更新2022.02.23
「同窓会」であり“大人の運動会”。愛機とサーキットを駆ける「SCENE IN THE 60’S カンレキ走行会2022」
野鶴 美和
去る2022年1月30日(日)に、岡山県美作市にある岡山国際サーキットにて開催されたレースイベント『SCENE IN THE 60’S カンレキ走行会2022』の取材に行ってまいりました。
地元・岡山県のレース運営団体『DAD'S Racing』が主催するヒストリックカーのレースイベントをご紹介します。
▲参加した皆さん。この日は58台のマシンが出走
■発足10年目・開催8回目を迎えた「カンレキ走行会」とは
今大会は発足して10年目。開催は今年で8回目を迎えました。
約30年前から地元のサーキットでヒストリックカーのレースを主催してきた『DAD'S Racing』が立ち上げたこのレースイベントには「この先、皆が還暦になっても集まって元気に走りたい」との思いが込められています。
「免許を取得した10代の頃から一緒に走っている仲間がたくさん参加してくれています。クルマという存在は、人生そのものだと感じます」
と、運営事務局の日下総一郎さんは話します。『DAD'S Racing』のレースに参加する方は、基本的に1台を長年走らせ続けるオーナーが多いそうです。高年式の車種に乗り換えて勝ち負けにこだわるよりも、長年愛し続けている“宝物”のマシンをどう走らせるかにこだわりながら、仲間たちと競り合う…。
この『カンレキ走行会』は、「同窓会」であり、“大人の運動会”なのです。
■製造から50年以上経つクルマたちが疾走!
当日は7時から8時まで車検。8時半からはブリーフィング、9時45分からはスポーツ走行という流れ。レースはAグループとBグループに分かれて午前中に予選を、午後に決勝が行われました。
この日は誰もが憧れた名車、普段見ることができない車種、オーナーのこだわりが表れたさまざまなマシンがサーキットを駆け抜けていました。
▲ホンダ S800(吉岡 安博選手)
▲日産 フェアレディZ432(斉藤 孝幸選手)
▲ダットサン フェアレディ2000(島田 和也選手)
▲マツダ ファミリアロータリークーペ(土井 総介選手)
▲ミニ 1300(片山 洋介選手)
●ピット風景
▲1番ピット
▲2番ピット
▲3番ピット
▲4番ピット
▲5番ピット
▲6番ピット
▲7番ピット
▲8番ピット
■【参加者VOICE】マシン&カーライフ拝見
レースの合間に選手の皆さんのマシンを拝見。こだわりやカーライフ、イベントへの想いを伺いました。
●【参加者VOICE】赤鹿 保生 選手(55歳)
アルファ ロメオ 1750GTV Gr.2(1971年式)
▲主治医のショップ「柳原メンテナンス」の皆さんとは、学生時代からの信頼関係
12歳から20歳までカートに乗り、モータースポーツに親しんできた赤鹿選手。それからブランクを経て45歳ごろにヒストリックカーのレースに出場するためマシンを購入したそうです。赤鹿選手はアルファ ロメオが大好きとのこと。
赤鹿選手:
アルファ ロメオが昔から大好きで、学生時代には2000GTVを中古で購入して乗っていたんです。エンジンがよく回って楽しいところがアルファ ロメオが好きな理由のひとつですね。中でも、当時ワークスカーだった1750GTAmにすごく憧れていました。
愛機との馴れ初めを伺いました。
40代になってレースを始めるにあたり、「憧れだった1750GTAmを作ってサーキットを走らせたい」という思いがありました。なので、ボディを見つけてからマシンを作りたいと決めていました。そんなところに縁あって、近県にある自動車部品メーカーにデモカーになる予定だった1750GTVがあると聞きました。その個体を譲っていただいたんです。そして、あらかじめ購入していたジュリアスーパーのレースカーの足回りやエンジンなどを移植しました。
▲「『カンレキ走行会』はレースの大先輩ばかりです。毎年楽しみにしているんです」と赤鹿選手
赤鹿選手がモータースポーツに取り組んでいて感じる、喜びや楽しさ、そして“クルマ”は赤鹿さんにとってどんな存在なのでしょうか?
赤鹿選手:
昔から憧れていたクルマを走らせることに喜びを感じています。時間をかけて作ったクルマをサーキットで走らせるときは本当に楽しいですね。もちろん競技なので、タイムアップも目指したいですし、仲間と一緒にモータースポーツに取り組めていることはうれしい。
ドライビングやクルマのセットアップに関してなど、いろいろと情報交換できますし。モータースポーツは私にとって、クラブ活動みたいな感覚です。この年齢になってタイムアップしたり、上達できることに魅力を感じます。
クルマを通じて多くの出会いがあり、クルマという趣味がなかったら縁がなかった方もたくさんいます。クルマは人生を豊かにしてくれる、なくてはならない存在ですね。
▲前日から点火系の不調を抱えていたとのことだが無事完走!
