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更新2017.06.15
10年前の約3倍?価格がぐんぐん上がるミニカーにどう付き合っていくべきか
北沢 剛司
例えば、日本のミニカーコレクションの王道といえるトミカは、2014年2月に定番商品の価格を360円から450円に25%値上げしました。さらに世界を代表するミニカーメーカーとして有名なドイツのミニチャンプスは、インフレ率でもミニカー界のトップクラス。例えば1/43スケールのロードカーの場合、ちょうど10年前となる2007年当時の税込4,410円から、現在は8~9千円台に上がっています。
▲1/43 ミニチャンプス Audi Quattro 1981 Red (品番 430 019420)
4千円前後で購入できた頃のミニチャンプスのロードカー製品。価格と品質のバランスが良かったため、ミニカーマーケットも大いに賑わっていました。
さらにレーシングカー製品は10年前の税込6,090円から1万円前後に。F1にいたっては、税込4,410円から現在はほとんどが1万円以上。なかには1万5千円以上のアイテムさえあるほどです。消費税が5%から8%に引き上げられたことを差し引いても、ここ10年で2倍から3倍に上がっているのです。
▲1/43 ミニチャンプス McLaren Honda MP4-31 F.Alonso Monaco GP 2016 (品番 530 164114)
2016年シーズンのF1ミニカーは、写真のマクラーレン・ホンダで定価10,584円。ほかのチームのマシンでは14,580円の製品もあります。
ミニカーの値段はなぜ上がっているのか?
このような価格上昇の原因として、ひとつには製造を行う中国のコストと開発コストの両方が上がっていることが挙げられます。中国生産品の値上げはミニカーだけの話ではないので、これはある意味仕方のないものです。そしてもうひとつの原因は、以前に比べてミニカーのマーケット自体が縮小していることです。昔は金型を製作してダイキャスト製のボディを量産し、数千個単位で製造するのが一般的でした。しかし、今や大量生産できるアイテムは非常に限られており、ドイツ車メーカーがオフィシャルミニカーとして販売するような一部の車種を除けば、少量生産に適したレジン製ミニカーとして発売される例が増えてきました。
シリコン型に樹脂を流し込んでボディを成形するレジン製ミニカーは、金型が必要なダイキャストミニカーと違って小規模な生産施設でも製作できる特長があります。特にレースカーの場合は、金型が不要な開発期間の短さを活かして、その年のレースカーをレスポンスよく発売できるメリットがあります。
一方、ダイキャストミニカーには金型があるため、リピート生産しやすいメリットがあります。しかし、現在では1個あたりの販売価格が高いため、同じボディを使ったカラーバリエーション製品を作っても、以前のように売れないのが現状です。そのため、以前はニッチな存在だったレジン製品が次第に存在感を増し、現在ではミニチャンプスや京商などの大メーカーもレジン製品を発売しているほどです。
高価なミニカーが即完売する理由とは?
▲1/43 ヘッドライナー Renault 5 MAXI turbo Red(品番 No. HL0822)
写真のルノー 5 マキシ ターボのミニカーは、日本のイグニッションモデルが原型を製作し、監修・ライセンス管理を京商が担当する「ヘッドライナー」ブランドから発売されたもの。イグニッションモデルは高品質な日本車ミニカーで定評のあるブランドであり、そのクオリティは世界でもトップクラスです。反面、このモデルの定価は税込16,740円。気軽にポンポン買えるような値段ではありませんが、アイテムによっては発売直後に完売という場合があります。
その理由は生産数。販売店向けに配布されたこの商品の受注用紙には、「生産予定数:150pcs」と書かれていました。つまり、世界でわずか150個しか流通しないのです。その中から輸出向けの数を差し引くと、日本向けの販売数はせいぜい数十個。そしてミニカー専門店での受注数は、おそらくゼロか1個。多くて2-3個でしょう。
多くの専門店にとって、単価が1万円を超えるような高額商品は基本的に予約数しか発注せず、もし予約が入らない場合は問屋に発注数ゼロで回答する場合が少なくありません。マニアックな高額商品の場合は、下手に売れ残るよりも予約完売にした方が資金繰りがスムーズですし、商売としてできるだけリスクを避けたいと思うのはある意味当然でしょう。そのため、ミニカーを予約し忘れた場合は、もう国内のフリー在庫が皆無に近く、入手困難になるというメカニズムなのです。
価格上昇は悪いことではない?
