更新2022.08.18
経験したことのない暑さ!運転中の熱中症は自動車大国ドイツでも深刻な問題に
守屋 健
2022年夏。日本では連日酷暑と大雨に見舞われていますが、ヨーロッパでも記録的な暑さと干ばつで、今までにない様々な問題が噴出しています。
ドイツでは夏の間、子どもたちの休みに合わせて一か月ほどの休暇を取り、クルマで旅に出るというのが一般的です。ところが、今年は行き先によっては、そうしたスタイルの旅が非常に困難な状況に陥っています。
ヨーロッパでは「気候変動が原因」と考えられている、今年の記録的暑さ。今回のドイツ現地レポは、今までにない暑さに襲われたドイツにおいて発生している様々な問題についてレポートしていきます。
■深刻な森林火災が各国で発生
一番の大きな問題で、かつ例年以上に多く発生しているのが森林火災です。ドイツではザクセン州やブランデンブルク州などで森林火災が発生していて、その規模はかなり大きく、鎮火までかなりの時間がかかるのが常です。
ドイツからクルマで出かけて、のんびり休暇を取ろうという近隣国……フランス、イタリア、スペイン、ギリシャといった国々でも深刻な森林火災が発生しています。その結果、旅行のキャンセルに関する問題が発生するなど、大きく影響が広がっています。
一旦森林火災が発生してしまうと、その周辺の道路は一帯が長期にわたって通行止めとなり、迂回ルートには長大な渋滞が発生するという悪循環が起きています。そのため、クルマを利用する旅行者は常に最新情報を入手する必要があり、それがドライバーにとって大きなストレスのもととなっています。
■古いコンクリート舗装の道路には亀裂が
連日の暑さによって引き起こされる大きな問題のひとつが、ドイツでは単に「Blow-up」と呼ばれる、道路の隆起・亀裂・爆発です。
気温が30度を超える日が続くと、古く堅いコンクリート製の路面が隆起し、割れてしまうこの現象は、発生場所を予測できません。そのため、ADAC(ドイツ自動車連盟)などが注意を促しています。
原因は、コンクリートの舗装が薄すぎる、コンクリート舗装の修理が不完全、などが挙げられています。比較的柔らかいアスファルト舗装の道路には発生しません。ドイツ全体で見ると、コンクリート舗装の道路は3割ほど残っているため、常に注意が必要です。対処方法として、車間距離をあける、制限速度を守る、亀裂が発生していないかを常に注視する、などが推奨されています。
上写真は、かつて公道と利用したDTM選手権が行われていたベルリンのAVUS。世界最古の高速道路ですが、2011年に大規模なアスファルト改修が行われたため、こうした亀裂の問題は発生しにくいと考えられています。
■900を超える、高速道路の工事現場
上記の道路の損傷以外でも、ドイツの高速道路・アウトバーンでは、8月初旬時点において935か所もの工事現場があり、車線の制限や通行止めなどの規制が行われています。クルマの交通量が多くなる週末(特に金曜日)は、渋滞の距離が長くなる傾向にあります。
ADACの調査によると、ドイツの人々がクルマで旅行する行き先の割合は、ドイツ国内が27.8%、イタリアが20.7%、トルコが9.9%、クロアチアが8.2%、オーストリアが8.2%となっていて、特に今年はイタリア方向の道路渋滞が深刻だ、と報道されています。
また、この調査には名前が挙がりませんでしたが、オランダでは7月に入ってから農家による抗議活動が活発に行われていて、国内の主要道路を封鎖するなどの事態に陥っています。抗議活動の背景には、オランダ政府が進めている環境規制計画があり、これが実行されてしまうと、農家の存続が難しくなると考えられているからです。そのため、現在オランダ方面へクルマで移動する場合は「より多くの時間が必要だと考えるべき」とされています。
■ADACが勧める「暑い中運転するときに注意すること」とは?
ドイツの人々にとって、これほど暑い中、長時間運転することはあまり経験がないため、ADACなどは「暑い中運転するための注意点」などの情報をまとめて、積極的に配信しています。
例を挙げると、
「車内でも熱中症にかかったり強い紫外線に当てられたりするので、こまめな水分補給、適切な衣類と日焼け止めクリームによる対策が必要。ただし暑いからといって、冷たい飲み物の飲み過ぎには注意」
「エアコンは必須だが、郊外では積極的に外気導入モードにして、外と車内の気温差を大きくしすぎないこと、エアコンの風には直接当たらないようにすることが重要。直接身体に風を受け続けると、風邪の原因となる場合がある」
「目的地に到着する数分前にエアコンの電源を切り、換気だけをオンにしておく。これにより、結露が蒸発し、悪臭を放つバクテリアや菌類が発生する可能性が少なくなる」
「なるべく日陰に駐車し、必要によってはフロントガラスに日よけをかける。窓を少しだけ開けていても、気温の上昇率に大きな差は出ない。それよりも車内の暗い色の部分(例えばダッシュボードまわり、シートなど)に、白い布をかけるだけでも効果がある」
「車内の温度は60度に達するため、絶対に、なにがあっても、車内に子どもや動物を放置しない!」
など、具体的かつわかりやすい注意喚起が行われています。
■気候変動対策を進めなければ、事態はより深刻化する
ここまで、ドイツで現在発生している「暑さが原因で発生している問題」についていくつか取り上げてきました。森林火災、道路の亀裂、それの修理や火災の迂回に伴う渋滞、経験したことのない暑さの中の運転……ドイツの人々は、気候変動への対策が適切に行われないと、これらの問題はますます深刻化していくと考えています。
ウクライナの戦争に伴って、エネルギー価格のみならず生活費全体が上昇しているドイツですが、こうした環境問題について対応も時間の猶予は一切ありません。オラフ・ショルツ首相率いるドイツ政府は、今後も非常に難しい舵取りを求められそうです。
[ライター/守屋健]