更新2022.12.14
販売台数で911を上回ったポルシェ初の100%電気自動車「タイカン」に対するドイツ本国の評価は?
高岡 ケン
目次 ▼
- ■ポルシェはもともと電気自動車の開発に力を入れていた?
- ■スポーツカーにこだわり続けたポルシェが発表した完全電気自動車「タイカン」とは?
- ■911を超えた!タイカンの売れ行きは世界的にも大ヒット
- ■まとめ:ドイツ国内におけるポルシェ初の電気自動車「タイカン」の反応とは?
2019年9月11日、ドイツで開催されたフランクフルトモーターショーにてポルシェ初となる完全電気自動車が発表された。
その名は「タイカン」。トルコ語で「活発な若い馬」という意味である。
ポルシェといえば生粋のスポーツカーブランドであり、これまでにガソリン自動車の歴史を築き上げてきたメーカーだ。それだけに、今回の電気自動車の発表は世界中から多くの注目を集めた。
そんなタイカンの発売から約3年が経過した今、ドイツではどのような評価を受けているのか?
今回はポルシェの本社があるシュツットガルトにて現地取材を行い、タイカンに対する現地の反応を見ていく。
■ポルシェはもともと電気自動車の開発に力を入れていた?
ポルシェの生みの親であるオーストリア出身のフェルディナント・ポルシェは幼少期の頃、電気工学に興味があり毎晩自宅の倉庫で研究を行っていた。
1894年にウィーン工科大学で電気工学を学びながら電気機器を取り扱うエッガー社で働いていた。
彼が23歳の頃、馬車メーカーのヤーコプ・ローナーと出会い電気自動車を作りたいという2人の思いが一致したため、フェルディナント・ポルシェをローナー社に迎入れ電気自動車の開発を行った。
1900年のパリ万国博覧会で彼らが手掛けた電気自動車「ローナーポルシェ」が出展され、これをきっかけにフェルディナント・ポルシェは世界中から注目を浴びることになった。
そこからダイムラー社をはじめとした有名企業から声がかかり自動車業界で数々の成績を収め、1931年にデザイン事務所としてポルシェAGを立ち上げる。
しかし、電気自動車の製作には莫大なコストと時間がかかることから、あまり現実的ではなかった。
結果的に第一次世界大戦で敗れ、貧しい生活を送るオーストリアの国民を見て「低価格で維持費も抑えられる小型車が市場に受け入れられる」と考え、現代のポルシェの原型ともいえるポルシェ356が誕生した。
後にフェルディナント・ポルシェはハイブリッドシステムの生みの親と呼ばれている。
■スポーツカーにこだわり続けたポルシェが発表した完全電気自動車「タイカン」とは?
「タイカン」とはポルシェが手掛けた初の完全電気自動車で2020年に発売開始されたニューモデルだ。
ボディタイプは優れたスポーツ性能と日常性を両立したサルーンタイプと、さらに拡張されたラゲッジスペースにより、ゆとりある室内空間を実現したクロスツーリスモの2種類が存在する。
グレードは「ベースグレード」「4S」「GTS」「ターボ」「ターボS」の設定があり、車両本体価格は1,226万円〜となっている。
驚くべきはこのクルマのスペックに隠されており、最上位グレードのターボSは最高速度260km、0-100km/h加速はわずか2.8秒、さらにローンチコントロール時の最高出力はなんと560kWと並外れたスペックを誇っている。
このタイカンターボSは、これまでにニュルブルクリンク北コースにて市販車EVで最速記録の「7分35秒579」を保持していたテスラ「モデルSプラッド」を抑え、「7分33秒350」という記録を叩き出した。つまり、市販車EVの現最速記録を保持するクルマである。
さすがは数々のハイパフォーマンスカーを世に送り出してきたポルシェが手掛けたEV版といったところか。
■911を超えた!タイカンの売れ行きは世界的にも大ヒット
2021年のポルシェ全モデルの世界販売台数は301,915台となっており、もっとも売れたモデルはマカンで88,362台、次いでカイエンが83,071台と、特にSUVモデルが好調だ。
タイカンは2021年度の世界販売台数47,296台で、前年度の2倍という目覚ましい増加を見せ、ついに911の販売台数を上回る結果となった。
地域別ではポルシェにとって最大の単一市場となる中国で95,671台を記録し、米国では前年度を22%も上回る70,025台と著しい成長をみせた。
ドイツ国内でも需要が高まっており、前年比9%増の28,565台が販売された。
新型コロナのパンデミックと半導体不足に直面しながらも販売台数を伸ばし続けるポルシェは、今、世界でも注目のブランドとなっている。
■まとめ:ドイツ国内におけるポルシェ初の電気自動車「タイカン」の反応とは?
ヨーロッパ全体では現在、電気自動車の需要が非常に高まっている。
中でもドイツでは完全電気自動車とプラグインハイブリッド車ともに急激な販売台数の増加がみられ、2021年度の新車登録台数は完全電気自動車が355,961台、プラグインハイブリッド車が325,449台と、完全電気自動車が初めてプラグインハイブリッド車を上回る結果となった。
完全電気自動車がドイツで人気を集めているのには3つの明確な理由がある。
1.EV購入助成金
2025年末までにEVもしくはPHEVを購入した人を対象に最大で9000ユーロ(約130万円)の助成金を受け取れる施策である点
2.自動車税免税
2025年末までに新車登録をしたクルマは登録から10年間自動車税を免除するという施策である点
3.充電スポットの拡大
2019年までにEV充電スポットを1,000基増強し、さらに2030年までに100万基の設置を目指している点
こうした理由を背景にドイツ国民の電気自動車に対する需要が高まり、ここ数年で飛躍的に販売台数が増加したと考えられる。
著者が実際にシュツットガルトの街を歩いてみた限りでは至るところにEVの充電スポットがあり、ガソリンスタンドよりもEVスポットの方が多いように感じる。
電気自動車も同じく、街中至るところで走っている姿が見受けられる。
日本でポルシェのタイカンといえば、街中で見かけることは稀で、東京の都心部でもないかぎりが毎日見かけるということは少ないだろう。
しかし著者がドイツで生活をはじめて約半年、街を歩けば毎日数台〜数十台のタイカンを見かける。
日本との差は歴然である。
今年度のポルシェの新車販売台数は発表されていないが、今後もますますタイカンの需要は高まっていくだろう。
[ライター・撮影/高岡ケン]