ライフスタイル
更新2017.11.28
たった1つのアンケートがセールスマンの給与を左右する?改めて自動車ディーラーとの付き合い方を考えてみた
JUN MASUDA
「あれ?前みたいに営業担当者から“買ってくれ”と迫られることが少なくなったぞ」と。
最近、自動車販売の現場に変化が生じつつある
何を隠そう、ボクもそう感じている一人である。
だから、最近クルマを購入したディーラーの営業担当者に「最近こう感じるのだが」と単刀直入に聞いてみた。
そうすると彼は「以前は販売台数が給料を決める大きな要素だったものの、最近では販売台数よりも、顧客アンケートの結果の方が給料を左右する割合が大きくなった」ことがその理由ではないか、と教えてくれた。
顧客アンケートとは?
顧客アンケートはいくつか種類がある。
大きく分けると「ディーラー単位で実施するもの」「メーカーがディーラーを飛び越えて実施するもの」。
前者について、これを行っていないディーラーもあるので、今回は後者に限定し、触れてみたいと考えている。
メーカーが実施するアンケートにも幾つか種類があるのだが、一般的には「試乗や商談を行った際の、販売店や営業担当者に関するアンケート」そして「クルマを購入した際の、販売店や営業担当者に関するアンケート」が挙げられる。
まず、「試乗や商談を行った際の、販売店や営業担当者に関するアンケート」だが、最近だと試乗や商談について、「WEB予約」ができるようになっている。
これを自動車メーカーのホームページを通じて行った場合、もちろんメーカーにもその記録が残るのだが、予定していた商談や試乗日が過ぎた後に、メーカーから「お店や担当者の対応はどうでしたか?」というメールが送られてくる、というものだ。
もうひとつの「クルマを購入した際の、販売店や営業担当者に関するアンケート」も同様で、もちろん「誰がどのクルマを購入したのか」はメーカーにて把握ができる[※]。
そして、クルマを購入した後にやはり「お店や担当者の対応云々」というアンケートが送信されることになる。
[※]並行輸入車や、保証が切れてそれを継続しない場合等は、この限りではない
これらアンケートだが、項目はじつに多岐にわたる。
「店内の雰囲気」「担当者の対応速度」「どの程度要望を聞いてくれたか」など。
そして多くは「5段階」で評価することが多いようだ。
そして、この5段階の内容は、おおよその場合、下記のように設定されている。
もちろんすべてがこの限りではないが、ボクの知る限りでは、こういった選択が多いようだ。
「5.非常に良い 4.良い 3.普通 2.やや不満 1.不満」
「5.非常に良い」以外は「悪い」と同義だ!
そしてボクらはこのアンケートに対して回答を行い、メーカーに送信することになるのだが、ここでボクが注意していることがある。
なんでも「ぶっちゃけて」話してくれる自動車ディーラーの営業担当者を、ボクは何人か知っている。
そして彼らが口を揃えて言うのが「5.非常に良い」以外は評価されないということだ。
彼らの評価は、「5.非常に良い」という顧客からのフィードバックが返ってくることによって、はじめてプラスとなる。
「4.良い」ですら加点されず、「2.やや不満」以下は論外だ(マイナス査定の対象なのだろう)。
冒頭で述べた、「以前は販売台数が給料を決める大きな要素だったものの、最近では販売台数よりも、顧客アンケートの結果の方が給料を左右する割合が大きくなった」とはこれを指しており、いかに販売台数が多くとも、顧客からの評判が芳しくない営業担当者の評価は上がりにくい、ということだ。
逆に(こういった例が実際にあるのかどうかは知らないが)販売台数がさほど多くない営業担当者であっても、顧客からの印象が非常に良い場合は、なんらかの「プラス査定が」彼もしくは彼女に対してなされるのかもしれない。
なぜこういった変化生じるようになったのか?
