試乗レポート
更新2023.11.22
スマート/SMART CDIの試乗レポート。ディーゼルモデルに乗る
中込 健太郎
「くろまめくん」勇ましく走る!
数年前に日本でもクリーンディーゼル車が登場してから、日本でもすっかり一般的な存在となったクリーンディーゼル車。ヨーロッパではかなり早い段階からディーゼルエンジンのモデルがセールスの牽引役になってきたようです。日本ではヨーロッパで流通する軽油と質が異なるため、排ガスの基準と、それに対処するための対策がヨーロッパ向けのそれと同じものが使えないこともあり、出遅れた感がありましたが、その基準をクリアできるようになって以降は、昔のトラック向けのディーゼルエンジンのイメージを衝撃的に払拭する軽やかなフィーリング、日常使用領域での潤沢なトルク感は、クルマ好きのみならず、多くの人の心をわしづかみにしました。そして何より、走ってみるとガソリン車の概ね倍の距離を走ることができる低燃費と、需給関係から今後はこの状況が続くかはわかりませんが、給油した時に「もう一度嬉しい」安価な軽油価格。もう二度とガソリン車には戻れないと感じられている方も多いのではないでしょうか。
かなり増えては来たものの、日本ではまだまだ、ディーゼルエンジンを設定しているクルマは少数派と言えるでしょう。しかし、前述のとおり、ヨーロッパではかなり多くのクルマにディーゼルエンジン仕様が早くから設定されてきました。時にはコンパクトカーからスポーツカーに至るまで、その魅力は多くの人が「味をしめて」来たわけです。
日本でもそのユーティリティの高さが注目され、日本仕様に日本特有の軽自動車登録のできるモデルまで正規輸入されたスマートにも、ヨーロッパ向けにはディーゼルエンジンが設定されていました。おそらく量産されるディーゼルエンジンでは最も小さいものになるのではないでしょうか。1000ccを切る3気筒ディーゼルエンジンとはどんなものか、以前から興味はあったのですが、今回幸運にも、そのスマートのディーゼルに乗ることができました。千葉と横浜の間の回送という中でのことでしたので、限られた時間ではありましたが、その時の感想を少しまとめておこうと思います。
割り切りが肝心!
このクルマに乗り込むやいなや、スマートのコンセプトの根源的な部分に対して強く納得させられたような気持ちになりました。それは今時の多くのディーゼル車がそうであるように静かではないということです。エンジンをかけるとリアに収まったディーゼルエンジンは勇ましい音を盛大に発します。日本への導入が見送られた背景は、ディーゼルエンジンの排ガス対策の問題もさることながら、日本の市場ではもしかすると「nicht」を突きつけられるかもしれないレベルだと思いました。しかし、不思議なもので、一般的にはそうかもしれませんが、個人的にはそれに対して不満を感じなかったのは面白い感覚でした。むしろ、ベーシックなクルマとして、注力すべきことと労力を省くべきところのバランスが極めて高く、そのコントラストが、ガソリンの日本導入モデル以上に際立ったからです。コンパクトなボディは例のデザインの一部にも取り入れられている「トリディオンセーフティーシェル」で包まれた、二度見するほどの高い剛性を備えたもの。感覚的な「しっかり感」はかなりのものですが、実際、走っている時の曲げの場面や、フラットで角の取れたあたりの乗り心地、そして、エンジン音自体は大きいものの、それ以外のノイズはかなりフィルターされています。こうしたことは、むしろ「ベーシックカーでも手を抜かないボディ作り」を彷彿とさせるものであり、静粛性が及第点に満たないという感覚ではなく「適切な割り切り」であるという印象が顕著でした。
適度に腰高な着座位置、ナローなボディながらフロントウィンドウまでの距離と、後部のスペースもしっかり確保されており、開放感のあるグラスルーフのおかげで、閉塞感はなく、むしろ、デザインにも留意されている内外装のおかげで、素敵なクーペでドライブしているかのような楽しい感覚に「走り始めて50メートル」でなることができます。そう感じさせるのに有効に作用したのが、例のディーゼルエンジンが発する、排気量にも関わらず潤沢な「十分以上のトルク感」だったことは間違いないでしょう。過剰にパワフルでもないでしょうが、決して出遅れて不安になるようなことは全くありませんでした。
ポケットGT!