●【参加者VOICE】浜野 賢人 選手(38歳)
モーリス ミニクーパーS(1968年式)
▲「製造から50年以上経つクルマたちは文化のひとつといえると思います」と浜野選手
60年代当時の雰囲気にこだわって、丁寧に仕上げられたマシンとの付き合いは約12年、サーキットを走り始めてからは約10年という浜野選手。まずはマシンの紹介していただきました。ちなみに、ミニのレース用マシンは比較的新しい年式のマシンが多いなか、浜野選手のマシンは1960年代当時の個体です。
浜野選手:
外観も中身も、1960年代に雰囲気を壊さないようなチューニングにこだわっています。ホイールは10インチ。60年代のクーパーSなのでスライドウインドウになっています。
浜野選手がモータースポーツに取り組んでいて感じる、喜びや楽しさについて尋ねてみました。
浜野選手:
タイムや順位も重要ですが、やはり仲間と一緒に走るのが楽しいですね。趣味でありながらも競技として真剣に向き合うことも大切にしています。結果としてタイムが更新できたり良い順位が獲得できたりすると「続けていて良かった」と思いますね。
▲中身は競技仕様に。エンジンはスプリット ウェーバー。ミッションはナリタガレージ製の5速ドグミッション
この『カンレキ走行会』への参加は3〜4回目という浜野選手。レースイベントに抱く思いを伺います。
浜野選手:
ヒストリックカーのレースは海外では盛んですが、日本では数少ないので大事な場だと思いますし、今日ここに来ているクルマも製造されてから50年以上経つ貴重な個体ばかりで、しかもレーシングカーになっていることも貴重だと思います。
自動車は移動の道具として誕生しましたが、製造から50年も経つと、ある種の文化遺産というか……ここまで生き残ってきたクルマたちは、今後も守っていくべきだと思いますね。クルマというよりも「文化のひとつ」だと思います。
今後のカーライフと抱負を伺いました。
浜野選手:
趣味でありながらスポーツとして今後も真剣に取り組んでいきたいです。“本場”ヨーロッパのレース、英国のレースにも出場してみたいです。時間も準備も必要ですが、いずれは最終目標として達成したいですね。
▲ホイールは10インチ、スライドウインドウなど当時の雰囲気を大切にしている
●【参加者VOICE】早川 和宏 選手(40歳)
ヒルマン インプ スーパー(1966年式)
▲広島県呉市でヴィンテージバイクショップ「リプレイ モト サービス」を経営する早川選手
『カンレキ走行会』は、今回が初参加と話す早川選手。愛機を手に入れてからは約3年。千葉県で行われているレース「サイドウェイ・トロフィー」にも参加しているそうです。
早川選手はヴィンテージバイクショップ「リプレイ モト サービス」のオーナーでもあり、これまで競技のトライアルやモトクロスに取り組んでいたとのこと。四輪のレースを始めて今年で3年目だそうです。早川選手にレースを始めるきっかけやマシンとの出会いを伺いました。
早川選手:
以前からレースをやってみたくて、耐久レースに誘っていただいたのがきっかけです。そのうち、英国車ばかりのレースに出たいと話していたところ、「ヒルマン インプなんかどう?」とすすめられました。でも当時はほぼ見かけなかったですし、クルマ自体知らなかったのですごく気になり始めました。RRだし楽しそうだと思い手に入れたくなったんです。
それから半年ほど経ったころ、地元で開かれたヒストリックカーのカーイベントで偶然、ヒルマン インプが出てきて「良いなあ!」という感じで見ていたところ、その個のオーナーさんがまもなく手放すことを知ったんです。それで個人売買で購入することになりました。
愛機と運命的な出会いをした早川選手。実際に走らせてみて感じた、ヒルマン インプの魅力を尋ねてみました。
早川選手:
エンジンは非力ではありますが、すごく高回転まで回って、RR独特の乗り味がおもしろいです。見た目も可愛いですし、好きですね。
モータースポーツを満喫しているという早川選手に、四輪でレースを始めて感じる楽しさと、今後の抱負を伺いました。
早川選手:
同じレベルの方とバトルできることも楽しいですが、綺麗に乗れたときがうれしいですね。四輪はまだ始めたばかりなので、もっともっと上達したいです。上達したら別の車種にも乗ってみたいと思っています。
▲お気に入りポイントはレザー製の「ボンネットストラップ」
▲「リアビューのデザインも好き」とのこと
■各レースの結果
●Aグループ(決勝)
1位 日下 恭一郎 選手/ロータス エランS4
2位 牧 宏光 選手/ロータス エランS3
3位 林 誠 選手/ホンダ 1300クーペ
●Bグループ(決勝)
1位 蒲生 真哉選手/日産 ブルーバード1800SSS
2位 蔵田 敏孝 選手/日産 ブルーバード1800SSS
3位 濱田 泰典 選手/トヨタ カローラ レビン
■取材後記:一日中「エモさ」を感じた取材でした
目と耳が幸せな一日でした。製造から50年以上経つ国内外のヒストリックカーたちが次々と出走する姿に、時代の境界が曖昧になるような、えもいわれぬ感覚をおぼえました。最近のワードで表現すると“エモい”! 全開走行する姿には息吹を感じます。走っている姿の美しさ、そして咆哮をあげているようなエキゾーストノートに胸が熱くなりました。
こちらのイベントに参加していた方の平均年齢は、イベントタイトルにもあるように50代後半から60代だそうですが、この日は20代から70代まで幅広い年代の参加があったことを知りました。
「大好きなクルマに乗るために健康でいよう、仕事を頑張ろう」
と、クルマが日々の原動力になっていることが伝わってきます。「好き」のチカラを感じたと同時に、自分が「人に愛されているクルマが好き」だとあらためて感じることができた取材でした。
[取材協力]
DAD'S Racing 事務局
岡山国際サーキット
[ライター・撮影/野鶴美和]