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更新2017.10.15
地平線まで続く砂漠をトヨタ ランドクルーザーで駆け抜ける!ドバイの「サファリツアー」へ行ってきた
JUN MASUDA
街なかを走るスーパーカーたち、とんでもない希少車がずらりと並ぶエキゾチックカーディーラー、体育館のように大きなランボルギーニの新しいショールームなど、語りたいことは山のようにあるが、今回ここで触れるのは「サファリツアー」だ。
そもそもドバイとは、どういったところなのか?
▲サファリツアーとは、オフロードカーで思いっきり砂漠を「ぶっとばす」豪快なツアーのことだ
まずドバイについて紹介しておく必要がある。
読者の方々は、ドバイについてどういったイメージをお持ちだろうか。
金ピカのロールスロイス、オイルマネー、やたらと下品な改造車・・・?
▲ドバイの空港にて。ポルシェ911が当たる「くじ」が売られている。やはりドバイはスケールが違うと感じる瞬間だ
ボクも同じように考えていた。
そう、ドバイを訪れるまでは。
実際のドバイは、ボクが想像していたようなところではなかった。
まず、ドバイは直接的にオイルマネーで潤っているわけではない。
ドバイは、アラブ首長国連邦を構成する一つの国で、中東に位置してはいるが、実は、産油国としての規模は小さいのだ。
実際に、ドバイのGDPに占める石油の割合は、わずか数パーセントだという。
周辺国に比較して、ドバイはもともと石油の埋蔵量が少なく、そのため常に「石油に依存しない方法」を考えてきた。
その方法とは、「流通」、「貿易」、「観光」の三本柱だ。
▲ドバイミュージアムには「貧しかったころ」のドバイの様子が展示してある。この世の春を謳歌しているように見える彼らだが、「あのころには戻りたくない」、「戻らないためにはなにをすべきか」を考えているようだ
近年におけるドバイの発展は石油に依存したものではなく『これら三本柱(流通、貿易、観光)によるものだ』ということを、ボクは強調したい。
しかし、(パリのエッフェル塔、エジプトのピラミッドに代表されるような)観光資源に乏しく、そしてアジアからも欧州からも遠いドバイにとって、企業や人を誘致するのは容易ではない。
そこでドバイの偉い人たちは考えたはずだ。
「どうやったら世界中にドバイの名を知らしめることができ、人々を呼びことが出来るのか?」と。
その手段として用いられたのが、おそらくはかつて「世界一」の高さを誇ったブルジュ・ハリーファ(カリファ)であり、真夏には摂氏40度をゆうに超すなかにそびえる「室内スキー場」であり、世界最高ランクの7つ星を誇るホテル「ブルジュ・アル・アラブ」であり、宇宙から唯一確認できる大きさを持つという人工島「パーム・アイランド」だったのだろう。
こういった「トンデモ級」の建造物がドバイをドバイたらしめていると思われるが、これらのインパクトは非常に大きく、結果としてドバイの名を世界中に轟かせることになった。
▲ホテル前から見たブルジュ・ハリーファ
ドバイの人々は「自分たちが持っているモノが少ない」ことをしっかりと認識し、だからこそ、そのビハインドを跳ねのけるにはどうするのかを考え、そして実行してきた。
つまり、彼らは何が人々を惹きつけるのかをよく知っているということだ。
「サファリツアー」とは?
ここで話を冒頭の「サファリツアー」に戻すが、彼らは「何が人を惹きつけるのかを知っている」のと同様、「何が楽しいのか」を理解している。
ドバイは危険運転には非常に厳しい処罰を科すことで知られる一方、「ガス抜きができる」地域や施設が存在する。
そこでだけは何をしてもいいと言えるような開放地域であり、ドバイのオフロード系カーマニアが集まる「砂漠」もそのひとつだ。
ここへ行くにはどうするか?