このような「販売数至上主義」からの変化について、ボクはこう考えている。
「今や自動車は嗜好品であり、ブランド品と同じ観点で語られるようになったからではないか」、と。
これはどういうことだろう。
ボクの考える理論はこうだ。
昔は、自動車といえば「生活必需品」、もしくはそれに近いものだった。
そして、「人びとに行き渡るまで」は販売台数もどんどん伸びた。
しかし今は違う。
自動車はボクらにとって「必要」ではない。
むしろ「負担」に感じる人もいるだろう。
もちろん「必要」な人もいるが、そういった人びとにもすでに自動車は「行き渡って」しまった。
そうなるとあとは販売を伸ばすにも「買い替え需要」しかないが、耐久性が飛躍的に伸びた現代の自動車では、その需要も大きく望めないのだろう。
これは現在の日本における自動車登録台数の推移が如実に物語っている。
つまり、自動車は「必要」なモノから、「必要ではない」モノとなってしまったのだ。
そういった状況において自動車メーカーが自動車を売るにはどうするだろう?
機能や性能をアピールしても、そもそも「必要ではない」人の心には届かない。
だから、「必要ではない」人びとに「必要」だと思わせることにしたのだろう、とボクは考えている。
この手法はバッグやアパレルにおける「ブランド品」と良く似ている。
ボクらは生活するのに、高価なバッグや、華美な服は必要ではない。
しかし、それらを「欲しい」と思わせるのがブランドビジネスの基本なのだ。
今や、自動車は「ブランド品」として売る必要があり、そのためのブランディングこそが、各メーカーともに抱える共通の課題と化しているのかもしれない。
これは軽自動車とで同じことだ。
多くの軽自動車において、乗り出しが200万円を超えるようになったという事実そのものが、「軽自動車のブランド化」を示している。
自動車メーカーの集客方法も変化している
ちょっと前までは「販売台数至上主義」だったものが、すこし雰囲気が変わってきていることはわかってもらえたと思う。
そしてメーカーが「ブランディング」を重視する必要がでてきたことも。
そうなると、どういった変化が出てくるだろう?
まずはショールームの外観や内装、備品の統一だ。
これは「CI(コーポレートアイデンティティ)の統一」ということで、随分前から進められているので、今となっては新しいことではない。
ただ、「ブランド」にとって、世界中どの国、どの地域に行っても「同じ外観やサービス」であることが重要なのだ。
たとえばボクが言葉の通じない外国に行ったとする。
そしてスターバックス コーヒーへ行き、レジでメニューを指差しながらコーヒーを注文し、その後は日本にいるのと同じように、赤いランプの灯る「受取り」カウンターへゆけば無事にコーヒーを受け取ることができる。
こういった「購入のプロセスやサービス」を均一化することがブランディングの第一歩だ。
だから、自動車業界もどんどん店舗の内外装、備品、そしてサービスも統一されてきた。
今までは自動車ディーラー単位での判断が可能であったことも、この段階では「裁量」がなくなってしまったのかもしれない。
そして、それと同じようにプロモーションや販売においても各自動車ディーラー間での自由度が減ってきたようにボクは思う。
その代わり、自動車メーカーはこれまで以上にブランド認知の機会を増やす努力を行っている。
メルセデス・ベンツの展開する「メルセデス・ベンツ コネクション」はその典型で、この「クルマを売らないショールーム」へと気軽に来場してもらうことで、メルセデス・ベンツの認知機会を拡大し、メルセデス・ベンツに対する購買意欲を促進し、そして消費者の足がメルセデス・ベンツディーラーへと向くようにしているのだ。
同様に他メーカーにおいても、自動車メーカー主催の試乗会やイベント開催なども行うようケースが多く見られるようになってきた。
これまでは「クルマの認知機会と購買意欲発生」について自動車ディーラーが単体で行ってきたことになるかもしれないが、今は自動車メーカー本体が一括してこれを行うようになってきていると考えられる(上述の、自動車メーカーページ経由による試乗や商談予約もこれの一環だといえる)。
そうなると自動車ディーラーの役割も自ずと変わってくる。
自動車メーカーがつくった機会を「最大限に活用する」ことが求められるようになり、そこには「販売台数」はもちろんのこと、やはり「ブランディング」という要素が絡んでいるはずだ。
たとえそのとき成約に至らず自動車を購入してくれなかったとしても、その自動車メーカーのファンになってくれたり、また次にクルマを買おうと考えた時には「まっさきに」その自動車メーカーや自動車ディーラーを思い出して欲しい、と自動車メーカーは望むのだと考えられる。
そのためには「買って」と迫るような営業をしていては逆に消費者を遠ざける結果になる可能性があり、よって最近はこういった「お願い営業」が減っているのではないか、とボクは考えている。
これから先、自動車ディーラーとはどう付き合うべきか?
