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更新2018.08.28
なぜ自動車メーカーはレストアビジネスを始めるのか?その理由を考えてみた
JUN MASUDA
スーパーカーメーカーだと、フェラーリが自社のクラシックモデルをレストアする「フェラーリ・クラシケ」、同様の活動を行うランボルギーニの「ポロストリコ」が有名だ。
世に送り出したクルマの、実に70%が現役で走っているというポルシェも「ポルシェ クラシック」なる部門を持ち、レストアを行うのはもちろん、ポルシェ愛好家に向けてクラシックモデルのパーツ販売を行っている(しかも、オンラインにてモデルごとにパーツを検索可能だ)。
その流れは日本にも波及している
日本国内に目を向けると、日産が「GT-R(BNR32)向け」にパーツの復刻販売を開始したし、ホンダも「ビート(バイクではなくクルマのほうだ)」オーナーのために絶版パーツを再販するという英断に踏み切った。
マツダは初代ロードスターのレストアサービスを開始し、輸入車販売の老舗であるヤナセも「ヤナセ クラシックカーセンター」をオープンさせ、往年の名車を高い技術で蘇らせる、としている。
今回はそういった「昔の車」に焦点が当てられているという潮流についての考察だが、旧いクルマの呼び方は様々だ。
たとえばヴィンテージカー、ヒストリックカー、クラシックカー、ネオクラシックカー、旧車など。
ただ、それぞれ明確な定義がなされておらず、ここでは「1960年代くらいまでに製造され、希少価値が高いクルマ」をクラシックカー、「それ以降に大量生産されたクルマ」を旧車、という具合にザックリと分けてみたい。
なぜ、旧いクルマが見直されるのか
ボクは、このような「クラシックカーブーム」や「旧車ブーム」ともいえる流れについて、その理由は4つあると考えている。
それは下記の通りだ。
1.クラシックカーは投資対象として優れる
2.クラシックカー/旧車の維持、中古相場上昇はその自動車メーカーの価値を向上させる
3.旧車は新しい
4.旧車であっても投資対象として優れる
順を追って見てゆこう。
「1.クラシックカーは投資対象として優れる」だが、これはもはや説明の必要はないだろう。
英エコノミスト誌も、クラシックカーは不動産や美術品、ヴィンテージワイン、もしくは株式といった、あらゆる投資対象の中でも「もっともリターンが高い」と位置づけている。
例を挙げるとキリがないが、フェラーリ250GTOやジャガー D-Typeがその典型でもあり、競売に登場する度に「高値記録を更新」しているのはよく報道されるところだ。
「2.クラシックカー/旧車の維持、中古相場上昇はその自動車メーカーの価値を向上させる」について、これは”買う側”ではなくメーカー側の事情だ。
たとえば、フェラーリの中古車は高いことで知られている。クラシックカーではなく現行モデルでも非常に高い。
488GTBのように、新車価格を超えて取引されるモデルもある。
そうなると、消費者は「フェラーリは中古でも高く売れるので、買って安心」だと考えるようになり、新車が売れる。
新車が売れると、メーカーは新車に対して、より高い値付けを行えるようになり、当然だが利益も増える。
だから、自動車メーカーによっては、中古相場をコントロールしている会社もあるほどだが、とにかく「新車を売るためには中古相場を高く維持しなくてはならない」のは間違いない。
そしてフェラーリの場合、クラシックカーの価値が非常に高い。
クラシックカーの価格は希少性だけではなく、そのメーカーの持つ「ブランド価値」も重要だ。
フェラーリの場合はそれが「レース活動によって形成された」のは疑う余地がないが、これがもし、市場に出てくるフェラーリのクラシックカーが「ボロボロ」のものばかりだったらどうだろう。
市場は「売りっぱなし」でメンテナンスをろくにしない、という印象を持つかもしれない。
そうなると安心してクラシックカーはもちろん、現行モデルも購入できないだろう。
となれば当然新車販売も減少するかもしれない。
こういった事情もあり、自動車メーカーはその責任を社会に示すため、自社の送り出したクルマの面倒を最後まで見る、という風潮が生まれている。
これがブランド価値を形成するのだと考えているが、たとえば現存する初代マツダ・ロードスター、日産(BNR32)GT-Rのコンディションを常に最適に保てる環境を用意することで、ロードスターやGT-Rは「ブランド」としての価値を高めることになる。
そうなると、マツダはロードスターの、日産はGT-Rについての「未来」が約束されるということにもなり、これは会社の繁栄をもたらすことになるだろう。
フェラーリはこういった事情をよく理解しており、だからこそ業界最長の「15年保証」を導入したのだとボクは考えている。
”旧い”は新しい?
