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更新2017.11.03
プレスデーは「静かなる戦場」だ!第45回東京モーターショー2017裏話レポート
松村 透
「いいよな江上は。仕事でモーターショー行けるんだから。しかも、タダで。」
気持ちはよく分かります。この仕事を始めるまでは筆者もそうでした。事実、いち早くモーターショー会場に足を運ぶことができますし、取材が目的なので(ちょっと野暮な話しですが)入場料や駐車料金も掛かりません。しかし、かつて早朝に家を出て、モーターショー会場へ足を踏み入れ、どこかのブースで手に入れた紙袋が破けんばかりに各メーカーのパンフレットを集めていた筆者が、いつの間にか仕事として取材するようになってふと思ったことがあります。
今回「もしかしたら、一般日に観た方が楽しいかも…。」ということに改めて気づかされたように思います。
決して、取材が「ツマラナイ」とか「メンドクサイ」というわけではありません。筆者を含め、プレスデーの日にモーターショー会場を訪れている人の大半が取材目的です。つまり「仕事」です。このように、取材した内容を何らかの形にする必要があります。
限られた時間のなかで「撮れ高」を確保するために、モーターショー会場をくまなく動きまわる必要があります。「●●●のブースは遠いから行かなくてもいいや」では済まされません。それよりは、気のあう友人や知人たちと「あーでもないこーでもない」と話しながら会場を観てまわり、帰り道でどこかの飲食店に立ち寄り、反省会と称してクルマ談義した方がモーターショーを楽しめるように思います。
▲あちこちでテレビ番組の収録が行われています(肖像権の関係で遠景画像にしました)。少し離れたところからその様子を観ていましたが、フレームの外ではスタッフさんたちがピリピリしているにも関わらず、タレントさんはいかにも楽しそうな雰囲気で談笑しています。こういう「仕込み」や「演出」を自然にサラリとこなしているあたり、さすがプロなんだなと実感。やはり、素人には到底真似できません
さて、前置きが長くなりましたが、東京モーターショー関連の記事を配信するタイミングにおいて、CLはあきらかに後発です。この記事が公開された時点で、大抵の記事が出揃っているタイミング。それでも「ま、とりあえず読んでみるか」と当記事に興味を持っていただいた読者の皆さまに「へぇ〜、そうなんだ」と思ってもらえるものは何か?と考え、「CLを含めたメディアの人たちが、プレスデーの日にどんなことをしているのか?会場ではどんなことが起こっているのか?」という構成としました。
果たして、プレスデーではどのようなことが起こっているのでしょうか?そのいち部分を切り取ってご紹介してまいります。
プレスセンターは東京モーターショーの前線基地だ!
▲ゲートでプレスパスを提示して会場内へ。当日申請もできますが、やはり事前に申請しておいた方がスムーズに入場できます
プレスデーにおける戦い(?)は、会場に着いた時点ですでにはじまっています。まずはプレスルーム内に自分たちの席をする必要があるからです。早めに現地入りして、確保した席がプレスデー当日の「前線基地」となります。原稿書き、日常業務の対応、打ち合わせ、食事、休憩…等々。このスペースを確保することで、できることがたくさんあります。そのためにも、このスペースを確保できるかどうかが重要になってきます。
▲西展示棟にあるゲートからエスカレーターで下に降りてプレスルームへ
▲案内看板に沿って歩いていくと、プレス用の受付があります
▲プレス用の受付。ここで手続きを済ませないとプレスセンターに入ることができません
▲プレスセンター入口。ここでプレスパスを見せて本人認証後、ようやくプレスセンターに入れます
プレスセンターってどんなところ?
