更されているようだし、完成した姿を是非見て見たいと思った。
コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステだけの独特の世界
クラシックカーのイベントは多々あるが、違和感を感じるイベントもよくある。イギリス車のイベントだからといって、妙な英国風のコスプレをしたり、バグパイプの演奏を入れたりといった、安易な味付けである。もちろん、イギリスのグッドウッド・リバイバルのように徹頭徹尾味付けしたイベントは素晴らしいが、たいていの場合は中途半端な演出に感じるし、参加する側としては恥ずかしさも感じてしまう。
▲コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステのエレガントな雰囲気
ところが、コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステの場合、そういった味付けが無くとも、全てが自然にエレガントなのである。参加者、観客、ミュージシャン、ロケーション、そしてクルマたちが上手く調和してできた雰囲気を、主催者のBMWグループが上手くまとめているように感じる。
また来年も、この夢のような世界の一部になれることを夢見て、会場を後にするのであった。
[ライター・画像/林こうじ]