個人でレンタカーを借りて行くのは難しく、「ツアー」に申し込むのがオススメだ。
「ドバイ サファリ ツアー」といったワードで検索すれば、相当数のツアーが出てくる。
ツアーの内容も様々で、単に砂漠を走るだけのもの、砂漠で一泊するもの、様々なアクティビティが付帯されているものなど。
車両についても「相乗り」から「貸し切り」まで選択できる。
ボクは今回、豪勢にも「貸し切り」を選択した。
もし「相乗り」を選び、しかしそこで同乗した人たちが車酔いなどし、砂漠を思う存分「ぶっとばす」ことができなくなると困る、と考えたからだ。
ここからはボクが手配したツアーについて述べてみたいと思う。
まず、チャーターした車両はホテルまで迎えに来てくれる。
ホテルのロビーからドライバーが到着したと連絡を受けて階下に降り、ホテル前の車寄せに向かうと、そこにはメルセデス・ベンツGクラス、ベントレー・ベンテイガ、アウディQ7、ポルシェ・カイエンなどずらりと高級SUVが並んでいる状態だった。
▲ホテルのエントランスにはずらりと高級車が並ぶ
きっとこれらのクルマの中のどれかだろう、と期待に胸を膨らませたが、ボクのために用意されたそれは、残念ながらポルシェでもベントレーでも、メルセデス・ベンツでもなかった。
ずっと奥に駐車してあった、堂々とはしているが、それら高級SUVに比べるといくぶん地味な「トヨタ・ランドクルーザー」である。
いざ、砂漠へ
すこしがっかりしたボクは、ドライバーに「メルセデス・ベンツGクラスでなくて残念だ」と本心をこぼした。
するとドライバーはいう。「ランドクルーザー以上に砂漠を走り抜けるのに適したクルマはない」と。
そしてボクは後に、実際にこの意味を自分自身の体で理解することになる。
サファリツアーにて、実際にボクたちが走る砂漠は、ドバイ市街地からクルマで40分ほど走ったところにある。
市街地は砂の気配すらないが、すこしそこから離れると徐々に建物が減り、荒野が出現する。
そしてもう少し走ると、人口の建造物がほとんど視界に存在しなくなってくる。
▲だんだん砂漠っぽい雰囲気が出てきた
そして、砂漠の中にポツンと建っているドライブインのようなところでドライバーはランドクルーザーを停め、「ここでひと休みだ。トイレはあちら」と指をさす。この先もうトイレはない、ということだ。
このドライブインのような施設には、ボクたちと同様に「最後の休憩」や「水分補給もしくは排出」のため、クルマが集まっていた。
その多くはトヨタ・ランドクルーザーで、ごく少数だが日産パトロールの姿も見られる。
スズキ・ジムニーの姿も確認することができた。
▲バギーを牽引してきたスズキ・ジムニー
ボクを運んできたドライバーに目をやると、ランドクルーザーのタイヤから空気を抜いている。
こうすることで砂地でのトラクションを確保するのだそうだが、ドラッグレースにおいてもグリップを得るため空気圧を下げるのとよく似ているのかもしれない。
ここで最終の整備をしたりエンジンの調子を見たりするドライバーも多いので、駐車場はそれなりに騒がしい。
しかし、そんななか、ひときわ大きなエキゾーストサウンドを響かせるクルマが入ってきた。
音の主を見ると日産の古いオフローダー。
そのポテンシャルを誇示するかのように、ドライバーは大きくアクセルを踏み込むのだが、排気音以上に大きなのがウエストゲートから過給圧が解放されるときのサウンドだ。
天高く抜けるような「プシャァァァ!」という音を聞く限り、そうとうに過給圧は高いと思われる。
ドライバーがクルマを降り、ボンネットを開いたところで、ぼくは彼(ドライバー)のもとへと歩み寄る。
エンジンルームを覗いてみると、そこにはいかにもハンドメイドっぽいインダクションボックスや遮熱板、タービンとエンジンを連結するパイプがあった。
▲これがそのエンジンルーム
彼はぼくを見て、ニヤリと笑っていう。「こいつは特別製のターボだ。そのあたりのターボとは違う」。
そしてこうもいった。「お前は日本人か?日本車は最高だな」。
歴戦の友と言えそうなほど年季の入った日産に乗る彼の言葉には重みがあった。そして、駐車場に集まったクルマのほとんどが日本車であるところを見るに、彼の言葉に間違いはないようだ。
▲とにかくランクルだらけの駐車場。ボクはこれだけの数のランクルが一堂に会するのを見たことがない
実際に砂漠を走行してみる
ドライブインのようなところを出て少し走ると、もうそこは砂漠だ。
