ライフスタイル
更新2020.06.27
生産終了から44年。「成層圏」の名を冠するランチア・ストラトス試乗&助手席インプレッション
ユダ会長
当時は安い2眼レフを片手に小遣いを握りしめ、目を輝かせながらスーパーカーショーを観に行ったものだ。
スーパーカーに関することは当時の強烈な印象のままいまだに記憶に残っている。そういえば、スーパーカーを除くとはっきり覚えていることがないような気がするほどだ。
時は流れ、当時の気持ちが変わらぬまま年齢を重ね、大人になった、そして、幸運なことにさまざまなスーパーカーと触れ合う機会にも恵まれた。
もちろん自分で購入できるほどの余裕はまったくないのだが…。
今回は、ランチア・ストラトスを実際に体感したときのことを書いてみたい。
インプレッション内容をまとめて記事にするのは決して楽な作業ではない(と思う)
雑誌やWeb記事のインプレッションは、過去の膨大な量の経験値から比較して、性能はもちろんのこと、直感的になことを文章に起こして人に伝える大変な作業だと思う。
おそらくその経験値は、一般的なオーナーですら感じることのできない癖や能力を一瞬で見抜いてしまうほどレベルの高いもののようだ。
それゆえ、何十年も同じクルマと真剣に向き合った人との印象の違いは、異なる部分が出てきて当然なのかもしれない。
ランチア・ストラトスを日本一走らせる男とは?
「成層圏」を意味するネーミングのとおり、まさに宇宙へ飛び出しそうな斬新なスタイルのランチア・ストラトス。
オーナーはHCC95のクラブ員で、しかも筆者とはご近所のため仲よくさせていただいているトプさんだ。
購入してから30年間もこのクルマを所有・維持しているという。手に入れてから6万キロほど走破したそうだ。
グラベルな林道から、舗装したタイトなターマックの峠道まで、さまざまな路面状況においても「ランチア・ストラトスを使いこなすツワモノ」なのである。
トプさんはランチア・ストラトスの他に、モトクロッサー×2、エンデュロ×2、トライアル×2、トレール×7台(すべてカワサキのビンテージ・ツインショックモデル)を所持する。ダートや登山道に魅せられ、さらには登山が趣味という、根っからのアウトドア派である。
まさにランチア・ストラトスに乗るに相応しい人物である。
ちなみにランチア・ストラトスはラリーなどでも活躍していたためベース色の白がイメージされがちだが、実際は純正色に白は存在せず、あとから塗り替えた車両ということだ。
「成層圏」を箱根で助手席体験!
以前、あるイベントで箱根を訪れた際、偶然にもランチア・ストラトスとオーナーのトプさんを発見。実は同じイベントに参加していたのだという。
「あ、会長も来てたのね!」と挨拶されてから会話がはじまり、なんと椿ラインを攻める際の助手席に乗せていただくという幸運に恵まれた。
助手席に座った時点からすでに興奮状態は隠せない。冒頭にも記したように、筆者はスーパーカーブームを体験した世代なのだ。
噂どおり、ドアポケットにはヘルメットが入るくらいの大きなスペースがある(実際はヘルメットを入れるためのものではない)。
純正シートは思いのほかホールド性が良好で、本気モードにさせてくれるシチュエーションを演出するのに一役買っている。
何の癖もなくスタートしたのだが、そこからの強烈な加速には70年代のクルマであることを忘れさせるほど、スムーズかつシャープさを感じることができた。
ガツンとくるような加速では無いことに驚かされた。
ショックはストロークが深い。筆者の想像とは異なり、ゴツゴツした感じはなく、どこまでも深く路面に吸い付くように沈んでいく…。
助手席に座った状態では、限界点が計り知れないほど懐が深い足回りだ。
これには長年培った絶妙なアクセルワークとコントロールが必要なのであろう。
オーナーのトプさん曰く、「過度に滑らせるとコントロールが効かなくなる」とのことである。
ホイールベースの短さもあり、クイックなコーナーでも気持ちいいくらいにしっかりと曲がってくれる。
アクセルオフの際も跳ね返りは少なく、コーナーリング中もハイサイドを起こすような仕草も感じなかった。
あくまで素人の、しかも助手席での感想ではあるが、雑誌に書いてあるような旋回性が良すぎるという感覚よりも、どこまでも粘って旋回していくイメージであった。乗りこなしている人の助手席だからこそ感じ取れたのではなかろうか?
とにかく貴重な体験だったことは間違いない。
そしてついに「成層圏」をドライブする機会に恵まれる
それから程なくして、今度は実際にランチア・ストラトスを運転する機会に恵まれた。
オーナーのトプさんの提案でクラブの集まりのあと本牧の工場地帯で「実際に試乗してみては?」という、とんでもなく幸福な提案がぶち上がったのだ。
もちろん、断る理由など見当たらない…といいたいところだが、内心「これでぶつけたら人生終わるかも?」という一抹の不安があったことは否定しない。
しかし「目の前にぶら下げられた人参(笑)」の誘惑には勝てるはずもなく、心のなかで小躍りしながらトプさんの提案を受けることにした。
基本的に人のクルマは運転しないのが信条である。しかし、この機会を逃したら一生後悔すると思ったのも事実だし、このときの筆者の心境は理解(共感)していただけると思う。
まずスタートさせて驚いたのは、想像以上にスムーズなエンジンであることだった。
実際にアクセルを踏むとピーキーなエンジンを想像していたが、低速トルクがしっかりとしていて、拍子抜けするほど乗りやすい。
これなら街中でも充分に使いこなせる、そう思った。
ただ、一旦深くアクセルを踏み込むと、波がなく素直に吹け上がってはいくのだが、回転数が上に回れば回るほど、後ろから突き上げるような加速感が味わえる。
何かの記事で読んだ『ランチア・ストラトスほど最高なエキゾーストノートはない』という快音を味わう余裕もなかった。
コーナーでは以前体験したような「粘りのあるコーナーリング」なんてできるわけもなく、恐る恐るアクセルをまさぐりながらスローに曲がるのが筆者の限界だった。
そんななか、助手席に座っていたオーナーのトプさんがコーナリングのたびに「もっと踏んで!もっと踏んで!」を連発!
筆者もついつい大声で反論してしまった!
「怖くて踏めません!」と(笑)。
貴重な体験のおかげで、夢見心地のまま帰宅し、その日の夜に飲んだ酒が格別に美味いと感じたのはいうまでもない。
しょせん素人ではあるが「クルマが好き」を長く続けていれば、普通では体験し得ないような幸運に恵まれることもある。
今回は、本当にラッキーな体験談を書いてみたが、最後に一つだけ伝えておきたいことがある。
スーパーカー(特にランチア・ストラトスは)のオーナーと話しかけるときやSNSに写真を載せるとき、「このクルマはレプリカですよね?」と尋ねる人がいるが、あまりにも失礼すぎるのではなかろうか?
この場合、正しくは「このクルマ、本物ですよね?」と聞くべきである。
複数のホンモノのオーナーから、その種の話を聞く。
その際、平然「こんなキレイなホンモノがあるわけないじゃないですか(笑)」返すツワモノのオーナーもいるのだが…。
[ライター・撮影/ユダ会長]