ドイツ現地レポ
更新2017.03.30
自由化から約4年。鉄道を上回る人気の裏で起こっている、ドイツ各地で混乱する長距離バス問題とは?
NAO
そんなドイツの交通事情に振り回される中、ここ近年で新たな移動手段として登場したのが「長距離バス」です。
日本の方からすると今さら?と思うかもしれませんが、ドイツでは数年前まで存在していませんでした。ドイツでは鉄道路線と被る長距離バスの運行は禁止されており、カバーすべき場所はDBがバスを運行。地上の交通はDBの独壇場でした。
しかし、2013年の法改正で、長距離バスの運行が自由化となり、この年からバス業界へ新規企業が続々参入。一時期はバス利用者が鉄道利用者数を上回り、バス業界内の競争となりました。
人気の理由は安さと移動の快適さ
筆者も学生時代、長距離バスをよく利用していました。運賃は空席率によって変動しますが、最安値だと電車の3~5分の1程度。ドレスデン~ベルリンで片道最安5ユーロ(約600円)、600km以上あるドレスデン~ケルンでも最安25ユーロ(約3000円)で購入することができたのです。
▲チケットはオンラインでも購入でき、出発5分前までキャンセル・変更可能。キャンセルの場合100%返金してもらえるのも良い(写真は大手Flixbusオンラインチケットサイトのスクリーンショット。筆者作成)
電車と比べて格安、そしてアウトバーンを走るので遅延も少なく、ほぼ時間通りに到着します。場所によっては電車移動より早く着く場合も。車内は無料Wifi・コンセント完備されていて長旅でも快適。利用者が多い区間では1日最大60本運行しています。現在はドイツ国内だけでなくヨーロッパ諸国までコネクトしており、学生を中心に非常に人気が高くなっています。
以前は選べきれないほどバス会社がありましたが、価格戦争の末に撤退した企業も多々あります。現在はトップ2のMein Fernbus社とFlixbus社が共同運行しており、シェアの80%を占めています。ここ数年で急成長し、利用者も200万人から2500万人にまで増えた長距離バスですが、今、問題となっているのが「停留所の確保」なのです。
インフラ整備不足が仇に
多くの長距離バス停留所は鉄道駅に併設してあります。しかし、観光バスが数台停められる程度のいわば「ロータリー」です。ベルリンなどの大都市だと「ZOB」と呼ばれる大型バスの停留所がありますが、ほとんどが中心地から離れた郊外に位置しています。
これまで多数の大型バスが停まれるようなインフラ整備をしてこなかったため、トイレや屋内の待合室、電光掲示板などの設備もほぼありません。今では多くの利用者、そして多方面に向かうバスが同じ時間に集まるため、停留所はパンク状態です。しかも、肝心のバスが停まれず、渋滞を引き起こすなどの問題が起きています。さらに交通量の多い駅周辺ということもあり、深刻な事態です。
現在、この停留所問題がドイツ各地で勃発しています。「バス運営会社が郊外に停留所を作れ!」と、バス会社と各都市によるトラブルも頻発し、バス会社は公式サイトやFacebookで撤退に対する署名活動を訴えています。
▲実際に西の大都市ケルンでは中央駅に停留所がありましたが、市と停留所周辺住民の猛抗議で長距離バスの乗り入れ禁止が決定。ケルン行きの利用者は隣町のレバークーゼンで降りざるを得なくなりました
周辺環境の改善も課題に
ADACがドイツの10都市の長距離バス停留所の使いやすさを調べた結果、「優」に該当する駅はなく、「良」が4駅、「可」が3駅、「不十分」が1駅、「とても悪い」が2駅となり、利便性の向上が課題となりました。
その中でも最も良い評価だったのは、シュトゥットガルト。ここは空港施設の一部を借りているため、停留所全体に屋根があり、多言語アナウンスにも対応しているのが高評価となりました。また、シャワーやベビールームも完備しており、敷地内は明るく、セキュリティも24時間体制でいるので安心です。
筆者が長距離バスに乗って感じたことは、バスの運営会社によるセキュリティ面も徹底してほしいという点です。乗車時はチケットを見せるだけで、本人確認はありませんし、預ける荷物にネームタグをつけることもありません。
最近では、途中駅の停留所で待ち構え、他の降車客に紛れて盗難するケースも増えているようです。労働側としても、運転手不足による超過労働・低賃金が問題となっており、長距離バス業界も近々ストライキ…なんてこともあるかもしれません。
前述のように、利用者は価格や快適さを理由に選択しているケースがほとんどです。バスだけが生き残り、鉄道やほかの公共交通手段が衰退して、公共交通の選択肢が狭まることも考えられます。それぞれの地域周辺の環境に合わせたサービスの維持や、問題の改善を推進してほしいものです。鉄道 vs 長距離バスと、乗客確保で揉めているドイツの「今」ですが、将来的には公平で持続性のあるインフラとして、複数の長距離交通機関が充実してほしいものです。
[ライター・カメラ/NAO]