完全に人の手による建造物は姿を消し、砂と岩、そしてわずかばかりの草しかない。
▲砂漠に到着
ボクを乗せてきたドライバーはここで急にカーオーディオをいじりだす。
何をするのかと思えば、流していた音楽を急にアップテンポのものへとチェンジした。
そして「用意はいいか?」というと彼は猛スピードで走り出す。
たしかにこの速度にはアップテンポの曲がぴったりだ。
正直なところ、この砂漠の起伏や斜面は予想以上だった。
風によってできた砂のコブを飛び越えるように疾走し、左右に転がりそうになるほどクルマは傾く。
斜面を降りるときは「まっさかさま」に落ちてゆくように感じられ、逆に斜面を登るときは「空しか見えないほど」の急角度だ。
グラブバーを握っていないと姿勢を保てず、ルーフに頭を打ち付けないように片手をルーフにつっぱらねばならないほど動きが激しい、と言えばその激しさがわかるだろうか。
▲とにかく動きが激しすぎて写真を撮るのがやっとだ。先行するクルマの巻き上げる砂を見てもわかるとおり、けっこうな速度が出ている
ツアーにおける砂漠の走行については、ドライバーはかなり多くの要望を聞いてくれる。
走る速度や選ぶルート/起伏の激しさはむろん、風景を楽しむためにゆっくり走ってほしいなど、要望があれば何でも伝えるといい。
ドライバーのほうでも常にこちらの様子を気遣ってくれていて、「最大限楽しめるように」配慮しているようだ。
▲絶景スポットではクルマを停め、写真を撮ってくれたりもする
もちろんここへ来ているのはサファリツアーのクルマだけではない。
実際のところ、その多くが現地つまりドバイ人のようだ。
彼らの楽しみ方は様々で、友人のクルマと自分のクルマを並べて砂上での加速を競ったり、どうみても「絶壁」にしか見えない砂の壁を登ろうとしたりと、かなりチャレンジングだ。
なかには自らのクルマのパフォーマンス、そしてドライビングスキルを見せつけるために、観光客の目の前を華麗なドリフトで走り去るドライバーもいる。
▲このFJクルーザーのドライバーはかなりの腕前の持ち主だった
ここにいるドライバーはみな、「楽しむためだけに」クルマに乗っていて、もちろん彼らは「クルマは移動の道具」とは微塵も考えていないのだろう。
やはりドバイの人たちは「楽しみ方」を知っている。
今回は触れる余裕は無いが、「オンロード」で楽しみたい人にとっては別の場所があり、「海の上」で限界に挑戦したい人にはまた別の場所がある。
ドバイはその人の楽しみ方によって最適な場所を提供してくれるようだ。
▲地平線まで、見渡す限り砂漠が続いている
ボクはドライバーに聞いてみた。
なぜこんなにトヨタ車、しかもランドクルーザーが多いのか。
彼によるとこうだ。「この過酷な環境でオーバーヒートせずに走れ、砂の壁を登ることができ、そして壊れないのはトヨタ車しかない。その中でもランドクルーザーはもっとも優れる」とのことだ。
▲砂塵を巻き上げ疾走するランドクルーザー
たしかに彼の言うとおり、この環境は過酷だ。
砂は小麦粉のように粒が細かく、クルマのあらゆる部分に入り込む。
そしてそれはクルマをどんどん蝕んでゆくだろう。
それでも機能や性能を維持するには、砂が「内部まで入り込まない」ための構造や精密さが必要だ。
▲手にとることすら難しい、ドバイの軽く細かい砂
砂漠での走行は日ごろ体験できないもので、ランドクルーザーのオフロード性能の一角を知るにはうってつけだ。
なにより「目に入る範囲すべて砂しかない」風景は、日常のあわただしさを忘れさせてくれる。
▲カタログの1ページにでもできそうだ
およそ数時間の走行も終盤に差し掛かるころ、砂漠は日没を迎える。
砂の大地に沈む太陽は絶景だといっていい。
▲ゆっくりと沈みゆく太陽
ツアーによっては、夕食やエンターテイメントがついていて、ドバイ現地のトラディショナルなメニューを食すことができる。
そのあとは夜の砂漠を超えて街に戻ることになるが、夜の砂漠、そして砂漠の中にポツポツと見えてくる摩天楼の明かりもまた格別の雰囲気がある。
▲夜の砂漠を抜けて帰路へ。先になにがあるかわからない環境をハイスピードで走るのはちょっとした恐怖だ
料金は数千円~数万円といったところで、「非日常」を体験し、「クルマの限界性能(実際はまだまだ限界には程遠いと思われるが)」を試すには安いと思える内容だ。
家族にとっても楽しく過ごせるであろうと思われるだけに、ドバイ訪問の際には強く推薦したいアクティビティといえそうだ。
[ライター・撮影/JUN MASUDA]