ドイツ現地レポ
更新2019.01.17
水もしたたるいいクルマ!粋な美男美女に颯爽と乗ってほしい、マセラティ・クアトロポルテ(4代目)
守屋 健
とはいえ、やはり多くの人々を振り返らせる色気の持ち主といえば、イタリア車、それも今回ご紹介するようなマセラティ・クアトロポルテのようなクルマを挙げないわけにはいきません。雨が上がった直後で、言葉通り「水もしたたるいいクルマ」となっていた4代目クアトロポルテ。今回はあらためて、このクルマの魅力をご紹介していきます。
マセラティの誇る「スーパースポーツサルーン」
マセラティは、イタリアの歴史ある高級車メーカーのひとつ。1980〜1990年代までは販売不振に苦しんでいましたが、フィアット傘下に入りフェラーリとの協力体制を築くと、現在では高級SUVであるレヴァンテを主力に多くのラインナップを揃える、世界的な「プレミアムブランド」にまで成長を果たしました。かつてマセラティといえば「マニアック」「壊れる」とさんざんな言われようだったのも今は昔、現在では世界のみならず日本においても、クルマ好きからセレブまで「美しくて速いクルマ」を求める人々にこぞって選ばれる自動車ブランドとなっています。
さてそんなマセラティが、「華麗な変身」を果たす「分水嶺」となったモデルは、一体どのモデルでしょうか?さまざまな意見があるとは思いますが、筆者はこの4代目クアトロポルテだと考えています。
クアトロポルテは、そのままイタリア語で「4つの扉」を意味していて、初代モデルは1963年に登場。レースで培った技術を詰め込んだ4.1リッター・256馬力(のちに4.7リッター・295馬力に強化)のV8エンジンをフロントに搭載した、マセラティのフラッグシップモデルとして君臨しました。スーパースポーツカー並みの動力性能を美しいデザインのセダンボディに詰め込んだクアトロポルテは、まさに「世界最速のスーパースポーツサルーン」のひとつとして、世界に名を知らしめたのです。
鬼才ガンディーニの手による美しいエクステリア
オイルショックのあおりを受け、わずか13台のみが受注生産されたのみに終わった2代目、マセラティの特徴のひとつ「ラサール社製アーモンド型金時計」を初めて装着した3代目を経て、4代目クアトロポルテは1994年にデビューします。当時の主力車種ビトゥルボのシャシーをベースにした、先代までのモデルよりもひと回り小型のボディに、V6ツインターボエンジンを搭載。280馬力以上を発生する強力な心臓部を得て、最高速度は260km/h以上に達しました。
しかし、4代目クアトロポルテの美点は、動力性能のみにあらず。2000年の生産終了から20年近くが経過したとは思えない美しいボディデザインは、今なおまったく古さを感じさせないといってよいでしょう。4代目クアトロポルテのエクステリアデザインは、ランチア・ストラトスHFやランボルギーニ・ミウラ、カウンタックのデザインで知られる鬼才マルチェロ・ガンディーニのペンによるものです。
ガンディーニらしい、斜めにカットされたリアホイールアーチのデザインや、リアに向かって高くなるエッジの効いたフォルム。先代までのクアトロポルテに敬意を評したスクエアな意匠と、新世代を感じさせるわずかに丸みを帯びた意匠を巧みに融合させた美しいプロポーションは、同時に優れた空力性能も獲得し、Cd値は0.31に抑えられていました。それまでのマセラティのデザインと、現在につながるマセラティのデザインの、いわば橋渡しとなるようなエクステリアは、このクルマでしか見ることのできない独特のものといえるでしょう。
インテリアも同時に、マセラティ独特の世界を持っていました。バール材を丁寧に磨き込んだウッドパネルに、贅を尽くした本革仕立てのシート。フェラーリが関わってくる後期型では外されてしまうものの、前期型と中期型とではダッシュボード中心に燦然と輝いていたラサール製の時計。運転する側も乗せられる側も、思わずひるんでしまうような色気たっぷりの空間に魅了され続けている人は、今でも多いのではないでしょうか。
マセラティの過去と現在をつなぐ存在
4代目モデルは1995年末にマイナーチェンンジ、1998年にはフェラーリとの関係が始まったことによって進化を遂げた「クアトロポルテ・エヴォルツィオーネ」が登場します。最終的に4代目クアトロポルテの総生産台数は2400台となり、マセラティの歴史の中でも特に大きな成功をおさめて、その役割を終えることになるのです。
2003年に登場する5代目クアトロポルテは、現在のマセラティにつながる優美な曲線で描かれたエクステリアとなり、それまでの直線的なデザインの面影はほとんどなくなってしまいました。絶対的な販売台数こそあまり多くはないのかもしれませんが、4代目クアトロポルテは、マセラティの過去と現在をつなぐクルマとして、今も色あせない輝きを放ち続けているのです。
[ライター・カメラ/守屋健]