実際に乗ってみると、このクルマのナローなボディは実に使い勝手がいい。改めて「痛み入る」ちいさいことのアドバンテージ、このクルマは遺憾なく発揮してくれます。乗るほどに頼もしい、どこにでも行ける、どこまでも走りたい・・・そう感じさせるものがあるのです。逆説的な言い方に聞こえるかもしれませんが、しかしこのクルマ、確実に「遠出したくなるクルマ」です。普段頼もしいからこそ、そのままどこでも走りたくなるのでしょう。そして加えて、このクルマの数少ない残念なポイントがあらわになるのです。スマート、ミッションはシーケンシャルミッションですが、これのシフトラグの「ワンクッション」がかなり長いのです。イメージとしては2クッションか、3クッションと言っても過言ではありません。こういうものになれながら空いた国道を走るのはのどかで悪くはありませんが、ストップ&ゴーが多い街中ではトルクコンバーターでいつもトルクがほうっ出され続けているか、ダイレクトで「私の間」シフトチェンジできるMTの方がいいだろうなと感じました。ただ、この2シーターのシティコミューターでこういう事を言うと、「欠格」であると受け止める方もいるかもしれませんが、堅牢なボディのみならず、ステアリングの立て付け剛性、操作感のしっかり感、豪華ではないですが賢明な作りのシートは、正直街乗りグルマのそれにはもったいない重厚感すら感じられるものなのであります!だからこそ、そんなストップ&ゴーに翻弄されるなどという使用環境ではなく、インターシティー、いやインターステーツ(日本では地方単位でしょうか)のラナバウトとして、走ったらいいだろうなあと思った次第です。
ガソリン車もよくそんなことを言われましたが、ディーゼルエンジンにしたことでベーシックカーとしての割り切りも、小さいながら秀逸なGTカートしての資質もより顕著に分かりやくなったクルマだなと感じました。
ちなみにカタログスペックでは3.4L/100kmとのことですが、150キロを走行して、渋滞などにも遭遇しながら「ひと目盛」消えかかったのみ。確かに高速利用なら福岡まで行けるかもしれませんね。街中の渋滞や大きな車に混ざってかなり勢いよく走り回って1リットルあたり22.7キロという実用燃費はかなり満足度の高いものと言えるのではないでしょうか。この燃費がハイオクガソリンではなく軽油でのものですから。おそらく1リットルあたり20円強安い事を考えると、実質的な経済性はかなり高いでしょう。燃料タンクの容量は33L、この燃費ですと神戸の先までは一気に走ることが可能でしょう。
この日のランチは、野田の大盛りで有名な「やよい食堂」でお昼ご飯。迂闊にもオムライスを大盛りにしてしまいました。クルマとは打って変わって燃費悪すぎだなと自らを反省してしまいました。しかし、このスマート、こんな私からすると「ちょっとラーメンでも食べに行かない?」と友を誘って、京都白河「天下一品」本店などにもいとも簡単に行ってしまいそうで、実に危険な一台だ・・・そんなことを感じさせる1台でありました。
[ライター・カメラ/中込健太郎]
数年前に日本でもクリーンディーゼル車が登場してから、日本でもすっかり一般的な存在となったクリーンディーゼル車。ヨーロッパではかなり早い段階からディーゼルエンジンのモデルがセールスの牽引役になってきたようです。日本ではヨーロッパで流通する軽油と質が異なるため、排ガスの基準と、それに対処するための対策がヨーロッパ向けのそれと同じものが使えないこともあり、出遅れた感がありましたが、その基準をクリアできるようになって以降は、昔のトラック向けのディーゼルエンジンのイメージを衝撃的に払拭する軽やかなフィーリング、日常使用領域での潤沢なトルク感は、クルマ好きのみならず、多くの人の心をわしづかみにしました。そして何より、走ってみるとガソリン車の概ね倍の距離を走ることができる低燃費と、需給関係から今後はこの状況が続くかはわかりませんが、給油した時に「もう一度嬉しい」安価な軽油価格。もう二度とガソリン車には戻れないと感じられている方も多いのではないでしょうか。
かなり増えては来たものの、日本ではまだまだ、ディーゼルエンジンを設定しているクルマは少数派と言えるでしょう。しかし、前述のとおり、ヨーロッパではかなり多くのクルマにディーゼルエンジン仕様が早くから設定されてきました。時にはコンパクトカーからスポーツカーに至るまで、その魅力は多くの人が「味をしめて」来たわけです。
日本でもそのユーティリティの高さが注目され、日本仕様に日本特有の軽自動車登録のできるモデルまで正規輸入されたスマートにも、ヨーロッパ向けにはディーゼルエンジンが設定されていました。おそらく量産されるディーゼルエンジンでは最も小さいものになるのではないでしょうか。1000ccを切る3気筒ディーゼルエンジンとはどんなものか、以前から興味はあったのですが、今回幸運にも、そのスマートのディーゼルに乗ることができました。千葉と横浜の間の回送という中でのことでしたので、限られた時間ではありましたが、その時の感想を少しまとめておこうと思います。
割り切りが肝心!