東京モーターショーのプレスセンターは、東京ビックサイト会議棟1Fにあるレセプションルームにあたります。広さは1,700m2。フロア内にはほぼ目一杯テーブルが置かれていますが、プレスデー初日はそれでも席が足りないくらい各メディアが取材に来ていました。入口に近い席、あるいはチーム単位でまとまったスペースを確保したい場合、プレスセンターが開場となる7:30よりも前に並び、席を押さえる必要があります。筆者は出遅れてしまい、会場に到着したのが8:00過ぎ。プレスセンターはこの時点でほぼ満杯の状態でした。ちなみに、プレスブレックファスト(先着順)が用意されていますが、筆者がプレスルームに到着した時点で在庫ゼロでした…。
▲プレスルームの全景。皆さん黙々と仕事をしています
プレスセンターと会場を行き来し、取材と原稿書きを繰り返し行う方、取材チーム内で役割分担を行い、パソコンの前でひたすら原稿書きおよび速報記事の公開をしている方、同業者への挨拶回りに忙しい方…。ワンフロアのなかにもさまざまな人間模様があります。同時に、SNSなどのつながりで近況はうっすら分かっているけれど、普段、なかなかお会いできない方々と再会できる場としての役割も果たしています。
プレスルームではこんなサービスも
▲無料でカメラの点検や清掃をしてくれます
▲NikonとCanonの皆さんが、取材で使うカメラの点検と清掃をしてくれます。筆者もCanonのデジタル一眼カメラを愛用しているので、他の案件の打ち合わせのあいまに点検と清掃をお願いしました(ありがとうございました!)
▲FAXやコピー、国際電話にも対応しています
▲プレスルーム内のWi-Fiがつながらず困り果てていたところ、ネットワークサポートのスペシャリストが一発で解決してくれました
プレスランチは大行列。出遅れると恐怖の30分待ち?
▲11時からプレスランチが支給されます
11時近くなるとにわかにプレスルームがざわつきはじめます。プレスランチが支給される時間だからです。「何だ、取材よりも昼メシのことが気になるのかよ!」と思われるのも無理はありません。しかし、先着順であること、出遅れると待ち時間が長く、取材時間の大幅なロスにもなりかねないのです。今回はセーフだったようですが、プレスランチがなくなる可能性もありえます。そこで、取材のあいまを見て「とりあえずプレスランチを押さえておく」ことが求められるのです。腹が減っては戦はできません。
▲10:50を過ぎると、あっという間に行列ができます。出遅れると20分〜30分待ちはザラ。しかも、席を確保しないと床に座って食べることになるので、遅れて来たメディア関係者は食事スペースの確保が大変です
▲プレスランチは2種類から選べます
▲ようやくゲット。筆者はBランチをチョイス。これに、水とコーヒーが付きます
なお、プレスランチは当然ながら1人1個まで。プレスパスで管理しているため「こっそりとおかわりする」ことができない仕組みになっています。
プレスカンファレンスとは?
▲各メーカーのプレスカンファレンススケジュール
「プレスデー」というだけあって、各メーカーがニューモデルのお披露目や経営陣のメッセージなどのプレスカンファレンス(通称「プレカン」)を行います。テレビや雑誌、Web速報記事などはここで撮られたものが公開されているものです。プレスカンファレンス中は多くのメディアが集まるため、前列や真ん中など、良い席を確保するにはかなり前から陣取る必要があることも…。また、プレスカンファレンスは15分刻みで行われるため、1つのプレゼンテーションが終わるとすぐにその次のブースへ‥というように、大勢のメディアが慌ただしく移動します。
すべてのプレスカンファレンスを追い掛けていくのは至難の業。ましてや、その都度、記事を書き上げるのは不可能に近いものがあります。そこで、メディアによってはプレスカンファレンスに密着する「取材チーム」とプレスルームでひたすら記事を書き上げる「編集チーム」という、CLにとっては羨ましい布陣を敷いているところも少なくありません。
▲メルセデス・ベンツブースのプレスカンファレンスの模様。15分刻みでこの人たちの多くが「民族大移動」していきます
▲希望者にはレシーバーが支給されます(もちろん要返却)。同時通訳され、ほぼリアルタイムでプレゼンテーションを聴くことができます。今年は、これまでよりも英語ベースのプレゼンテーションが多かったように思います
▲プレスデー当日にお披露目されるニューモデルは、プレスカンファレンスの前はこのようにベールに包まれています。ポルシェブースのプレスカンファレンスもご覧のとおり
▲BMW アルピナのブースでは、本番前にアンベールのリハーサルが行われていました
▲スカニアのブースでは、プレスカンファレンス前はこんな感じに。トラックだと面積が大きいので、かなりインパクトがあります。ちょっとハロウィンぽいかも?
