
カーゼニ
更新2017.05.01
地方公務員が「正統派でそこそこ高そうな輸入車」に金を突っ込める理由

伊達軍曹
いわゆるガテン系職業の方が多いチームはご多分に漏れずハイエースあたりに乗ってくる人が多く、普通の勤め人さん中心のチームはプリウスだったりヴォクシーだったりノートだったりと、まるで本邦自動車市場の縮図を見ているような感じだ。
わたしが主宰している草野球球団・東京フォッケウルフはメディア関係の自営業者が多いため、「変な中古ガイシャ」とでも呼ぶべき安めの輸入車に乗っている者が多いわけだが、時おり「変な中古ガイシャ」ではなく「正統派でそこそこ高そうな輸入車」の比率が妙に高いチームと試合をすることがある。
それは外資系コンサルさんのチームとかではなく、「地方公務員チーム」である。
失業の可能性ほぼゼロ=クルマに金を突っ込める

もちろん一概には言えないが、彼らは「先代」になったばかりのF10型BMW 5シリーズだったり、現行S205型メルセデス・ベンツCクラスステーションワゴンあたりが「好物」だ。いずれもベントレーやらアストンマーティンやらほど高価なクルマではないが、それなりに高額なクルマであることは間違いない。
「は~、地方公務員さんってのはなかなかのお大尽でございますなぁ」と一瞬思うわけだが、冷静に考えてみれば地方公務員さんというのは「お大尽」というほどの高給取りではない。
昔対戦したことがある埼玉県の某公務員チームさんを例にとってみるなら、埼玉県職員の平均年収は資料によれば686万円。この金額を12で割ると、諸手当と年2回の賞与を含んだうえでの額面収入は月額約57万円。……ま、勤め人としてぜんぜん悪くないお給金かとは存じますが、決して「お大尽」とか「チョー金持ち!」というわけでもないことがわかる。中の上っつー感じでございましょうか。
なのになぜ、彼らはなかなかお高いF10型BMW 5シリーズとかに平気の平左で乗れているのだろうか?
結局のところは「失業の不安がないから」ということなのであろう。
民間はそうもいかず、フリーランスはさらに難しい

民間の場合は、倒産したりリストラクチャリング対象へピックアップされるなどのリスクが(特に近年は)それなりに高い。しかし公務員にそれはなく、「エレベーター内で破廉恥なセクハラ行為に及ぶ」「公金を横領してマニラで豪遊する」「酒場で乱闘行為に及び、相手を半殺しにする」などの非道行為をしない限り、職を失う=お給金の流入がストップする可能性はゼロに近い。
それゆえ彼らは、ニコニコと現金一括で買っているのかBMWバリューローンないしはスタンダードローン等を利用しているのかは知らないが、手元の金銭フローまたはストックを後顧の憂いなく「趣味」に投ずることができるのだ……と推測する。
まぁウダウダ書いてますが、わたくしはそれを非難しているわけでも僻んでいるわけでもなく、ただただ「いいな~」と思いつつ、「ニッポンの経済を回すためにも、もっともっとBMWとかランドクルーザーとかを買ってください!」と思っているだけだ。
問題はそこではなく、わたくし自身のことである。
こちとら自慢じゃないが年間収入300ウン十万円のウルトラ貧乏フリーランサーだ。しかしながらそれは「収入」であって、「売上」は実はその何倍かである。それゆえ、その気になれば(中古の)BMWを買い、タワマン(の低層階)に引っ越して友人知人を大量に招き、ホームパーティと称してウェイウェイするぐらいのことはできる。やろうとさえ思えば。しかしながら、一切そんな気にはなれないのだ。
なぜならば零細フリーランサーは、民間の勤め人を遥かに凌駕するほど「リストラの危機」と日々直面しているからである。
「侘び暮らし」が望ましいが、中高年になると微妙な部分も

