
テクノロジー
更新2017.05.26
トヨタがMITやスタンフォード大学と提携、約60億円の資金を投じる狙い

海老原 昭

自動運転に欠かせない「人工知能」
今や世界中の自動車メーカーの中で最もホットな話題は自動運転だ。自動運転自体は10年以上前から実用化に向けて開発が進められてきた技術ではあるが、この1〜2年は、急激に開発が進んできた。
自動運転に関しては、各所にあるセンサーからリアルタイムで入力される画像、赤外線、熱、温度、振動、音といったさまざまな種類のデータを瞬時に解析し、それが人なのか、ものなのか、どこに進んでいるのか、どのくらいの速度なのか、それは自分にとって危険なのか、などを判断しなければならない。周囲の状況は常に変化するため、こうした情報を判断し、リアルタイムで判断するためのソフトは「人工知能」(AI)と呼ぶべき、極めて複雑なものになる。こうした複雑なソフトの開発は、従来の自動車メーカーの枠の中ではもはや手に負えないものになってしまっている。
今回のトヨタの提携は、まさにこうしたAIの開発に関わるものだ。MITのコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)とスタンフォード大学のスタンフォード人工知能研究所(SAIL)は、ともに人工知能の研究では世界を代表する研究機関のひとつ。こうした研究所の知見を得て、クルマやロボット(トヨタはロボット開発にも注力している)への応用可能な技術開発を目指しているわけだ。

▲文字ばかりの地味なリリースながら、提携規模はかなりの巨大プロジェクトとなる。トヨタの本気を感じる内容だ(トヨタ公式プレスサイトより)
切り札は日本の企業
実はトヨタは、この提携に先駆けて、6月には日本における「ディープラーニング」の最先端企業である「Preferred Networks」社(PFN)とも提携している。提携内容は極秘ということだが、PFNが「ディープラーニング」(PFNではディープラーニングをさらに推し進めた「エッジヘビー・コンピューティング」と呼んでいる)による走行学習の開発を行っていることから、自動車の自動運転の心臓部となるAIの開発であろうことは容易に予想される。
PFNの研究デモのひとつ。ディープラーニングだけで学習させた4台のロボットカーは、最初は互いに事故を起こし続けていたが、やがて一切ぶつかることも止まることもなくスムーズに走行できるようになる。
分散深層強化学習によるロボット制御
PFNは世界でもトップクラスの開発力を持つと言われており、これまでGoogleなどの後塵を拝してきた自動車業界にとってはまさに救世主とも言える企業だ。トヨタとしてはPFNの協力を得て出遅れたぶんを取り戻し、さらにMIT、スタンフォード大学といった世界でも最先端の研究機関と提携することで、一気に開発を進めたいところなのだろう。
逆に言えば、現時点でまだ何の対策も講じていないメーカーについては、もはや自動運転の競争からは脱落しているといっても過言ではない。自動運転車が引き起こす業界再編の波は、予想していたよりも早い段階から起きてくるのかもしれない。
[ライター/海老原昭]