▲このように、予約して取材する場合もあります
出展見送りが相次いだ輸入車。海外メディアの数もそれに比例して…?
▲熱心な海外メディアの姿も
今回、イギリス、イタリア、アメリカ、各自動車メーカーの出展がありませんでした(そういえば、BMW MINIも…)。魅力的なブランドが相次いで出展を見送ったのは残念でなりません。
▲今回の東京モーターショーでお披露目となった新型トヨタ センチュリーに、海外メディアも熱い視線をおくっていました
今回感じたのは海外メディア、それもアジア圏の方が増えたように思います(筆者が押さえたプレスルームの席のまわりもアジア系のメディアでした)。日本車、そして日本の技術が注目されているのでしょうか。日本人が圧倒されるほどに熱心に取材している海外メディアも(その分、なかなか動いてくれなくてちょっと大変でした…)。ヨーロッパのメディアの数が以前に比べて減ったように思います。以前よりも、東京モーターショーがワールドプレミアという機会も減りましたね…。
撮影が順番待ちなのはプレスデーも同じ?
▲やんわりと「早く離れてよー」とオーラを出しつつ(汗)、お目当てのクルマから離れてくれるのを待ちます
▲スマートフォンで動画を撮る人は少しでも多くの撮れ高を確保したいのか、なかなか動いてくれず…
今回、「スマートフォン+自撮り棒」を駆使して取材しているメディアが多かったのも特徴のひとつ。撮影が終わるまで、ひたすら待つこともしばしば。一般公開日も、クリアラップならぬ「クリアカット」を撮るのは一苦労ですね…。
東京モーターショー会場で会ったCL執筆陣の皆さん
▲早朝から会場入りしていた「フナタン」さんこと小鮒 康一氏と「込氏」こと中込 健太郎氏
▲山本 圭亮氏。現在、20世紀に特化した初のオンラインフリマ「20世紀交歓所(https://20th.middle-edge.jp)」を運用中
▲海老原 昭氏。この日は東京モーターショーと原宿で行われた取材の掛け持ちだったとか
▲北沢 剛司氏。プレスルームがクローズするギリギリのタイミングで撮影したので、笑顔ながらさすがにちょっとお疲れモード?
▲それもそのはず。北沢氏は取材の合間に東京モーターショー限定トミカをゲットしていた模様。これもCLの記事ネタとなるのでしょうか…
CL執筆陣の皆さんも、プレスデー初日の早い時間から会場入りしていたようです。SNSやメール、電話などでは交流があっても、会うのは久しぶりという方も。いくらインターネットが普及しても、直接会ってからこそ話せること、情報交換など、リアルなつながりの大切さを改めて実感しました。
第45回東京モーターショー会場を彩る美女の皆さん!
モーターショーの華といえば、コンパニオンの皆さん。メディアのなかには、コンパニオンの方々を専門に取材しているカメラマンやライターの方もいた模様(慣れているのか、さすがに盛り上げ上手)。立ち仕事でどんなに疲れていても、カメラを向けるとすぐにポーズを取ってくださるあたり、さすがプロです。
次回は2019年。第46回東京モーターショーはどうなる?
自動運転やAI、IoTなど、遠い未来の夢物語ではなく「近未来」のテクノロジーが一堂に会した感のある第45回東京モーターショー。しかし、モーターショー会場に足を運ぶ(おそらくは)多くの方のお目当ては、近々に発売されるであろうニューモデルやそのコンセプトモデルではないかと思われます。
今回、ポルシェブースが会場の目立つところにポルシェ356スピードスターを展示させました。しかも、わざわざドイツのポルシェミュージアムから持ってきたという気合いの入れようです。多くのひとが普段はなかなか観られないであろう、クラシックカーを展示することで、日本でも力を入れつつあるポルシェクラシックのアピールにも繋がります。
また、「最新の、そして未来の技術はもちろん、過去の車輌にもきちんと目を向けていますよ!」というアピールを好意的に受け取る人も多いはずです。
この動きは一足早く東京オートサロンでも加速しそうな気配がありますが、2年後に開催されるであろう、第46回東京モーターショーでポルシェブースが演出してみせた手法に追随するメーカーが増えるのではないかと筆者は予想しています。特に日本車、スカイラインGT-Rやユーノスロードスターなど、すでに絶版車の部品の再生産を発表している日産やマツダに期待したいところです。
東京モーターショーのプレスデーは静かなる戦場だ!
