ドイツ現地レポ
更新2017.09.28
ベルリンにてHナンバーを掲げる、美しく懐かしい日産シルビア(S12)と遭遇
守屋 健
非常に良好なコンディションの日産S12シルビア
久しぶりに見かけた懐かしい日本車。日産の4代目シルビア(S12)です。磨き込まれたボディに、傷がほとんどない15インチのアルミホイール。日本でもパーツの調達が難しい年代のクルマなのに、ドイツでこれだけのコンディションを維持するのは並大抵の努力ではないでしょう。
しかもHナンバー取得車!カレントライフでもたびたびご紹介している「Hナンバー」。Hはドイツ語で「Historisch(ヒストーリッシュ)」、つまり「歴史的な」「歴史上重要な」という意味の頭文字で、製造から30年以上経ち、かつ大幅な改造がなされていない車両に付与されるドイツの制度です。Hナンバーが付与されると、歴史的な工業製品価値を維持していると見なされ、自動車税や自動車保険が優遇されます。日本でもぜひ取り入れてもらいたい制度のひとつなのですが、実際は旧車乗りにとってますます厳しい世の中になってきていますね。
数々の先進技術を搭載するも、販売数は伸びず
S12シルビアは1983年から1988年に製造されました。この個体のハンドル位置は左なので、もともと輸出仕様として作られたのでしょう。1986年のマイナーチェンジを境に前期型と後期型に分けられますが、写真の個体は前期型です。ボディタイプはクーペとハッチバックの2種類が用意されていましたが、この個体はご覧の通り、ハッチバックとなっています。当時の日本車には、かつてのトヨタAE86しかり、同じ車名なのに異なるボディタイプが用意されていることも少なくありませんでしたが、ここ最近では全く見なくなりましたね。
4代目のS12シルビアについて、5代目S13や3代目S110に比べて、非常に地味な印象を持っている方も多いのではないでしょうか。ワイパー付きのリトラクタブルヘッドランプや、日本初のチルトアップ付き電動ガラスサンルーフ、キーレスエントリーシステムなど、当時の先進装備が多数搭載されましたが、ホンダ・プレリュードなどのライバルに押され気味だった感は拭えません。次期モデルのS13は30万台を生産する大ヒットなり、ついにプレリュードの牙城を崩すことになるのですが、S12はそこまでの成功を収めることはできませんでした。
インタークーラー用のインテークダクトに見えるボンネットの膨らみは、実際に穴はなく塞がれていています。そこには「DOHC 16VALVE」の文字が刻まれていて、リアにも「2.0 DOHC」の文字が擦り切れることなく残っています。デビュー当初、S12シルビアに設定されたエンジンは、1809ccが3種、1990ccが自然吸気とターボの2種、合計5種類でした。当時シルビアの兄弟車に「ガゼール」がありましたが、この5種のエンジンのうち、1990ccの自然吸気エンジンはシルビアのみに設定されていました。この個体はまさに、シルビアのみに設定された自然吸気・直列4気筒1990ccDOHCのFJ20E型を搭載したモデル。ドイツでなく例え日本であったとしても、かなり貴重な個体と言えるのではないでしょうか。
「気に入ったクルマを長く大事に乗る」ドイツ人の気質
ドイツでは基本的に、日曜日や休日に飲食店以外の商店は営業してはならないことになっています。そのかわり、日曜日には蚤の市が盛んに開催されていて、ベルリンだけでも数十カ所で同時に行われています。「ボクシー」の中心地、ボックスハーゲナー広場の蚤の市はその中でも特に有名なもののひとつで、東ドイツ時代の貴重な家具や食器、美しい絵画やハンドメイドの服・雑貨に混じって「こんなガラクタ、なぜ取っておこうと思ったの?」というような古いジャンク品も一堂に会します。
そんな古いものが大好きな現地の人々ですが、「ボクシー」にはどちらかといえば若者が多く住んでいるため、この界隈で高級車や希少な古いクルマを見かけることはほとんどありません。その中で異彩を放っていた真っ赤なS12シルビア。ベルリン、いやドイツ全土でも、これほど美しい状態を保ったS12シルビアがあと何台存在するかは想像もできませんが、こんなところにもドイツの人々の「気に入ったクルマを長く大事に乗る」という姿勢があらわれていると思います。日本から遠くドイツに定住の地を決めたS12シルビア。これからもドイツの地を元気に走り回ってもらいたいですね!
[ライター・カメラ/守屋健]