オーナーインタビュー
更新2020.10.06
愛馬を愛でる「メルセデス・ベンツ500E(W124)」オーナー、岩村 立之さんへインタビュー
松村 透
──まずは、岩村さんのお仕事について聞かせてください
大学卒業後、大手百貨店に20年勤務したのち、日本初上陸の新規セレクトショップ事業立ち上げプロジェクトの事業部長に誘われ、転職しました。現在は代官山でそのアメリカ西海岸・ロサンゼルス生まれの老舗セレクトショップの運営に携わっています。──輸入車に乗ろうと思ったきっかけとは?
父親が大の英国車好きで、MGやモーガンに乗っていました。家には、私が幼少の頃から輸入車が載っている雑誌が置いてありました。また、中・高校生時代をアメリカで過ごしたこともあり、運転免許も現地で取得しました。最初の愛車は、コラムシフトにベンチシートのクライスラー・タウン&カントリーワゴンでしたね。 私自身、改めて輸入車の魅力に目覚めたきっかけは、E30型のBMW3シリーズを手に入れたあたりから…でしょうか。1台目は84年式のBMW325eでした。レアなモデルでしたが、低回転型のエンジンに物足りなさを感じることもありました。その次に手に入れた、BMW320iカブリオレは良かったですね。BMWは、かつて所有していたホンダ プレリュードでは曲がれないコーナーをあっさりと駆け抜けていくのです。当時の輸入車は、デザインや質感、走りにおいて、日本車は到底叶わないレベルの工業製品だったように思います。ごつごつした石畳や、アウトバーンのような高速道路など、ヨーロッパのタフな道路環境が欧州車を鍛え上げたのかもしれません。──現在の愛車を手に入れるきっかけとは?
シックなボディカラーが街並みに映えます 仕事の関係でミラノに住んでいた時期があり、フェラーリをはじめ、メルセデスやポルシェなどのミュージアムにも行きました。ミラノに住んで感じたことですが、イタリア人はクルマが好きなんですね。サッカー選手などが愛車を自慢するため(?)に街中にやってくると、皆んな遠慮なく写真を撮っていくのです(笑)。そんなある日、仕事でパリに出かけた際に、現地の高級ホテルでメルセデス・ベンツ500Eを見掛けたのです。磨き上げられた漆黒のボディカラーをまとった前期モデルで、フロントのウィンカーもオレンジのまま。オーラがありましたね。まるで絵画のような光景でした。ただ、周囲で反応していたのは私だけでしたけれど(笑)。 サイドからの眺めも実に美しい500E 1台で家族も私も満たさせるクルマは何がいいだろう?私にとっての答えは、ポルシェとメルセデスのコラボレーションで誕生した、メルセデス・ベンツ500Eでした。しかし、生産終了からすでに20年になるモデルです。年々、コンディションの良い個体が減っていることは実感していました。近い将来、いくらお金を積んでも買えなくなるのではないかという危機感がありました。 この角度から見ると、張り出しているフロントフェンダーが強調されます そんな折に出会ったのが現在の愛車です。帰国後、前期型500Eにこだわり、インターネットで探していたところに、あるときピーンとくる物件に巡り会いました。今年の春のことです。実質ワンオーナーの2オーナー車。ヤナセの新車時保証書からすべての整備履歴が残っていて、手放す前の最後の2年間だけでも相当な整備代を掛けていた個体です。年式相応に使い込まれている部分もありますが、その佇まいから、ノーマルのまま、新車からとても大切に、深い愛情が注がれてきたことがひしひしと伝わってきました。 美しく磨き上げられたボディは、四半世紀前のクルマであることを忘れさせます 実は、現在所有している愛車で500Eは3台目となります。前オーナーも、500Eというクルマを分かった人に乗り継いでもらいたいとお考えだったようで、これはもう運命だと思いましたね。そんな経緯もあり、2度目に観に行った際に購入を決意しました。 ──手に入れて良かった点、苦労している点は?●良かった点 クルマ通が反応してしまうのは、やはりこのポイントでしょう 「FIRE(パワー)とSILK(コンフォート)」のベストなバランスでしょうか。 当時のカタログが謳うように「FIRE AND SILK=炎の情熱と絹の優美」。500Eならではの走りと快適性が完璧に両立されたクルマであること。加速、コーナリング、ブレーキタッチのすべてがシュアでジェントルで…挙げたらキリがありません(笑)。 そして仕事柄、良い物に触れる機会が多いのですが、この500Eには、現代のクルマにはない質感の高さを感じます。その希少性と「見る人が見れば分かる」さりげなさも、この500Eの大きな魅力のひとつだと思っています。 