
ドイツ現地レポ
更新2018.01.25
空冷最後のポルシェ911ターボ(タイプ993)と邂逅。20年を経て輝きは増すばかり!
守屋 健
夏の間にたくさん見かけたオープンカーも、今では幌を締め切ってひっそりと街を流している…そんなスポーツカー受難のこの季節に、独特の低く唸るような、それでいて乾いた排気音を響かせて、1台のポルシェが目の前にあらわれました。最後の空冷エンジンモデル、ポルシェ911ターボ(タイプ993)です。
コンパクトな車体が新鮮に映る

同じ911でも、それ以降の水冷モデル(996、997、991)に比べてはっきり「小さい」と実感するサイズ。
現行911である991と比較すると、991ターボが全長4,507mm×全幅1,880mm×全高1,297mmに対し、993ターボが全長4245mm×全幅1,795mm×全高1,285mmですから、全長は約260mm、全幅は約90mmも大きくなっているんですね。993ターボの発表当時、993カレラの65mm増しで非常にグラマラスに見えたリアフェンダーも、数字だけで見ると1,800mmを切っていたんだな、とあらためて気付かされました。
993のターボモデルは、911ターボでは初めてツインターボチャージャーを搭載し、水平対向6気筒エンジンの各シリンダーバンクにそれぞれ小型のターボチャージャーを組み込んで、ターボラグの低減を図りました。3.6リッター・ツインターボエンジンの最高出力は408psで、最大トルク54.0kgmという強大なトルクにより、0-100km/h加速は4.5秒、最高速度290km/hという性能を誇りました。
959が描いた911の未来像

1995年に発売された911ターボは、1996年の911ターボSで最高出力を430psに引き上げ、最終年の1998年、911GT2でついに450psに到達します。450psと言えば、1986年に発表されたスーパーポルシェ、959と並ぶ数値です。
思えば、959と993ターボには4輪駆動という共通点もあります。993ターボはパッシブタイプのビスカスカップリング式、959は電子制御による可変トルクスプリット式、という形式の違いはありましたが、ツインターボ搭載という点を含め、959で描いた未来像に一歩近付いたモデル、ということができるでしょう。ちなみに、電子制御の多板クラッチ式4WDはのちの997ターボで実現することになります。
993の価格上昇はドイツ現地でも同様

写真の個体はポーラシルバーメタリックと呼ばれる、わずかにブルーが入った美しいカラーで、とても20年を経たとは思えないコンディションを維持しています。ポルシェのことが大好きな現地の人々も、振り返ってこの個体を眺めていました。写真に収めることはできませんでしたが、ブラックのレザーによる内装もとてもきれいな状態で、オーナーの並々ならぬ愛情を感じます。
ターボモデルの特徴であるホワイトのフロントウィンカーやレッドのリアウィンカー、流れるようなデザインの18インチホイールや赤いブレーキキャリパーなど、オリジナルの状態をきちんと残しています。これだけよい状態の個体だと、一体いくらの値段がつくのでしょうか…
今や日本では、空冷最後の911として、993シリーズの中古車相場は上昇し続けていますが、それはドイツ現地でも変わりません。ましてターボやRS、GT2といったスペシャルモデルについては値段が付かず「お問い合わせください」の表記ばかり。
より入手しにくい価格になってしまうことはとても残念ですが、手頃なサイズと964に比べて穏やかになったハンドリング、完成された空冷エンジンなど多くの美点を併せもつ993の魅力は、これからも多くの人々を虜にしていくことでしょう。
[ライター・カメラ/守屋健]