確かにプレスデーは、いち早く東京モーターショー会場の雰囲気が感じられます。それは同時に「今年の東京モーターショーも行ってみよう!」と思ってもらえような情報を発信する役割を担っています。
▲レクサスブースの展示をパノラマモードで撮影してみました
プレスセンターは19:00にクローズとなりますが、本当にギリギリまで取材を続けているメディアが多数ありました。一足先にモーターショー会場を離れたメディアは、急いでそれぞれの編集部に戻り、徹夜で記事を仕上げていたはずです。
プレスカンファレンスでは少しでも前の席を確保し、いち早く速報記事を発信したり、一般公開日には撮影することが難しいであろうニューモデルの詳細なディティールを紹介するなど、各メディアが知恵と英知を結集して取材にあたっています。決してそれぞれが直接バトルを繰り広げているわけではありませんが、少しでも早く、少しでも有益な情報を!と皆さんが会場内を奔走しています。そうです。「東京モーターショーのプレスデーは静かなる戦場」なのです。
もういちど、東京モーターショーに足を運んでみた
仕事を抜きにして、改めて一般公開日に行ってまいりました。プレスデーよりもリラックスした気持ちでモーターショー会場を観てまわることができたように思います。
▲プレスデーのときは、ポルシェブースのセンターに置かれていたポルシェ356スピードスター。一般公開日は奥の方に移動していましたが、注目度は抜群
プレスデーと一般日では、展示されているクルマが同じであってもレイアウトは異なります。特にニューモデルは、柵で囲われていて近づくことができません。
やはり、プレスデーで注目されるのは初披露となるニューモデルやコンセプトカー、そしてテクノロジーとなります。これが一般日だと「憧れのクルマ」や「普段、なかなか触れることができないクルマ」、「購入を考えているクルマ」に変化するように感じます。発売から10年が経過した日産GT-Rの前にも行列ができていました。プレスデーではありえない(といってよい)光景です。
そして、ホンダ シビックタイプRでも同じ光景が。展示されているクルマがMT車だと、わけもなくシフトチェンジしたことがある方も多いはず。筆者もその衝動をグッと堪えてその場を離れました。
気がつけば、東京モーターショー会場に足を運ぶようになってから30年近くになりました。かつてはフェラーリブースで2つ折りのパンレットをもらうため、長い行列に加わったことも懐かしい思い出です。
▲メルセデス・ベンツブースに展示されていた、メルセデス・ベンツS560。「V8 4リッターツインターボエンジンなのにどうしてゴー・ロク・マル?」という突っ込みはさておき、往年のグレード名を冠したモデルの登場に心躍ったのは筆者だけではないはず
「最近のモーターショーはつまらなくなった」、「これでは若者が観に来ない」と否定的な要素を並べるのは簡単です。もちろん、現実から目を逸らしてしまっては本末転倒です。目の前で起こっていることを直視しつつ、たとえそれがで悲観的であったとしても、結びにはどこかに希望を見出す。それもメディアに求められる役割のひとつではないかと考えます。ただただ悲観的になったら、それこそ未来はないように思えるのです。
プレスデーのときもプレスルームがクローズとなる19時までモーターショー会場に留まりましたが、今回も、開催時間内ギリギリの20時まで各ブースを眺めていました。
第45回東京モーターショーは11月5日(日)まで。さまざまな記事や情報がインターネット上に公開されていますが、果たして面白いと感じるか、そうではないと思うか?その答えを、可能であれば現地に赴き、確かめてみてください。
[ライター・撮影/江上透]