そこでボクは考える。
変化しつつある環境の中で、自動車ディーラーとはどう付き合ってゆくべきか?
簡単なのは上述の、自動車メーカーが実施する「顧客アンケート」への回答だ。
ボクは基本的に、よほど悪い印象を受けない限りは、できるだけ「5.非常に良い」と回答するようにしている。
しかも、その内容については仔細に記すようにしている。
アンケートは無記名の場合もあるが、記名を選べる場合もあるようだ。
記名を選んで返信した場合、なんらかのフィードバックが各自動車ディーラーへゆく可能性がある。
その場合、その自動車ディーラーや、営業担当者個人に対してボクがポジティブな回答をしていることが自動車ディーラーにわかれば、今後のコミュニケーションもスムーズに進むことだってあるだろう。
よって、この「5.非常に良い」と回答するのは、相手のみならず自分にとっても良い結果を生み、自動車ディーラーと良い関係性を構築できる可能性がある、ということだ。
そして、自動車ディーラーとうまく付き合えば、試乗など様々なイベントにも呼んでもらえることになる。
「うまく付き合う」というのは、端的にいえば自動車ディーラーに利益を落とすことだ。
この「利益」には色々あり、「顧客アンケート」もその一つだが、ほかにはもちろん「自動車を買うこと」が直接的なものであるのには間違いがない。
しかし、これはそうそうできることではないので、ここでは割愛する。
ほかに自動車ディーラーの得られる利益として、触れておかねばならないのは「メンテナンス」だ。
自動車ディーラーにとって、意外と「車体販売時に得られる利益」は小さい、と聞く。
そして、逆に「利益」として大きなものは「メンテナンス」など定期的に入ってくる収入だ、とも。
自動車を購入したのちは定期点検や車検、消耗品の交換などで自動車ディーラーを利用することになるが、これが自動車ディーラーにとっては「バカにならない」ということだ。
だから、ぼくは定期点検はちゃんと購入した自動車ディーラーで行うようにしている(安いからといって、その場その場で点検を受ける場所や整備する工場を変えたりしない)。
そしてもうひとつ、「任意保険」も点検や整備と同じで、自動車ディーラーにとっては大きな収入源でもある。
よって、これらも購入した自動車ディーラーにて加入するのがいいだろう。
ボクらは、“選ばれる”客になるべきだ!
ボクがいつも考えるのは、「ボクらが自動車ディーラーを選ぶのと同様、自動車ディーラーも客を選ぶ権利がある」ということだ。
その選択基準は「利益」になるが、これは今まで述べたように「金銭」だけではない。
顧客アンケートのように、自分を尊重してほしくば、まずは相手を尊重したほうがいい場合もある。
そして、点検整備や保険など、「どうせ」費用を投じる必要があるものであれば、同じディーラーに集約したほうがいい。
日本では「お客様は神様」といった風潮があるが、今はそういった時代ではない。
限定フェラーリのように、「お金を持っていても欲しいものが買えない」場合だってある。
そして、今後自動車業界が「ブランドビジネス化」してゆくことを考えると、「欲しいものを売ってもらえない」場合だった出てくるだろう。
長い長い納車待ちの列に並ぶことだってあるかもしれない。
そういった時に、自分のポジションを少しでも有利にしておこうという利己的な判断でもいいし、たんにその自動車メーカーやディーラー、営業担当社が好きだからという理由でも構わない。
ただ、相手にとって「何がメリットになるのか」を考えて行動するのは、けっして悪いことではない、とボクは思う。
[ライター・撮影/JUN MASUDA]