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更新2023.11.22

色づく銀杏と名車の饗宴~トヨタ博物館クラシックカー・フェスティバル in 神宮外苑をレポート

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中込 健太郎

愛知県の長久手にあるトヨタ博物館を訪れると「年間パスポート」なるものを販売しています。クルマで出かけるのが好きな筆者は、時々近くを通ると立ち寄ったりするものだから、実は「何度かあれを買ったらいいのではないか」と、よからぬ誘惑に負けそうになったことがあり、ここに謹んで告白したいと思います。

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そのクルマがあらゆる手段を講じて、可能な限り美しい状態で並んでいる。博物館ごとにいろいろなキャラクターはあるかと思いますが、トヨタ博物館のコレクションは、そんな状態のクルマだといえるのではないでしょうか。トヨタ車に限らず、価値のあるクルマをしっかりと押さえている。そんな印象の収蔵車両を前に、何度訪れても有意義な時間を過ごすことができるので、一人のクルマ好きに戻れる場所なのではないか。そんな風に思うのです。

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1989年に開館した翌年には、すでにクラシックカー・フェスティバルをスタートさせていたというから、博物館の運営としても、なかなか攻めている、と言えるかもしれませんね。博物館の企まれた照明の元、またその荘厳な建築の採光や内装が演出する展示も確かにありがたいものですが、それでもやはり、日の光を浴びて屋外で見たほうが、もっとクルマっぽい。自動車とはそういうものなのだと思うのです。そしてそれが走るとなれば、まさに水を得た魚のようなものでしょう。

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はじめは博物館のお膝元、愛知県だけで開催されていたクラシックカー・フェスティバルが、2007年からは東京でも開催されるようになりました。より多くの人に「様」を見てほしい、という狙いももちろんあるでしょうが、時期は大体秋深まり、そろそろ冬の足音も聞こえようかというころに、晩秋、銀杏の色づく明治神宮外苑 聖徳記念絵画館にトヨタ博物館のコレクションももちろん、自らもクラシックカーを愛好する一般ユーザーが私蔵するクルマたちも集い、そんな東京の一番美しい頃の風景の中をパレード走行するのですから、見ている方も幸せな気持ちになるというものです。

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東京で開催されるようになって今年で10回目。今年も会場に足を運ぶことができたので、何台か思い出深いクルマを紹介したいと思います。

二台のトヨタ2000GT


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最近ではその取引価格ばかりが話題になる2000GTですが、トヨタ博物館が持ち込む2000GTは、その中でも唯一無二の二台が会場に展示されました。メーカー自身が所有するクルマ。これは雑な言い方をすると「積んだきんすの話」ではないのです。むしろ、今までメーカーがどんな経緯でそのクルマを作り、また今のメーカーの姿に至ったか、その歴史を凝縮しているということはできないでしょうか。

今回は谷田部で幾多もの記録を樹立し、世界にクルマの技術力日本の存在をアピール、スピードトライアルしたクルマを忠実に再現したレプリカと、発売前に人気映画「007」に登場し、センセーショナルなお披露目を果たした、市販されなかったオープンボディを持つボンドカーの二台が絵画館前に登場。デモンストレーション走行まで披露しました。いわば、技術力と、人の心を打つエモーションの両面で日本の自動車の水準を一つ前に進め、世界に知らしめたクルマだということができるかもしれません。

ただ、目の当たりにすると、今一部で奉られるような「天上のクルマ」という面ばかりではなく、流麗で堂々たる存在感ではあるものの、コンパクトなこのスポーツカーをの走るさまを見て、冷静にこのクルマを改めてみてみると、例えば、オースティンヒーレーなどのようなものに類するカテゴリーの世界観も見え隠れすると思ったのです。トヨタ2000GTの市販車は三国ソレックスのキャブレターをでしたが、ここに持ち込まれたクルマはいずれも試作車をベースにしているため、ウェーバーのキャブがオリジナルなのだとのこと。

しかも、スピードトライアルにしても、外観のみその仕様にしたものとはわけが違いますので、走り出すとそのセッティングがまるでボンドカーとも違うことがわかります。とはいえ、実態は今やそうそう気安く触れることはかなわない名車2000GT。やはり朝陽の中を駆け抜ける2000GTを見られたのは幸せなことだと思いました。

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BMW3200CS


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何べんでも言いますが、今年2016年はBMWの創立100周年の記念すべき年。こんなにBMWがポピュラーな存在になった日本で、なぜこんなにもそれを祝う雰囲気がないのでしょうか。これにはかなり強い違和感を個人的には覚えています。また、BMWはストレートシックス、というようなキャラ付けがこの国には「はびこっているよう」に思いますが、もともとはV8の高級車で自動車メーカーとしての輪郭を作り上げたメーカーだと思うのです。

今回一台大変貴重なBMWが参加していました。1965年式の3200CSです。やはりベルトーネですよ!当時チーフになったばかりでしょうね、ジウジアーロですよ!と声も大きく饒舌にもなろうというものです。1952年にデビューした502/503のシリーズの最終型ともいうべきこのクルマは、600台ほどが生産されました。堺市の土居コレクションにも居まして、そこで見てはいますが、やはり希少だし、堂々としたサイズながら、イタリアのボディをまとった高級クーペ。なかなか個性的なアピアランスです。形状はイタリア車のようですが、もっと軽妙に作るでしょう。でもドイツ車にしては洒脱というか、妙にカジュアルな雰囲気もあって、しかもノーブルな雰囲気。

