ライフスタイル
更新2020.09.07
25歳の筆者が、なぜ「自身と同世代のネオクラシックカー」に魅了されるのか?
長尾孟大
それは「性能がいいクルマ」と「運転して楽しいクルマ」は異なるという事実だ。
そもそも「性能がいいクルマ」と「運転して楽しいクルマ」は違うのか?
最近の新型車はほぼ例外なく完成度が高いと思う。
特に、トヨタのTNGAプラットフォームや、マツダの鼓動デザインが取り入れられて以降、発売されたモデルの完成度は非常に高い。コンパクトカーにおいても、高速域での安心感のある走りがノーマル状態でも体感できる。これは一昔前の日本車のでは考えられなかったことだ。技術の進歩を感じられずにはいられない。
また、安全装備についても格段に進化している点にも注目したい。
前方に車両が急接近すれば衝突回避ブレーキを踏んでくれるし、一部の車種では半自動運転すらこなしてくれる。
クルマとしては非常に優れているし、安全技術の進歩にも目を見張るものがある。
特に最近のクルマのなかで、個人的に好きなのはトヨタ C-HRだ。
都市型SUVかつ大量生産モデルでありながら、実用性よりもデザイン性に振り切ったエクステリア。そして何よりも、そんなアグレッシブな車両開発にGOサインを出した、トヨタの大英断は感嘆に値すると思う。
そして、全高の高いSUVでありながら、スポーティーな走りを実現。シャシーの出来が素晴らしく、サスペンションの動きを破綻させることなく、屋台骨としてしっかり機能している。
さて前置きが長くなってしまったが、個人的には、新型車よりも昔のクルマの方が運転していて楽しいと感じるのだ。
筆者は、仕事や趣味で、80年代~90年代の「ネオクラシック」と言われる、自分と同世代か自分より高齢のクルマに乗る機会が多い。
そして当然、古いクルマは新型車と比べると、性能では劣るし「速い」わけではない。
しかしなぜだろうか?
筆者は古いクルマが持つ独特の魅力に惹かれてしまうのだ。
▲ワインディングを疾走するフェラーリF355
「運転して楽しい」以外の『味』とは何か?
昔のクルマは、今の時代にはない味を持っていることが多いように感じられる。
「運転して楽しい」という感覚は、走行性能が優れていることや、サーキットにおけるラップタイムが速いことではない。それとはまったく異なる「別の感覚」である。
特に964型などの空冷エンジンを搭載したポルシェ911や、E30型のBMW・3シリーズなどに乗っていると、独特の感覚が感じられる。
その独特の感覚とは「クルマとコミュニケーションをとる」ということだ。
この時代のクルマは速く走らせるために、癖を理解した上で繊細な運転が必要なのだ。
たとえばコーナーを曲がっているときに、
「僕はそんな荷重移動じゃ曲がらないよ!」
「そんなに早くアクセルを踏んだらお尻が滑っちゃうよ!」
「もっと滑らかに、でも素早く扱ってくれないと言うことは聞きません!」
そんな要望をドライバー側が受け取り、対話を重ねる。さらにクルマの気持ちを汲み取る。そして速く走ってもらうために「クルマに合わせた運転をするための努力が必要」だと感じるのだ。
つまり、ネオクラシックカーにはドライバーに残された「余白」があり、ドライバーにもクルマの一部としての「居場所」があったのである。
この感覚が、クルマを自在に操る達成感や、絶妙な満足感に繋がっていたのではないか?
これが「運転して楽しい」という感覚の秘密だと考えている。
▲ポルシェ911(964型)との対話に集中する筆者
21世紀初頭は、開花した技術力と個性を融合した車種が多かった
2000年代前半は、軽量高剛性のアルミボディーが採用されるようになり、これまでに熟成されてきた自動車の技術が飛躍的に進歩した時期だといえる。
ボディの剛性は格段に向上し、エンジンの出力も向上した。
クルマの特性としては扱いやすくなったため、この世代はつまらないと思う方もいるかもしれない。
確かに独特の癖は、90年代のクルマと比べると薄まっている。
だが、この時代にはメーカーの熟成した技術力が惜しまずに投入された、味とパフォーマンスが見事に両立した名車がたくさんあったことも事実だと思う。
例えばハイパフォーマンスセダンを例に挙げると、ハイパワーを追求したメルセデス・ベンツE55AMG(W211型)と、クルマのトータルバランスとフィーリングを追求したBMW M5(E60型)とでは全く異なるアプローチがとられている。
両者ともコンセプトは異なり、結果として全く異なったキャラクターをもっている。
このように、エンジニアの想いと熱意が製品を通して伝わってくるようなクルマが多かった。しかし、最近はそのようなクルマが少なくなってきているように感じる。
▲外車王TVでメルセデス・ベンツ E55 AMGを紹介する筆者
現在のクルマは個性があるように見えるが、実際はどうなのか?