素材や仕立ての良さ、組み立て精度…。500Eは決して見た目は派手ではないけれど、着心地がよい。まるで仕立ての良いスーツのようです。まさに持ち主を引き立ててくれる存在といえるのではないでしょうか。 500Eの心臓部となるM119ユニット。内外装はもちろん、エンジンルームも非常に綺麗です 前オーナーが乗り方も気にされていたのでしょうか。エンジンの調子はいいですね。もしかしたら「当たりのエンジン」なのかもしれません。 ●苦労している点 後期型のE500ではなく、敢えて前期モデルの500Eを選んだところも岩村さんのこだわり 「主に車重やエンジンの熱からくる、消耗品類の摩耗は仕方のないことですが、整備代はそれなりに嵩みます」 とはいえ、前オーナー時代の記録簿がしっかりと残っている点はありがたいですね。ミッションも載せ換えているようですし。主治医に頼んで、電装系、エアコン、ボディの下回り、タイヤ、油脂類…等々。向こう3年くらいで点検整備や交換が必要と思われる箇所を事前にまとめてもらっています。 ●こだわり この雰囲気を維持するために、オーディオも敢えてそのまま 今後も、この500Eをモディファイをするつもりはありません。オーディオの調子が悪いけれど、雰囲気を崩したくないので、このまま乗る予定です。いずれは、内装やウッドパネルなども手を入れていきたいですね。──予算抜きで、欲しいクルマBEST3は? (それと「アガリのクルマ」を教えてください)
1.メルセデス・ベンツ190Eエボリューション2 過去に所有していたことがあるのです。手放したことを未だに後悔している1台です。 2.ポルシェ911スピードスター(930) スタイリングと爽快感がたまらない1台です。 3.BMW アルピナB3(E46) 最近気になる1台です。手頃なサイズと走りの良さ、希少性が気になっています。 アガリの1台.AMG500E 6.0 メルセデス・ベンツの最高傑作ともいえる500Eの究極進化型。私にとって究極の自動車です。 ここで、岩村さんのこれまでの愛車遍歴を伺っているうちに、もう一度欲しいクルマもピックアップしていただきました。──番外編:もう一度欲しいクルマBEST3は?
1.メルセデス・ベンツ190Eエボリューション2 やはり1番はこれです。エンジンレスポンスが良かったですね。8000回転まで回ります。まさにレーシングエンジンでした。 2.BMW M3(E30) ボディには緩さを感じましたが、軽快な走りが魅力でした。ボディカラーはアルピンホワイトがいいです。 3.ポルシェ911カレラ2(964) ドアを開閉するときの手応えをはじめ、このクルマもまた乗ってみたいですね。──岩村さんにとって、愛車はどんな存在ですか?
この問いに対して、ふっと浮かんだ答えは「愛馬」です。 この500Eが、岩村さんを選んだとしか思えないインタビューとなりました 実際に馬を所有しているわけではありません。しかし、クルマと語りかけることと、馬とのコミュニケーションの取り方がシンクロしました。 ドアを閉めた瞬間、500Eのその日の体調がわかるような気がするのです。次にエンジンを掛けて、アイドリングでその日の調子を伺います。いざ走ってみて、いつもと感じが違うと思うこともあります。調子が悪いと思ったら主治医に診せます。まさにクルマとの対話です。 実は私にはある儀式がありまして…。 500Eに接する際、儀式があるんですと語ってくれた岩村さん 乗る前にクルマの周りをひとまわりします。そして、ドライブから戻ってくると、ドアを閉め、フェンダーを撫でます。夜、仕事から帰って来たら500Eを眺め、そしてまた寝る前にも、500Eの存在を確認してから寝室に向かいます。 500Eにまつわる、岩村さんのコレクション。クルマへの深い愛情が伝わってきます 私も40代半ばとなりました。同じ500Eでも20代の頃とは違い、クルマと対等な関係が築けるようになってきたと感じています。相互にコミュニケーションが取れる喜びのようなものでしょうか。まさに相思相愛ですね(笑)。 この500Eから認めてもらうことで、より自分自身を高めていこう。そして、このクルマにふさわしい人間になりたいと思える…。そんなクルマに巡り会えたことが幸せです。私の愛馬たる、この500Eをきちんと維持していくことは、自動車史上の名車を預かる身としても、もはや義務みたいなものなのかな…そんな風に思えてなりません。
オーナープロフィール
お名前:岩村 立之(いわむら たつゆき)さん 年齢:45才 職業:会社員 愛車:メルセデス・ベンツ500E(W124) 年式:1992年式 ミッション:4AT
[ライター・カメラ/江上透]