ライフスタイル
更新2020.03.31
若い世代のクルマ好きのためのガレージを実現するべく奮闘する「One’sGarage」代表・石井貴大氏(26歳)
長尾孟大
そして、ただ手をこまねいているだけでなく、実際に行動に移している人たちがいる。今回、取材させていただいた「One’sGarage」の代表を務める石井貴大氏(26歳)もその一人だ。
石井氏は2年前に自動車整備士を辞め、クルマ関連のイベントの情報発信や、イベント運営の代行をはじめた。そして、「クルマ好きな若い世代が、クルマを維持する際のハードルを下げるためのガレージ」の立ち上げを叶えるため、様々な活動を行っている。
なぜ、石井氏は仕事を辞めてまで活動を始めようと思ったのか。そのモチベーションの源泉と、「One’sGarage」で叶えたいと語る世界観について取材した。
▲今回は、石井貴大氏(26歳)を取材した。撮影場所は「incell 花小金井」にて行った。アウディR8は「INCELL(インセル)」を経営する須田力氏の愛車だ
One’sGarage始動への原体験
石井氏が「One’s Garage」の立ち上げを志すきっかけとなった原体験は、5年以上前に遡る。
彼は、かつて中古車ショップの整備士として働いていた。 日産シルビア(s13〜s15型)やワンエイティ等の人気車の相場が、今より落ち着いていた時代だ。自分よりも若いお客さんが、シルビアを買うことが多々あったという。
「クルマ好きが減っていると言われていますが、まだまだ若いクルマ好きもいるもんだな、と思っていました」
憧れのスポーツカーを手に入れた嬉しそうな若者の姿を見ていた石井氏だったが、それと同等に、辛い思いをする姿も見てきたという。
「せっかくシルビアを買ったのに、1年ほど経つと、『維持が辛いから手放します』と悲しそうな顔で相談に来る子が多かったんです」
シルビアを手に入れ、石井氏と同じシルビア乗りの仲間となり、サーキット走行やドリフト走行を一生懸命練習していたはずの若者が、さまざまな理由で愛車を手放していくのである。
「僕は、ただ見ているだけで彼らのために何もできなかったんですね。そんな自分がとても歯がゆかったです」
彼らはみな、望んで手放すのではない。やむを得ない理由があって手放すのだ。
「クルマが好きな若者が、カーライフで辛い思いばかりをしているのをどうにかしてあげたい、と思いました」
かくいう筆者自身も、現在は愛車を維持するだけでお金も時間も精一杯の状態だ。
しんどさとの闘いのような若者のカーライフを変えることができないだろうか。本人のやる気さえあれば、その人の理想とするカーライフに近づける環境をつくることはできないか。
「僕は『ほらほらクルマやろうよ!』というごり押しはしたくないですが、皆がクルマを楽しむのを見ていたいな、と思いました」
こうして石井氏は、One’s Garageの立ち上げに向かって動き出した。
▲中古車屋で働いていた時代について語る石井氏
One’sGarageの成し遂げたいこと
石井氏は、「クルマを楽しむうえで大変なポイントは何か」を考えたという。
「『お金』と『時間』は、若いし一生懸命に働けば何とかなる。でも、クルマのメンテナンスをする『場所』に恵まれる人は多くないと思ったんですよね」
カーライフを楽しむには、駐車場や整備する場所など、多くの場所が必要になってくる。サーキット走行やドリフト走行を楽しむカーライフであれば、愛車のメンテナンスの頻度は通常よりもさらに多くなる。
「たまたま実家の駐車場が広くて自分で整備ができるとか、親切なショップと知り合いで割安で整備をしてもらえるとか、そういった環境に恵まれていないと維持は難しいんです」
お金と時間に余裕があれば解決する問題だが、それは多くの人たちにとって現実味のある選択肢ではない。せめて「場所」の問題だけでも、解決することはできないだろうか。
「クルマ好きの仲間と一緒に集まることができて、情報交換をしたり、自分だけでは整備できないところは仲間の力を借りたりできるような『場所』があればいいなと思いました」
そうすればショップにお願いする整備を最小限にして、経済的な負担を減らすことができる。そして何より、仲間と集まれば辛い時間よりも楽しい時間の方が増えるというのだ。
「クルマの維持のための辛い時間よりも、仲間と一緒に楽しめる時間が上回れば、大変であっても頑張れる、と思いました」
▲石井氏(左)と取材を行う筆者(右)
”One’s”にかける「想い」とは?
石井氏に、なぜ「One’s Garage」なのか由来を伺った。
「一人ひとりのガレージであってほしい、と思ったからです」
ひとえにクルマ好きといってもさまざまなジャンルがある。例えば、旧車乗りやドリ車乗り、車高を下げるスタンス系や、グリップ走行を極めたい人、そもそもノーマルを綺麗に維持したい人など、多岐にわたる。
そして、異なったジャンルに属するオーナー同士が仲良くすることは非常に稀だ。
「でも、それぞれのジャンルごとに違った良さがあって、相手の価値観を認めることが大切だと思うんです。僕が作るガレージは、いろいろなタイプのクルマ好きがお互いをリスペクトできる場所でありたいと思ったんです」
One’s Garageの存在によって「場所」の問題を解決し、オーナーに心の余裕が生まれることで、異なるジャンルに対しても賛同・リスペクトの心が生まれるのではないかと思う。
主義主張は異なっていても、お互いのスタンスを認めあう。そんな各々の価値観を大切にする仲間が集まる場所という意味を込めて、石井氏は「One’s(各々の)」を冠につけたのだ。
活動をはじめて2年、石井氏にとって見えてきた世界とは?