このクルマに乗り込むやいなや、スマートのコンセプトの根源的な部分に対して強く納得させられたような気持ちになりました。それは今時の多くのディーゼル車がそうであるように静かではないということです。エンジンをかけるとリアに収まったディーゼルエンジンは勇ましい音を盛大に発します。日本への導入が見送られた背景は、ディーゼルエンジンの排ガス対策の問題もさることながら、日本の市場ではもしかすると「nicht」を突きつけられるかもしれないレベルだと思いました。しかし、不思議なもので、一般的にはそうかもしれませんが、個人的にはそれに対して不満を感じなかったのは面白い感覚でした。むしろ、ベーシックなクルマとして、注力すべきことと労力を省くべきところのバランスが極めて高く、そのコントラストが、ガソリンの日本導入モデル以上に際立ったからです。コンパクトなボディは例のデザインの一部にも取り入れられている「トリディオンセーフティーシェル」で包まれた、二度見するほどの高い剛性を備えたもの。感覚的な「しっかり感」はかなりのものですが、実際、走っている時の曲げの場面や、フラットで角の取れたあたりの乗り心地、そして、エンジン音自体は大きいものの、それ以外のノイズはかなりフィルターされています。こうしたことは、むしろ「ベーシックカーでも手を抜かないボディ作り」を彷彿とさせるものであり、静粛性が及第点に満たないという感覚ではなく「適切な割り切り」であるという印象が顕著でした。
適度に腰高な着座位置、ナローなボディながらフロントウィンドウまでの距離と、後部のスペースもしっかり確保されており、開放感のあるグラスルーフのおかげで、閉塞感はなく、むしろ、デザインにも留意されている内外装のおかげで、素敵なクーペでドライブしているかのような楽しい感覚に「走り始めて50メートル」でなることができます。そう感じさせるのに有効に作用したのが、例のディーゼルエンジンが発する、排気量にも関わらず潤沢な「十分以上のトルク感」だったことは間違いないでしょう。過剰にパワフルでもないでしょうが、決して出遅れて不安になるようなことは全くありませんでした。
ポケットGT!
実際に乗ってみると、このクルマのナローなボディは実に使い勝手がいい。改めて「痛み入る」ちいさいことのアドバンテージ、このクルマは遺憾なく発揮してくれます。乗るほどに頼もしい、どこにでも行ける、どこまでも走りたい・・・そう感じさせるものがあるのです。逆説的な言い方に聞こえるかもしれませんが、しかしこのクルマ、確実に「遠出したくなるクルマ」です。普段頼もしいからこそ、そのままどこでも走りたくなるのでしょう。そして加えて、このクルマの数少ない残念なポイントがあらわになるのです。スマート、ミッションはシーケンシャルミッションですが、これのシフトラグの「ワンクッション」がかなり長いのです。イメージとしては2クッションか、3クッションと言っても過言ではありません。こういうものになれながら空いた国道を走るのはのどかで悪くはありませんが、ストップ&ゴーが多い街中ではトルクコンバーターでいつもトルクがほうっ出され続けているか、ダイレクトで「私の間」シフトチェンジできるMTの方がいいだろうなと感じました。ただ、この2シーターのシティコミューターでこういう事を言うと、「欠格」であると受け止める方もいるかもしれませんが、堅牢なボディのみならず、ステアリングの立て付け剛性、操作感のしっかり感、豪華ではないですが賢明な作りのシートは、正直街乗りグルマのそれにはもったいない重厚感すら感じられるものなのであります!だからこそ、そんなストップ&ゴーに翻弄されるなどという使用環境ではなく、インターシティー、いやインターステーツ(日本では地方単位でしょうか)のラナバウトとして、走ったらいいだろうなあと思った次第です。
ガソリン車もよくそんなことを言われましたが、ディーゼルエンジンにしたことでベーシックカーとしての割り切りも、小さいながら秀逸なGTカートしての資質もより顕著に分かりやくなったクルマだなと感じました。
ちなみにカタログスペックでは3.4L/100kmとのことですが、150キロを走行して、渋滞などにも遭遇しながら「ひと目盛」消えかかったのみ。確かに高速利用なら福岡まで行けるかもしれませんね。街中の渋滞や大きな車に混ざってかなり勢いよく走り回って1リットルあたり22.7キロという実用燃費はかなり満足度の高いものと言えるのではないでしょうか。この燃費がハイオクガソリンではなく軽油でのものですから。おそらく1リットルあたり20円強安い事を考えると、実質的な経済性はかなり高いでしょう。燃料タンクの容量は33L、この燃費ですと神戸の先までは一気に走ることが可能でしょう。
この日のランチは、野田の大盛りで有名な「やよい食堂」でお昼ご飯。迂闊にもオムライスを大盛りにしてしまいました。クルマとは打って変わって燃費悪すぎだなと自らを反省してしまいました。しかし、このスマート、こんな私からすると「ちょっとラーメンでも食べに行かない?」と友を誘って、京都白河「天下一品」本店などにもいとも簡単に行ってしまいそうで、実に危険な一台だ・・・そんなことを感じさせる1台でありました。
[ライター・カメラ/中込健太郎]