
カーゼニ
更新2017.03.20
最新の電車みたいなドイツ車なんていらねえよ!うおおおおおお!

伊達軍曹
そこで思ったのは「……これならもう、世の中のクルマはぜんぶ自動運転にしちゃっていいんじゃないか?」ということだった。
素晴らしいクルマだが、素晴らしく「電車的」だった

決してそのクルマのことを批判したいわけではないため車名は秘す。いや批判したいどころか、さすがに最新のドイツ車はさすがであった。
高効率なターボチャージャーを備えた直噴方式の4気筒エンジンは、まるで高性能モーターか何かのようにスムーズかつパワフルであり、最新の8速ATは、いつ変速されてんだかされてないんだかわからないほど、介入感ゼロで常に最適なギアを選び続けた。「電車のマスコンかよ!」ってぐらいにスムーズだった。
回頭に関わる感触と能力も最高だ。結構な速度を出しながら、しかし汚い話で恐縮だが左手で軽く鼻クソをほじりながらテキトーに右手でステアリングをちょいと切ると、事前にイメージしたラインを5ミリと外さずに曲がっていく。20年前なら中谷明彦さんレベルの運転者しかできなかった芸当が、今や鼻クソをほじっている片手運転の素人にもできるようになったのだ。ある意味、素晴らしいことである。
しかしまた別のある意味では、退屈きわまりない1日でもあった。
電車のようにスムーズに加減速し、線路上を走る電車のように正確無比に、勝手に曲がっていくクルマ。それをしばらく運転していると、心の中には「……なら電車でいいじゃん!」との想いが堆積していくのだ。
木造校舎的ロードスターへの愛情は深まった、が……

まぁ実際は駅まで歩いたり満員のそれに乗ったりするのは結構かったるいので、「電車でいいじゃん」というよりは「こんなんならもう自動運転でいいじゃん! 誰が運転しても同じなんだからさ!」というのが、その日のわたくしの正確な心の叫びだった。
そんな1日があったゆえに、今現在わたくしが乗っている初代マツダ ロードスターの、まるで木造校舎のように(copyright 清水草一さん)素朴で、たまにギシギシと音がするような感触が、あらためて愛おしくてたまらなくなった小生である。
本当の超初心者やペーパードライバーでさえなければ誰が運転しても同じ動きをする最新世代のヨーロッパ製高級車と違い、こちらは上手く操作してやれば上手く走り、逆にドライバーがたまに失敗すると「ガクッ!」と昭和の漫才師のようにずっこける。そこが、可愛い。そしてわたしではなく中谷明彦氏が運転すれば、まったく同じ個体なのに2倍も3倍もスムーズかつスピーディに走ることだろう。そこが、奥深い。
ということで「最新の電車みたいなドイツ車なんていらねえよ! オイラはこの木造校舎みたいなクルマとともに、ひたすら無骨に人馬一体で生きていくぜ! うおおおおおお!」と叫びたいところだが、そう叫んでしまうのもまた早計というものだ。
なぜならば、人はたまには電車的なものに乗りたいし、乗るべき生き物だからである。
正直、たまには楽ちんなクルマで何にも考えずに移動したい

ドライバーからの入力に応じて動きが変わり、そして木造校舎のようにギシギシときしむNAロードスターのことを筆者は「愛している」と言っても過言ではないと思う。しかし同時に、鬱陶しく感じる瞬間もある。いつもではないが、たまにはやっぱり電車みたいに安楽な乗り心地のクルマに乗って、ほぼ何も考えないまま30kmとか50km先の目的地まで行きたい……と思うときだってあるのだ。人間だもの。
しかしNAロードスターは、いやNAロードスター的な年代のクルマは、基本的にはそれを許さない。いつだって「で、お前はどうなんだ? クルマというものとしっかり対峙できているのか? そこんとこ、どうなんだ?」とマジな顔つきで、ギシギシと音を立てながら問い詰めてくる。
それはまるで、こっちはオンナのこととか人事の噂話とかの軽口で楽しみたいのに、いつだって「ところでお前、人が生きる意味って何だと思う?」とか「G20終了後の各国金融政策を中心とする世界経済の見通しについて、キミが予測するところを教えてほしい」と問われ続ける「地獄の飲み会」のようだ。
や、そういう飲み会があってもいいし、わたしもそういうのがわりと好きなほうだが、毎回それでは疲れるということだ。たまにはどうでもいいAKBの話とか秋元康の悪口で気楽に盛り上がろうよ! そうしないと人生疲れちゃうよ! という話である。
バイナリーオプションで最新ドイツ車購入を目指す?

以上のことから冷静かつ総合的な判断を下すなら、人間にとって最適な自家用車のフォーメーションは、「NAロードスター的な何かを1台のほか、電車あるいは自動運転車的な何かも1台所有する」という2台体制であるはずだ。で、「NA的なもの」については既にNAそのものを所有しているわたしなので、後は「電車あるいは自動運転車的な高級最新ドイツ車」を手に入れるだけである。
「よし!」と声を上げながらわたしはPCを立ち上げ、なんとかザイルとかいう人たちがネット上で販売している「バイナリーオプションの必勝法」的なものを数十万円で購入した。高かったが、この数十万円が近いうちに数百万円、数千万円へと化け、そして電車的高級ドイツ車に化けるのだから、結論としては安いモノである。愚者は目の前の出費にこだわり、賢者は将来のインカムにこだわる。わたしは当然賢者である。わはは。
が、なんつってるうちに不慣れなバイナリーオプションでわたしの資産はあっという間に100%近くが溶けた。そしてつけっぱなしにしていたテレビからは、「なんとかザイル」の人たちの違法なビジネスを告発する報道番組が流れはじめた。
……最適な自家用車フォーメーション構築への道は、まだまだロング&ワインディングなロードだった。
[ライター/伊達軍曹]