ドイツ現地レポ
更新2021.03.04
コロナ不況下でもEVとPHEVは前年比3〜4倍の売り上げを記録!ドイツ政府の「新車購入補助金」とは?
守屋 健
そうした中、2021年1月にKBA(ドイツ連邦自動車庁)が発表したある統計がドイツ国内で大きな話題となりました。そこには近年目にしたことのない、EV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)の大躍進が示されていたからです。
今回のドイツ現地レポはこの統計をもとに、現在のドイツ国内におけるEV・PHEVの販売の躍進と、それを支えた政府による購入補助金について紹介していきます。
■EVは約3倍、PHEVは約4倍、2019年よりも売れている
2021年1月にKBAが発表した統計によると、2020年にドイツで新車登録された乗用車は290万台で、2019年と比較して-19.1%と大きく減少しました。
主要なブランドごとに見ていくと、ほとんどのメーカーは新車登録台数が前年比マイナスとなっています。もっともマイナス幅が大きかったのはスマートの-67.3%、続いてオペルの-32.3%、フォードの-30.6%の続きます。新車登録台数においてドイツで最大シェアの18.0%を誇るフォルクスワーゲンでさえ、前年比-21.3%という結果でした。新車登録台数が増加したのはテスラ(+55.9%)とフィアット(+0.2%)のわずかに2社のみという、一見悲観的な見方しかできないような結果が示されています。
しかし視点を変えると、今回の統計からは興味深い事実が読み取れます。動力形式別に見ていくと、EVは前年比+206.8%(2019年:63,281台 → 2020年:194,163台)、PHEVは+342.1%(2019年:45,348台 → 2020年:200,469台)という驚異的な登録台数の伸びを示し、一方でガソリンエンジン車は-36.3%、ディーゼル車は-28.9%と、純粋な内燃機関車は大きく減少しました。
つまり、全体的な新車登録台数は減少してしまったものの、一方でEVは約3倍、PHEVにいたっては約4倍、前年よりも登録台数が増加しているのです。
■イノベーションボーナスで新車価格から最大115万円値引き
これだけEVとPHEVが躍進した背景は、ドイツ連邦政府がコロナに対する経済対策として用意した、新車購入補助金の追加政策にあります。
新車購入補助金は2016年から導入されていて、EV(燃料電池車を含む)またはPHEVを購入する際に利用できる制度です。補助金そのものは、政府と自動車メーカーが負担を分け合っています。2020年6月、メルケル首相はコロナ不況に対する経済対策として、この新車購入補助金について「2020年7月8日から2021年末まで、政府の負担額を2倍に増やす」と発表しました。政府負担の増額はInnovationsprämie(イノベーションボーナス)と呼ばれ、あまりの反響の大きさに2025年末まで延長されることが2020年11月に追加発表されています。
新車購入補助金は、EVかPHEVかということと、車両価格が40,000ユーロ以下(約512万円以下、1ユーロ=128円換算)か、40,000ユーロ超65,000ユーロ以下(512万円超〜832万円以下)までかで区別されます。
■もっとも補助金の額が大きいのは「40,000ユーロ以下」のEV
もっとも補助金の額が大きくお得なのは「40,000ユーロ以下のEV」で、最大9,000ユーロ(115万2千円)が支給されます。9,000ユーロのうち、政府と自動車メーカーの負担額の内訳は、政府が6,000ユーロ(通常3,000ユーロのところ、2025年末まで2倍に増額中)、自動車メーカーが3,000ユーロとなっています。
ちなみに「40,000ユーロ超65,000ユーロ以下のEV」は最大7,500ユーロ(96万円)、「40,000ユーロ以下のPHEV」は最大6,750ユーロ(86万4千円)、「40,000ユーロ超65,000ユーロ以下のPHEV」は最大5,625ユーロ(72万円)となっています。ただし2022年以降、PHEVはバッテリーだけでの走行可能距離が60km以上のクルマに、2025年からは80km以上のクルマにのみ適用されます。
重要なのが「価格の安いEVに、もっとも手厚い補助が下りる」という点です。500万円の新車のEVを買う際に、最大約115万円も値引きされるというのは、消費者にとってはありがたい、とても魅力的な制度といえるでしょう。実際いくら値引きされるかは、メーカーのオフィシャルサイト等で車種ごとに随時更新・発表されています。
このイノベーションボーナスの発表を受けて、2020年7月に19,993件だった新車購入補助金申請件数は、翌月の同年8月に27,436件に一気に増加。こうした流れの結果、年間の新車登録台数におけるEVとPHEVの大幅な増加につながっていったのです。
■「2050年にカーボンニュートラル」を目指して、ドイツが今進めていること
購入補助金は、条件こそあるものの、なんと中古のEV・PHEVにも適用できる制度があります。条件は初回登録が2019年11月4日以降(2020年6月3以降に2回目の登録が行われた場合、イノベーションボーナスも適用可)、走行距離が15,000kmを超えないこと、初登録から12ヶ月以上経過していないこと、というもの。適用車種は政府のウェブサイトで随時更新されています。
他にも、リースに適用できる購入補助金や、カンパニーカーのEV・PHEV運用に関する新規則、EVにおける自動車税免除の期間延長などをきっかけに、ドイツでのEVシフトはコロナ不況下においても急速に進んでいます。
ドイツ政府はCO2削減目標を達成するために、2030年までにEVを700〜1,000万台普及させることを目標に掲げています。またVDA(ドイツ自動車工業会)は、2020年秋ついに「運輸に関するカーボンニュートラルを2050年までに達成する」と明言。ドイツの自動車メーカーはEV・PHEVのラインナップの拡充を急速に進めていて、テレビやラジオ、ウェブにおけるクルマの広告はもはや「EV一色」と言っても過言ではありません。
現在危惧されるのは充電ステーションの不足ですが、政府は自宅に充電スペースを設置する際の補助金を最大900ユーロ(11万5千円)支給しているほか、充電ステーションの数を2022年までに5万ヶ所、2030年までに100万ヶ所まで増やすことを計画しています。また、ドイツの各自動車メーカーは、充電ステーションの性能向上についても積極的に取り組む姿勢を見せています。
クルマの数こそ約2割減となったものの、政府主導の経済政策により、EVとPHEVの売り上げが3〜4倍にも増加したドイツ。EVやPHEVの弱点とされていた「高価な車両価格」を新車購入補助金で打ち消し、コロナ不況下でEV・PHEVのシェアの伸ばしたことについては特筆に値します。2030年を待たずして、ドイツでは数百万台のEVが公道を走ることになるでしょう。こうした補助金や自動車税の優遇措置がいつまで続くのか、充電ステーション等のインフラ整備は間に合うのか……この急激な変化を今後も注視していきたいと思います。
[ライター/守屋健]