石井氏がまずはじめたのは、イベント運営のお手伝い・代行サービスであった。
「当時、中古車屋でイベントの運営をしているなかで、受付や入金のシステムがかなりアナログだなと思いました」
申し込みは書類を郵送か店舗まで持ち込みが必要だったり、入金は現金書留か口座へ送金など、クルマのイベントはアナログな部分がかなり多い。
「自分ならもっと上手くシステムを組むことで、受付や入金の仕組みをより効率化できると思いました。そうすればイベント開催者の負担を減らせますし、報酬をいただくこともできます」
そして、クルマ業界で新しいことを仕掛けていきたかった石井氏にとっては、イベント運営の代行を行うことはこの世界でネットワークを広げていくチャンスでもあった。
「僕はどうやってガレージを作ったらいいか分からないし、お金も人脈も不動産の知識もない。だからせめて、人脈だけでも作ろうと思いました」
イベント運営の代行をはじめたことで、石井氏個人としても大きな変化があったようだ。
「僕がそもそも整備士になったのは、人とのコミュニケーションが苦手だったからなんですよね。クルマとだけ対話していたい、みたいな(笑)」
しかし今では、人との対話を楽しむようになったという。
さらに、それまでは「ドリフト」というクルマ好きでも限られたコミュニティのなかにいたが、クルマの楽しみ方はそればかりではないということも知った。イベントを通じていろいろなジャンルでクルマを楽しむ人々と出会い、視野が広がっているのだ。
▲ドリフト走行をする石井氏のシルビア(s15型)
後に石井氏はイベント情報を掲載するサイト運営(こちらのサイトも『One’s Garage』という名前だ)もはじめ、現時点で2年が経過した。
当初は、将来やりたいのはガレージを作ることなのに、今やっていることはイベント運営というギャップに大きな不安を抱いていた。
ところが、1年ぐらい経った頃に、さまざまな人と繋がりはじめ、ガレージ構想を応援してくれる人々との出会いも増えてきた。
「真っ暗のトンネルの中で、懐中電灯を拾い、周りを照らしてくれる人が現れ、やっと変化が生まれてきたような感じですね(笑)」
石井氏は、One’s Garageの実現に近づいているという実感を噛み締めつつある。
先駆者との出会い
そして、石井氏は運命的な出会いを果たす。
都内近郊のガレージハウス「INCELL(インセル)」を経営する須田力氏(株式会社インフィストデザイン代表)との出会いにより、今後のOne’sGarageの方向性がさらにクリアになってきたようだ。
「7桁の額を動かせる事業プランを立てられるか?」「それだけの融資や投資を受けられる信用をどのように得るか?」
石井氏は、都内ですでにガレージハウスを複数経営する先駆者である須田氏から厳しいフィードバックを受けた。
彼の夢を実現する上では避けては通れない課題だ。
そのうえで、それらの問題を解決するための様々なアドバイスを受け、石井氏の今後のアクションも定まりつつある。
「事業プランを作成して、プロモーションをしようと思っています。地主さんや資金提供してくれる方、ガレージを利用したいと思っている方に対して、One’s Garageの完成形を発信していきたいと思います」
実際に彼は、高級車専門の出張洗車屋で働きながら事業計画書を作る仕事をし、そこで多くのことを学んでいる。
▲須田氏(右)と石井氏(左)。今回の取材は、須田氏が経営するガレージハウス「incell 花小金井」をお借りして行った
まとめ
石井氏は、夢に描いたガレージの建設に向けて、今も少しずつ前進している。
「人が集まるだけでいろいろな影響があることや、大きなエネルギーが生まれるということが分かってきました」
One’s Garageは、クルマ好き・走り好きの気持ちがわかる石井氏にしか実現できないガレージだ。ガレージを通じて、彼はクルマ好きの文化を後世の社会に残していきたいと思っている。
「50年後、60年後もドリフトというものが残っていてほしい。たとえニッチな趣味になったとしても、クルマを楽しむための色々な文化を残していきたいと思います。ガソリンの燃える匂いやタイヤの焦げる匂い、内燃機関の音を、孫の世代にも伝えていきたいですね」
▲憧れのガレージハウスで楽しそうな表情を見せる石井氏
石井氏の情熱は留まることを知らない。「若い世代のクルマ好き」だからこそ成し遂げられることが必ずあるはずだと信じている。これからも石井氏は、ひたむきな努力で、さまざまなアイデアを形にしていくに違いない。その愚直な姿に筆者も同世代として大いに刺激を受けたと同時に「これは自分も負けていられない」という想いを強く実感した取材となった。
■One’s Garage オフィシャルサイト
http://onesgarage.com/
https://twitter.com/onesgarage
*お問い合わせ
https://line.me/R/ti/p/@avd0945s
■撮影協力いただいた賃貸ガレージハウス【INCELL インセル】
https://infist-incell.com/
取材場所:incell 花小金井(現在は空室待ち)
https://infist-incell.com/hanakoganei/
[ライター・カメラ/長尾 孟大]