「3.旧車は新しい」について、これは逆説的ではあるが、よく言われる「一周回って」というアレだ。
たとえば、今20代の人が生まれたのは1989-1998年あたりということになる。
ということは、これらの世代の人々は、リアルタイムで初代マツダ・ロードスターや日産(BNR32)GT-Rを見ていない。
そして、これらのクルマは今の時代のクルマとはまったく異なるデザインやサイズを持っている。
だから、現代のクルマに慣れ親しんだ若者が、こういった1980-1990年代のクルマを見ると「新しい」と感じる部分があるのだろう、とボクは思う。
流行でも同様で、70年代をリアルで過ごしていない現代の20代が、(40-50代の世代から見て)”古臭い”と思える70年台ファッションを、”新しい”と感じているのとよく似ているのかもしれない。
ただ、すべての旧車が人気だというわけではない。
現在でも人気のある旧車は、コミックや映画に登場したり、今も後継モデルが第一線で活躍していたり、というケースが多いようだ。
たとえば日産GT-Rの現行モデルというと「R35」だが、登場から10年が経過しているものの、今なおその存在感は強大だ。
そういったR35 GT-Rを見た若者が、そのルーツでもあるR32 GT-Rに対して興味を抱くのは自然な流れかもしれない。
ポルシェ911にも同様の傾向が見られ、水冷世代の911を購入した後に911の魅力に取り憑かれ、「空冷」へと時代をさかのぼってクルマを買い換える人々も多い。
やはり価値の維持は重要だ
最後の「4.旧車であっても投資対象として優れる」だが、やはりカネの話だ。
アメリカでは「新車発売時に、アメリカで販売されなかったモデルは、その後25年間アメリカに輸入できない」というルールがある。
逆に考えると、アメリカで新車販売していなかったクルマでも、25年を経過すれば輸入してもいい、ということになる。
今は2018年だから、1993年に発売された日本車(もしくはアメリカ以外の国の車でも)は、今からアメリカへと輸出できる。
そして、そういったクルマを求める人々は少なからずいて、これが旧車の価格を押し上げている一つの原因だとも言われている。
実際のところ、この「25年ルール」対象から外れてアメリカへと輸出することを目的に、あと数年で「25年を迎える」クルマを買い込んでいる業者も多数あるようだ。
そして、旧車の価値を押し上げる別の理由として、「映画」がありそうだ。
代表的なものは「ワイルド・スピード」だが、これのシリーズ一作目の公開は2001年。
たとえば、2001年当時にワイルド・スピードを見た16歳の少年は今だと33歳になる。
そして33歳だと、けっこうな経済的余裕があるかもしれない。
そういった大人たちが、かつて映画の中で見て、憧れだったクルマを購入しよう、という動きも無視できないように思える。
以上がボクの考える、現在のクラシックカーや旧車ブームについての「事情」だ。
基本的には個人の利益にせよ、企業の利益にせよ「カネ」が大半の理由ということになるが、純粋に自身の好きなクルマを手に入れたいと思い、それがたまたまクラシックカーや旧車だった、という例もあるだろう。
そしてもちろん、損得抜きに、自らの製造したクルマをずっと最良の状態に保ちたいと考えるメーカーもある。
人が人を好きになる場合と同様に、人がクルマを好きになる理由はそれぞれ違う。
「カネ」なくしてはクルマを購入できないのは事実だし、購入したクルマが高く売れないと次のクルマを購入しづらいのも事実ではあるが、ボクは「カネ」という色眼鏡なしにクルマを見たいとは考えているし、「カネ」抜きにクルマが語られる世の中であってほしい、とも切に願う(一部のクルマが投機対象としてしか見られないのは、悲しい現実でもある)。
[ライター/JUN MASUDA・撮影/江上透 & ドイツ駐在員]