現時点ではそれなりの売上があるフリーランサーでも「来年」のことはまったくわからない。それだけならまだいいが、“俺レベル”になると「来月」すら基本はゼロベースだ。来月も再来月も現時点ではヒマなので、我こそはという方はぜひ、カレントライフ気付にてわたくしをハワイ旅行とかスーパー銭湯めぐりの旅に誘ってほしい。カネはないが、「とりあえず空白の時間」だけはたっぷり所有しているわたくしである。
ということで、多少の売上があろうと心はいつだって「年収300ウン十万円」、いや、正確には年収240万円ぐらいのマインドセットで、余り物野菜でぬか漬けを作り120円の塩鮭を焼き、そして車両価格93万円ぐらいで買った中古のマツダ ロードスターに乗りつつ、ひとり静かに暮らしている。
しかしながら最近は、そうとばかりも言っていられない自覚はある。
「青年」と呼ばれるような年齢の人がそういった侘び暮らしをしているのはなかなかサマにもなるが、中年、いや、もはや中高年と括るほうが適切な年齢となった男の侘び暮らしとは、どこか寂しいというか、もっと率直に言ってしまえば「みじめ」に映らんでもない何かなわけだ。それってマインドセットの構築的にいかがなものかと、我ながら思うのである
それゆえ最近は「自分もそろそろBMWの新しめのやつ、そうさね、4シリーズグランクーペあたりに乗ったほうがいいのかもしれん。カネはないが、前述のとおりまったくないわけでもないのだから……」と思うに至っている。
4シリーズグランクーペ、買えないこともないが……

幸いなことにというかなんつーか、過日カーセンサーnetの仕事で4シリーズグランクーペについて調べたので、このところその相場は下がりはじめていることを小生は知っている。そのときの原稿は完全な他人事として執筆したが、今こそ4シリーズグランクーペの購入を「自分事」として真剣にとらえてみるべきなのかもしれない。
つーことで自分はカーセンサーnetの当該ページを再度開き、BMW 4シリーズグランクーペの相場調査ならびにローン支払いシミュレートを仔細に実行した。
うむ、概要はつかめた。ざっくりだが「車両370万円ぐらい/支払総額400万円ぐらい」を見ておけば、14~15年式で走行1万km台か2万km台の420i Mスポーツを狙うことができる。が、「総額400万円」というのは現金一括で支払えないこともないが、軍曹家のキャッシュフローならびにストックに与えるインパクトがそれなりに大であるため、ここはローンを選択するのが長い目で見れば正解であるはずだ。
続いて自分はローンシミュレーションのページを開き、仔細なシミュレートを開始した。総額は仮に400万円で、金利も仮に3.5%。自営業なのでボーナス併用は無し。60回払いっつーことにして、頭金ゼロ円で行くと……月々の支払額は7万2767円。……これはダメだ、爆死する。
では頭金100万円にすると……5万4575円。これも微妙にダメだ。微妙な爆死の可能性が見えてくる。ならば頭金200万円にすると……3万6383円。うむ、高いっちゃ高いが、このあたりで手を打つのがオトナというものなのかもしれない。
中古車の「身軽さ」こそ、自分にとっては最大の宝

……しかしどうなんだ「頭金200万円」って? 仮にだけどNAロードスターを売っぱらったとして、50万円つくだろうか? わからんがまあ50万円っつーことにして、残りが150万円。ブタさん貯金箱を破壊しつつ定期預金を解約すれば用意できるけど、しかし、毎回ふざけたことばかり書いてるせいで来月あたりカレントライフの連載をクビになり、ついでにその他のアレとアレもクビになった場合、果たしてこの150万円の出費は小生の家計にどんなインパクトを与えるのだろうか………………………………などということを仔細に検討していたところ、唐突にすべてがどうでもよくなった。
「買える」ということと「心から楽しめる」ということは違うのであり、いちいちチマチマとゼニ勘定をしながら買ったり乗ったりするBMW 4シリーズグランクーペは、いやグランクーペに限らずそういったクルマは、(あくまでもわたしにとっては)まったくもって魅力的ではないのである。
難しいことは何も考えずに買え、そして維持できる、100万円かそこらの中古車。その「圧倒的な身軽さ」こそが最大の宝だったのだとあらためて痛感したわたしは、ローンシミュレーションのページをそっと閉じた。
そして、仮に売ろうとしても(売らないし、売れないけど)きっとゼロ円にしかならない我が家の雑種猫の額を、そっとなでたのだった。
[ライター/伊達軍曹]