この後、ハンスグラースを吸収してV8モデルがありましたが、かなり時間をおいてE32型の740の登場あたりまで、オリジナルのV8エンジンはBMWのラインナップからは消えることになるのです。そんな「しばしのお別れ」をいうかのようなBMWのスマートな大型クーペ。いつも申し上げているように、絵に描いた優等生ばかりが名車になれるわけではありません。どこかもの寂しい、時に失敗作とされるようなクルマでさえ、むしろ一筋縄ではいかなかったものの語り継がれる要素があるクルマ、何かのきっかけになるようなクルマもやはり名車といえるのではないでしょうか。その意味ではこのクルマも、まして今年のイベントでは出会ったことを忘れるわけにはいかない名車だと思うのです。

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トライアンフロードスター1800


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今回のイベントで一番出会えてよかったと思った一台はこのトライアンフロードスター1800です。実はオーナーは前から存じ上げておりまして、ほかにもMGやシトロエントラクシオン・アヴァンなども所有するエンスージアストです。以前からトライアンフを持っているというお話だけは聞いたことがありましたが、こんな素敵なクルマだったとは。それこそ名探偵ポワロのお友達のヘイスティングス大尉が乗っていそうなクルマです。

のちにTR2から始まるトライアンフのロードスターがありますが、あのTRは何を隠そうトライアンフ・ロードスターの意味。TR2から始まる前に試作でTR1というクルマはあったようですが、そのさらに前にトライアンフ・ロードスターを名乗るクルマがあったのですね。といっても性格は後のTR2以降の2シーターロードスターとは全く異なるグラントゥーリズモといえる成り立ちですね。ハイライトはこの後部の補助席。このクルマは前席3名、補助席2名の5名が乗車定員になるクルマです。

そのオーナーの方がにこやかに教えてくださったのですが、「出かけた先でお友達に会って乗せてあげる必要が出ることもあるでしょ。そんなときに使ったみたいね。」その状況がほほえましいし、乗せてあげるのも優しい。そして友達が一緒にいたら楽しいでしょうね。今でいえば2+2のシートアレンジに近いでしょうが、もっと笑顔で一杯のカーライフが思い浮かんできそうな一台。流麗なスタイルと合わせて今回のマイベスト。そんな一台がこのトライアンフでした。

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走っているクルマを外で見るということ


この時期自動車のイベントは目白押し、同日私の知る限りでもかなりいろいろなイベントが各地で開催されていました。トヨタ博物館の本領を発揮すれば可能でしょうし、ほかのイベントを見れば、あるいは訪れた人が思わず「ひざまずいてしまう」ようなクルマの揃うイベントもあるでしょう。もちろんここにも二台の「一台しかない特別な2000GTたち」など貴重なクルマも参加しています。しかしながら、そういうものでこれ見よがしに見る者を圧倒するイベントとは違うのではないでしょうか。

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「こんなクルマがあったんだ、忘れないでいてほしいな。」

まるでおじいさんが子供のころに聞かせてくれた話を聞いているような、そんなイベントなのではないかと思うのです。走ると優雅なクルマの音は、実は意外と猛々しかったり、オーナーの人がエンジンをかけるのにもちょっとしたコツが必要だったり、どこか儀式的だったり。その儀式の途中でクルマを乗り降りするのを横で見ていると、むせ返すほど濃密にレザー内装の香りがしたり。ふんだんに使われた、ウッドとメッキのパーツが秋の日差しに反射してまぶしかったり。

たとえ同じスタンドで給油した同じガソリンを入れていたとしても、車種によって排気ガスの匂いが微妙に違ったり。エンジン音のビートと走り去るさまのテンポがクルマによっていろいろだったり。そういうクルマに乗っている人の表情は怒っているだろうか。いつも走りなれた青山通りをゆっくりと点滅するウィンカーにつられるように曲がっていく様子を追って、つい足が止まってしまったり。銀杏を見る人でごった返す絵画館前の銀杏並木で渋滞待ちをしていたら、濃いボディカラーにひらりと一枚のイチョウの葉が舞い降りた瞬間を見たり…。

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走っているクルマを外で見るということ。これがこの「トヨタ博物館クラシックカー・フェスティバル in 神宮外苑」のイベントの本質は、実はそういう体験ができることなのではないか。そんな風に感じているのです。

もしクルマで歳時記を作るなら、このイベントの光景の一コマ一コマは、きっと錦秋を現す季語になるのではないか。そんなイベント、今年も見学できたことをとても幸運なことだと思うのです。また来年もできれば出かけてみたいと思うのでした。

▼コマーシャル撮影のために5台の実生産されたグリフォン。ベースはホンダS600。
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▼あと、そこはかとなく好感の持てる一台だと感じたのが「サンビーム・レイピア」。要はヒルマン・ミンクスのクーペ版ともいえるこのクルマは物々しいところがなくこの時代の英国車らしさもあり気に入ってしまった。
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▼オースチンのキャンピングカー。なんでも日本で最初に登録されたキャンピング車だそうだ。
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▼レイピアの後ろのスタイル。大きくはないが、上品でスタイリッシュだ。
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▼このW113は、メルセデスミュージアムで「新車」で売られていたそうだ。それだけにまだ距離は3000キロ台。そして内装のコンディションなどは、さすがにローマイレージらしいものだった。
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[ライター・カメラ/中込健太郎]

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