ミニカー業界では、製造コストなどの上昇分を商品にそのまま転嫁したことで価格がじわじわ上がり、結果的にコンスタントに買えるユーザーが減少。大量生産が不可能になりました。そのため多品種少量生産に転換して、さらに価格上昇を招くという結果となっています。いわば「負の連鎖」ともいえる状況ですが、悪いことばかりではありません。最大のメリットは、ミニカーのクオリティが以前とは比較にならないほど向上していることです。
以前の1/18スケールミニカーはダイキャスト製が一般的で、ドアやボンネットが開いたり、ステアリングが左右に切れるアクション付きの製品がほとんどでした。最近は1/18スケールにもレジン製のミニカーが増え、プロポーション重視の製品が主流になりつつあります。このレジン製1/18スケールミニカーのクオリティは極めて高く、写真の撮り方によっては実車と見間違えるほどの再現度を誇っています。価格も1万円台で買えるものが主流で、出来の良さを考えれば極めてリーズナブルといえます。
一方のダイキャストミニカーでも、レーシングカーでドアと前後カウルが開閉できるようなフルディテール製品が発売されています。これまでにない圧倒的な再現度はまさに実車の縮小版といえる出来栄え。それだけに価格は3万円以上するような高価なものが多く、気軽に買うことはできません。その代わり、購入後の満足感は極めて高いといえます。
▲1/18 オートアート Lancia Delta S4 1986 #4(品番 88620)
前後フード、左右ドア開閉などを実現し、ダイキャストミニカーとしては究極的なクオリティを誇るオートアート社の1/18ランチア・デルタ S4。ちなみに定価は税込35,424円
さらに多品種少量生産のミニカーが増えたことにより、これまで絶対に製品化されないと思われていたマニアックな車両がリリースされることがあります。それらは1/43スケールで定価2万円前後と比較的高価ですが、アイテムの豊かさはひと昔前とは比較になりません。
▲1/43 KESS Aston Martin Lagonda Shooting Brake 1987(品番 KE43047000)
静岡ホビーショー 2017の国際貿易ブースで、なんとアストンマーティン・ラゴンダ・シューティングブレークのミニカーを発見。1台あたりの単価が上昇した反面、こんなマニアックな車種も製品化されるようになったのは大きなメリットです。
価格上昇はマニアが自ら望んだこと?
ミニカーは出来の良さが命なので、ユーザーがクオリティの高い製品を求めれば求めるほど、ミニカーも高価になっていくのは致し方ないところ。現在のような価格上昇は、ある意味ミニカーコレクターの要望を叶え続けた結果ともいえます。
▲1/43 KESS Mercedes-Benz W126 Stationwagon
同じく静岡ホビーショー 2017の国際貿易ブースには、W126のメルセデス・ベンツ Sクラスをステーションワゴンに仕立てた、当時の改造車両も試作品として出品されていました。
では、安く買えた頃に戻りたいかといえば、それも微妙なものがあります。確かに昔は安い価格で買えたため、大量のミニカーを買うことができました。いわば「数」を集めることができたのです。一方、現代の製品は高価になったため、数を集めるのは難しくなった反面、「質」の面では極めて高い水準にあります。そして何よりも、これまで製品化されなかったようなマニアックな車両がミニカーとして買えるようになったのが大きな違いです。
ミニカーコレクターにとって、果たしてどちらの方が幸せなのでしょうか。
確かに価格上昇はキツイし、以前に比べて購入を諦める製品が増えているのは事実です。でも、マニアックで出来の良いミニカーが手に入る現在のほうが、より幸せな環境だと個人的には思っています。
[ライター・画像/北沢剛司]