ドイツ現地レポ
更新2018.12.07
ドイツの都市部の風景にもはや欠かせない存在となった「スマート・フォーツー」。ドイツで支持される理由は?
守屋 健
ミニバンとSUVが全盛の日本では、完全な2シーターというコンセプトが浸透せず、同じスマートの4シーターであるフォーフォーの方が受け入れられている状況ですが、ドイツにおいて街中で見かけるスマートはほとんどがフォーツーです。この違いはどこからくるのでしょうか?
小さいことはいいことだ
フォーツーがドイツで受け入れられている理由その1。ドイツの都市部では路上駐車もしくはパーキングチケットが基本なので、駐車スペースが慢性的に不足している、という点が挙げられます。こんな時こそ、全長3メートル足らずのスマート・フォーツーの出番です。
初代モデルでは全長わずか2,500mm、現行型でも2,695mmしかないフォーツーは、道路に対して直角に停車することができます。歩道側の道路の幅は2,500mmなので、現行型では少しはみ出してしまうのですが、歩道に少し乗り上げるなどして、あまり現地の人々は気にしていない様子。とはいえ、このスマートの「直角駐車」が合法か否かは、たびたびドイツ、そして周辺国では議論の的となっているようで、実際にオーストリアではこの駐車方法は禁じられています。
そもそも、ドイツには日本の車庫証明にあたる決まりそのものが存在しません。また、都市の中心部では駐車許可証がないと停められないエリアが存在する場合もありますが、そうした場合、駐車許可証は近隣の住民に発行されます。住民は近くの路上に停めてね、というわけです。日本のようにコインパーキングがそこら中にある、という状況とはかけ離れているので、都市部でクルマを日常的に使う人にとって「駐車スペースを探すことなく、停めたい時に停められる」という「性能」は、フォーツー以外の他のクルマでは代用がきかない、ということなのでしょう。
安い、けれども安全
フォーツーがドイツで受け入れられている理由その2。身もふたもない理由ですが、クルマが安いから。ドイツ現地のスマート・フォーツー、何もオプションを付けないまったくの素のモデルの値段は、2018年12月現在で11,165ユーロ(約143万円)。メルセデス・ベンツが手がけたクルマがこの値段で手に入る!というのは、ドイツ現地の人々にとっても魅力的に映るようです。ただし、日本仕様とは異なり、素のモデルには潔いまでに「何もついていない」状態になっていて、オーディオやナビを取りつける部分にはDINスペースもなく、がらんとしたスペースが広がっています。ホイールもスチール製の飾り気のないデザインのもので、もちろんマニュアルトランスミッション。豊富なオプションで自分色に染めていく楽しみが大きいのも人気の理由のようですが、個人的には「何もついていない素のモデルを吊るしで乗る」というのも魅力的ですね!
フォーツーがドイツで受け入れられている理由その3。高い安全性と必要十分な走行性能を持っているから。ドイツの都市と都市を結ぶ、アウトバーンでない一般道の制限速度は100km/hなのですが、実際に走行してみると非常に怖いです。路肩が存在しないのに、道路の脇は街路樹がびっしりと並んでいたり、中央線がないのにも関わらず対向車がスピードを落とさず突っ込んできたり。そうした状況を走行する際に気になるのはやはり、衝突時の安全性です。その点フォーツーは初代から衝突安全性の高さをアピールし続けてきました。また走行性能においても、短いホイールベースにも関わらず高速走行が意外なほど得意、というのも、スマートのオーナーにはよく知られていることです。とはいえ、実際にドイツのアウトバーンでかっ飛ばすフォーツーを見たときは、少なからず衝撃を受けましたが…。
2020年にはすべてEVに
ドイツ国内ではまだまだ初代モデルもたくさん走っているので、人気が下降してきたという実感はあまりないのですが、2018年1~9月の世界新車総販売台数は9万6384台で、前年同期比は4.2%減。9月のみでは、全世界で1万0850台を販売したものの前年同月比は15%減。さらに、スマートブランドの2017年の世界新車販売は、13万5025台で前年比6.5%減と、ブランド全体の販売台数はじわじわとマイナスに転じています。
スマートの販売している車種別に見れば、EVの売れ行きが好調で、2020年にはすべてのスマートの車種を電動化する、と発表しています。もともとの「シティコミューター」というコンセプトに沿って考えれば、電動化は自然な流れと言えるでしょう。スマートの現地公式サイトにはこう書かれています。「Die Stadt braucht Vordenker.(街には先駆者が必要だ)」。そう謳っている通り、これからもスマートがパイオニアとして活躍していくのか、注目していきたいですね!
[ライター・カメラ/守屋健]