現代のクルマは、マーケティングが重要視されたことにより、各メーカーが持つイメージはしっかりと差別化が図られている。
しかし、肝心の「モノ」として見てみると、際立った個性が感じられず、どこのメーカーなのかよく分からないことが多い。
これは各自動車メーカーがあらゆるユーザー要望に応えようとした結果、商品が均質なものになってしまったからではないだろうか。
もちろんメーカーは限られた予算のなかで、求められる安全性能や排ガス規制、燃費規制を満たさなければならない。そし年々厳しくなる規制をクリアするため、昔とは比べものにならないぐらいのコストを割かなければならないことは容易に想像できる。
だがその制約のなかでも、ネオクラシックカーが持っている「遊び心や、作り手の意思」がもっと感じられてもいいのではないだろうか?
▲RRレイアウトゆえに生まれた美しいリアのボディライン
令和時代は隠れたスポーツカーブームの再来か?
「若者のクルマ離れ」が叫ばれて久しい。
しかし、落胆するのはまだ早いと思う。
最近ではメーカーがこの流れを止めるために様々な新型車を発表している。
トヨタは2012年の新型86発売を皮切りに、その後、相次いでGRスープラ・GRヤリスを発表。
スバルからはWRX・BRZ、マツダからはNDロードスター、ホンダからはシビックtypeR、スズキからスイフトスポーツ、日産からはR35GTR・新型フェアレディZ等々、国産メーカーからスポー
ツモデルが続々と発表されている。
国産車のみならず外国車も今まで以上にスポーツモデルを発表している。
メルセデスはホットハッチであるA45 AMGを発売。
アルピーヌはA110を復刻した。
アバルト595も非常に個性的でありながら多くのファンを獲得している。
これは、スポーツカーブームの再来と言ってもいいのではないだろうか?
この流れは、まだかつての全盛期ほどの盛り上がりではないかもしれない。
しかし、スポーツカーが売れにくいこのご時世で、メーカーは共同開発や量販モデルをベースにするなどの工夫を凝らし、あの手この手でスポーツモデルの販売を継続している。
このことに我々ユーザーは敬意を表すべきではないだろうか。
そしてこれを皮切りに、かつてのネオクラシックカーのような「運転の楽しいクルマ」がどんどん増えていくことを切に願うばかりである。
そして私たちユーザーにできることは何か?
それは、新型車を購入し、メーカーをサポートすることである。古き良き時代を懐古し、嘆くことではない。
メーカーにきちんとお金を払うことで、癖のある尖ったクルマをメーカーが販売しやすいように応援していくこと。
これがユーザーに必要とされていることなのではないかと考えている。
まとめ
かつては、際立った個性や独特の乗り味をもつ「運転していて楽しいクルマ」が充実していた。それは、エンジニアの意思やメーカーのコンセプトが色濃く反映される「土壌」があったからだと思われる。
現在では、ユーザーに受け入れられることを追求しすぎた結果、基本性能は向上しているものの、どのクルマも均質化してしまったように感じられる。
しかし、そんな逆風のなかでも、メーカーは新しい個性的なクルマを復活させている。
私達ユーザーはこの心意気に対して、きちんと新型車を購入することで、次の世代まで個性的なクルマが生きる土壌を残していくことが必要とされている。
その一方で、ネオクラシックカーと呼ばれる世代のクルマが、現代のモデルにはない魅力を持ちあわせていることは否定できない。現代のスポーツカーとネオクラシックカー、その両方を所有できれば理想的だが、現実はそう甘くない。どちらを選ぶか?
その一方で、ネオクラシックカーと呼ばれる世代のクルマが、現代のモデルにはない魅力を持ちあわせていることは否定できない。現代のスポーツカーとネオクラシックカー、その両方を所有できれば理想的だが、現実はそう甘くない。どちらを選ぶか?
そこで筆者が導きだした答えは「自分ともっとも呼吸の合うクルマを見つけること=ネオクラシックカー」だった。
その理由として、クルマの癖にあわせたドライビングができた瞬間、喜びを感じられるからだ。癖のあるネオクラシックカーのほうが「もっと運転して乗りこなせるようになりたい!」という気持ちにさせるのだ。
▲夜道をかけるBMW M5、大人しい見た目とは裏腹にV10エンジンを搭載している
では25歳の筆者が、なぜ「自身と同世代のネオクラシックカー」に魅了されるのか?
その答えは、ネオクラシックカーには、クルマとドライバーが多くの会話を楽しむ居場所があるからだ。
日頃から運転する道はサーキットではない。
ネオクラシックは日常に溶け込みながらも、ハンドルを握る瞬間を特別な時間に変えてくれる。
確かにネオクラシックカーは魅力的だ。しかし現代のクルマだからこそ味わえる世界があるように思う。この先、エンジニアの想いがしっかりと伝わる「運転していて楽しいクルマ」が世に多く登場することを願うばかりだ。
●YouTubeチャンネル「外車王TV」
https://www.youtube.com/channel/UCIObXJ_1CtzXZxJz9KTgPfg
[ライター・カメラ/長尾 孟大]