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試乗レポート

更新2023.11.22

初夏こそ似合う。希少な「小カングー」左ハンドルモデルの試乗レポート

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中込 健太郎

初夏の山中湖に行くとカングーに乗りたくなる。

冬、スキー場に行くとレガシイのワゴンが妙に魅力的ににうつったりするものですね。話としてはああいうのに近いのかもしれませんが、この時期、何となくカングーが欲しくなるものです。最近ではすっかり初夏、5月の恒例行事になった印象のある「カングー・ジャンボリー」これに取材に出かけていることは、少なからず影響しているでしょう。限定車を多用しているとはいえ、様々なカラーリングが日本で選べるのも嬉しいですよね。結果としては随分と国内に存在するカングー、色とりどりになっているものです。

このくらいの価格帯では屈指のバリエーションの豊富さでしょう。細かい仕様もいくつもあって、デザインのためのデザインというよりは、シンプルな中に機能的でありながら、どんな風土、文化の中でも暮らしに密着した、気軽でアクティブなコミュニケーションをサポートする、その細部に至るまで「親しみやすいビジネスユース」なその様は、まさに機能美と言ってもいいのではないでしょうか。

バックドアを開ければたちまちお店の様相。品物を広げたらつい街行く人も足を止める。実は一人営業というか、販売担当者を雇ったのと同じなんじゃないか。カングーを見ていると、そんな気持ちになってくるのです。

その色合いなどが豊かなのは、カングー(厳密にはメルセデスベンツに供給している「シタン」も同じファクトリーで製作されますが)を専門に作っているモヴージュ工場で、台数が30台以上のフリート需要向けに、エクストラコスト無しで特別色にペイント受け付けるというので、それに乗っかって、テーマを持たせて日本にクルマとともにプラスアルファのキャラクター、異国の文化の香りを付加して導入しているというのが実際のところなのだそうです。

しかしながら、限られたリソースを活用、厄介な方法をとらずに魅力的に価値が際立つのはいいこと。なんでも手間とお金をかければいいというものではありませんね。ルノー・ジャポンのこういう取り組みは、ぜひ今後も広げてほしいですし、カタログモデルにするとリスクが高いですが、より個性的な色、他のメーカーにも波及してくれることを願わずに入られません。

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そんなカングーを眺めていたら、「カングーっていいよな」となるわけです。春のJAIAの試乗会では、大きなボディになったので「デカングー」なんて言われますが、その1.2のターボエンジンにマニュアルミッションを組み合わせたものに試乗し、ずいぶん身軽になったその変化ぶりに少し嬉しくなったものですが、大田区のアウトレーヴにて、大変希少な、先代のカングー「通称小カングー」の左ハンドルモデルに乗せていただく機会をえましたので、少しその時の感想を止めておきたいと思います。

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試乗したクルマは、国内で販売されたモデルと同じ1600ccの16バルブエンジンを搭載していますが、ベーシックな黒バンパーモデルで左ハンドル、マニュアルトランスミッションの並行輸入されたモデルでした。シートの生地もよりポップで、ダッシュボード上の樹脂の材質も、より樹脂の材質感がわかるものですが、傷がつきにくいなど、ヘビーデューティーなものが装備されていました。

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都合100キロほどの距離を乗りましたが、「一台あったらいいなあ」と思わず思ってしまう、そんなクルマでした。5ナンバーサイズの全幅は取り回しも楽。逆アリゲーターに開くボンネットを覗くと目一杯前方にエンジンが搭載され、絶対的には軽量なカングーでも、しっかりとフロントにトラクションがかかるようになっています。絶対的には高さのあるこのクルマですが、風の影響やハンドルを切った時のグラつきなど、案外小さいというのが率直な印象。切った分だけ素直に切れるステアリングは、何も血眼になって飛ばさなくても、ビジネスユースのクルマに乗っていることを瞬間失念してしまうほど、素直で、親しみやすい乗り味を提供してくれます。

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シートも座面にしっかり芯があり、長時間座っていられることに加えて、乗り降りが頻繁な用途にもしっかり対応。大きなウィンドウと気持ちばかり高いヒップポイントは、結果的には運転していても疲労の少ないレイアウトだと言えるでしょう。

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広大なキャビンを備えつつ、絶対的には小ぶりなボディ。首都高を横浜経由で千葉まで走るも、もっと遠くへ、どこまでも走っていたいなあ。そう思わせるものがありました。ただ、第一印象で一台あったらいいなと思った件。ちょっと嫌な予感もしてきました。

こんなクルマが来たらこればかり乗ってしまいそう。非常に「危険な香り」がする一台です、むしろ。丸腰でこのクルマを愛車にすること。それは「その時点で上がり」そう宣言するようなものなのではないだろうか。だからこそこのクルマには「クルマに対する評価以外の動かしがたい口実」が必要だ。そう感じたのです。すなわち「カフェをする」から。「荷物を運ぶ」から。「車中泊仕様のベースを探していて」…。周囲に挙げ句の果てには「なんか仕事手伝ってあげなくても大丈夫?」とか聞いて回ってしまいそうな勢いです。クルマ趣味として、自動車を主体に愛でる、楽しむ。そういうものとは少し違うかもしれませんが、クルマでどんなことができるかを大いに想起させる。掻き立てる器。これはこれで間違いなく自動車文化を感じるところだと言えるのではないでしょうか。

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クルマに終始しているのは実は自動車文化じゃないですね。それは単なるクルマ馬鹿。個人的にはこれでもいいですが。もっと生活や風土に根付いていることこそが、自動車が文化ではないか。そんな風に思うのです。その点カングーが私達にもたらしてくれること。それはそんな「こんなことをしたい」というイメージを掻き立てる可能性だったのではなかろうか。

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ともあれ、そのあたりのちょっとしたクルマよりも優れたハンドリング。またどのギアに入れていても踏み込めば加速していく、広めのトルクバンドと、あまりシビアではなくパワーを引っ張り出すギヤ。国内にもマニュアル車は輸入されていましたが、左ハンドルであることは、右利きの小生にとって右手で手漕ぎできる喜びがありました。望んでもなかなか見つかる仕様ではないのがとても惜しい気はしますが。遮るもののない楽しさがある。そんなクルマでした。この後すぐに納車先が決まったということ。なるほどそうだろうな。こんなに売り手市場なフランス車というのも実は少ないかもしれません。

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