ライフスタイル
更新2019.08.17
20代の若者から「旧い輸入車が欲しい」と相談されたら?
ユダ会長
それも結構鮮明に、である。
ある若者から「トライアンフGT6が欲しい」と連絡があった。
それこそが、今回のテーマ「20代の若者に旧い輸入車が欲しいと相談されたら?」を投げられたときに真っ先に思い浮かんだ物語である。
実際に20代の若者に「旧い輸入車が欲しい」と相談された
10数年前は、まだSNSといったワードすら耳にしたことがない時代だった。情報はブログで発信し、欲しい情報もブログでかき集めていた頃だ。
ある日、関西在住の若者から筆者のブログにコメントが書き込まれた。
彼は、以前から何度か筆者のブログにコメントを書き込んでくれてはいたが、今回は驚いた。その内容とは、「以前からトライアンフGT6が欲しかったのですが、横浜で売りが出ているので買いに行きます!」といった主旨だったからだ。
初めて乗る旧車にしては情報量が少なく、ハードル高いかな…という思いはあったのだが、何度かやり取りしているうちに、その若者から情熱が伝わってきた。
彼がちょうど横浜に来る日は筆者もオフだったので、「それなら自分が駅まで迎えに行って店まで連れて行ってあげるよ」と返信した。もちろん、彼とはネット上でしか面識がなく、このときが初対面となった。
彼はかなり驚いた様子で「会長が連れて行ってくれるのですか!」と、喜んでくれていたような記憶がある。
筆者自身、「若者のクルマ離れ」といったキーワードを耳にしはじめていた頃だったので、「こんな楽しい話題は放っておけない」と、自分なりに興味があった。よって、このときの流れは必然だったのかもしれない。
そして、いざトライアンフとご対面!
トライアンフGT6が売られていたのは、横浜市港北区にある小さな工場だった。今、その工場が存在するのかは分からない。よくぞここまで分かりづらい店を探し当てたものだと思いつつ、皮肉を言いたくなるほど難解な小道を進みながらようやく到着した。
当時、著者はMGC GTという、ほとんど日本で走っている姿を見たことがない3リッター直列6気筒エンジンを搭載した英国車に乗っていたので、工場に到着するや数人に取り囲まれることなった。しかも「横浜の知り合いと一緒に来ると話には聞いていたのですが、まさかユダ会長だったとは」と、筆者のことも知ってくれていたようだ。
そうなると話は非常にスムーズだ。
問題点がないかチェックするのは当然だが、ショップにもできるだけ詳しく状態を教えていただき、試乗してみることにした。トライアンフGT6を買いに来た彼も、旧車は初めてなので、先に筆者が試乗して感想を聞かせて欲しいとのことだった。
「あれ?なんだこれ?いいじゃん。…ていうか想像以上に楽しい!」。他人が買うクルマなのに楽しんでいる自分がいた。2リッター直列6気筒エンジンは、トライアンフらしくない軽い吹け上がりでボディー剛性も思った以上にしっかりとしていて乗りやすかった。
交換が必要な消耗品は許容範囲だったし、「旧車」である以上、乗っていれば必ずどこかしら問題点は出てくるであろう。そして何より、本人から買う気満々な気持ちが伝わってきた。そこでショップのスタッフに彼が関西から買いに来たことを考慮に入れていただき、アフターサービスを抜きにして値段交渉を行うことにした。そして、その場で交渉が成立したのだった。
実は、物語は今も続いている?
それから10数年の年月が流れ、現在の彼はどうなっているのか?一番興味を惹かれる部分は、そこに尽きるであろう。
その後、彼は結婚して子どもが産まれ、しかも2台目のGT6に乗っている。さらに奥様の愛車はオールド・ミニだ。
普段乗りはメルセデス・ベンツのワゴン(S124型)と、趣味人の見本のような生活を送っている。かなり努力したようで、最近は納屋を購入して自分でリフォームを行い、立派なガレージに再生して今の生活を楽しんでいるようだ。
20代の若者から「旧い輸入車が欲しい」と相談されたら?
「20代の若者から旧い輸入車が欲しいと相談されたら?」
情熱のある若者には惜しみなく相談に乗るのが筆者の回答だ。
旧いクルマに乗るのはカネだけがすべてではない。情熱がない人間は旧車を所有したことがなかったとしてもカネがなければ乗れないと言うが、それは言い訳に過ぎないのではないか。本当に好きなクルマであれば、どれだけ苦労してでも購入して乗り続けることができるはずだ。そしてそこには精神的にも豊かな生活が待っていると著者は信じている。
[ライター・撮影/ユダ会長]