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更新2017.10.15
イタリアのランボルギーニ本社に併設されたミュージアム&工場見学ツアーは、オーナーでなくともぜひ訪れてみたい
JUN MASUDA
ボクはランボルギーニ・ガヤルドLP560-4、そしてウラカンと乗り継いでいるが、今にいたるまでランボルギーニの工場や、ミュージアムを訪れたことはなかった。
理由は簡単だ。猫である。
我が家には猫が3匹いるが、この猫たちを置いて家を長期間あけることはできない。
しかし今回、信頼できる「キャットシッター」が見つかったことで、安心して猫たちを残してイタリアへ旅立つことができるようになったのだ。
▲イキナリだが、これがランボルギーニ本社のある、イタリア・ボローニャの空港だ。意外と小さい
そもそもランボルギーニ・ミュージアムとは?
ランボルギーニ・ミュージアムとは、ランボルギーニ本社に併設された2階建ての博物館で、ランボルギーニがこれまでに発売してきたクルマやコンセプトカー、レーシングカーなどが展示してある。
料金は大人15ユーロだ。※記事をしている時点での為替レートだと、約2,000円となる。
そしてランボルギーニは、同じ敷地内にて「工場見学ツアー」も提供している。
これは、ウラカンやアヴェンタドールの製造ラインをガイド付きで見ることができる、内容の濃いものだ。ただし、料金は大人75ユーロと安くはない(ただし、75ユーロを払えば工場見学ついでにミュージアムにも追加費用無しで入場できる)。
ミュージアムは予約なしでも入場可能だが、工場訪問は予約(日にちのほか、時間指定)が必要だ。
予約はランボルギーニのサイトからでも可能だが、ボクは自分の車両を購入した、ランボルギーニ正規ディーラー、「ランボルギーニ大阪」経由にて予約を取ってもらった。
料金は変動の可能性もあり、営業時間や休館日とあわせてランボルギーニのオフィシャルサイト(https://www.lamborghini.com/)にて最新情報を確認して欲しい。
ランボルギーニ・ミュージアムはどうやって訪問するのか?
さて、訪問する日時は決まったが、問題は「どうやってランボルギーニ本社まで行くか」を考えねばならない。
ランボルギーニ本社はイタリア「ボローニャ」にある。直接旅客機にてボローニャに入る方法や、ほかのイタリアの都市まで飛んでから列車でボローニャに入る方法がメジャーだ。
この「ボローニャまで行く方法」は、居住地や旅程によって変わってくるため、ここでは割愛する。
そこで「ボローニャからランボルギーニ本社まで」ゆく方法について述べることにするが、ひとつは「バス」、もうひとつは「タクシー」、ほかには「レンタカー」、そして「現地ツアー申し込み」という手段が考えられる。
順に考えてゆくが、「バス」は日本のようにスケジュール通りに運行するわけではなく、いまひとつ到着時間が読めないようだ。もし予定時刻にまで到着できなければ工場を見学することはできないし、早く到着しすぎても旅先での貴重な時間を時間を浪費してしまう。
また、タクシーは有力な選択肢ではあるが、料金が(いくら請求されるのか)不安だ。
レンタカーも交通事情がわからないだけに時間をコントロールすることが困難で、かつ時間帯によって進入禁止できない地域があるというボローニャの複雑な環境を理解していなければ危険だともいえる。
▲ボローニャ中心地はこんな感じだ。基本的にクルマの乗り入れはできず、住人や運送業者など、限られた車両のみが通行できる
残るは「現地ツアー」ということになるが、結論から言うとボクはこれを選んだ。
なぜかというと、ほかにフェラーリ博物館(ムゼオ・フェラーリ)を訪問したかったからだ。
参考までに、ボローニャとその近郊にはランボルギーニのほか、フェラーリ、マセラティ、ドゥカティ、パガーニ、とそうそうたるメーカーが存在する。
加えて「美食の都」としてもボローニャは知られ、そのためにチーズやワイン、生ハム工場ツアーも現地では数多く組まれている。
そういった中でメジャーなのが「自動車メーカーをめぐるツアー」だ。
フェラーリ、ランボルギーニはそのメインであり、このツアーを開催する現地旅行代理店は多い。
彼らは専門にこのツアーを営んでおり、つまり諸般の事情には詳しいわけだ。
インターネットで「ボローニャ フェラーリ 見学」などのキーワードで検索すれば数多くの情報が出てくるし、旅行関係のサイトにも多くのツアーが掲載されているので、色々と調べてみると良いだろう。
中には日本語ガイドがつくものもある。
ボクはホテルの部屋を予約する際に、関連するツアーがないか聞いてみた。
ホテルの答えはもちろん「ある」というもので、金額を確認すると、日本から代理店を経由して申し込むよりずいぶん安い。ボクは迷わずそのツアーを申し込んだ。
ただし「ツアー」とはいっても、他の観光客と相乗りをするわけではない。「クルマ1台を借り切る」、要はチャーターだと考えればいい。
いざボローニャへ
そしてボクはボローニャへ降り立った。
空港は(小さいとは聞いていたけれど)思っていたよりずいぶん簡素だった。
▲これがボローニャ空港内部だ。スーツケースにフェラーリのステッカーを貼った人も見られた
ただし入国審査は意外と厳しい。滞在日数や滞在先を聞かれるが、3日しか滞在する時間が取れず、入国審査官は「そんなに短い期間で何をするんだ」と鋭い眼差しをボクに向けて聞いてくる。
そこでボクはこういった。
「フェラーリを訪問するのだ」、と。
ちゃんと「フェッラーリ」と発音し、「ラ」はちょっと舌を巻き気味に発音した。
ランボルギーニ・オーナーであればここは「ランボルギーニへ行くのだ」と言うべきだとは思ったが、「フェラーリ」のほうが入国審査官に響くと考えたからだ(すまん、ランボルギーニ)。
案の定、入国審査官は急に親しみを込めた表情に変わり、「そうならそうと早くいえばいいじゃないか」とアッサリ入国を認めてくれた。
▲空港内にはランボルギーニの展示スペースが常設されている。イエローのウラカン、そして一見ブラックにも見える美しいパープルのアヴェンタドールが展示してあった。Tシャツやバッグなどのグッズも展示されている
ホテルにチェックインし、翌朝になると迎えがやってきた。
ボクがロビーに降りると、すでにジャンカルロというナイスガイが待機している。
軽く挨拶を済ませ、彼がツアー用に供しているメルセデス・ベンツVクラスへと乗り込んだ。
ボローニャ市街地を抜け、高速道路へ。
意外と道路を走っているクルマは地味だ。
モデルにせよ、ボディカラーにせよ、イタリアらしい明るさがあまり感じられないな、というのが正直な印象になる。
▲移動中の車窓から。走っているクルマはアルファロメオやBMWが多いようだ
ボクがツアーを申込んだのは、前述のほかにも理由がある。
現地の人、つまりドライバーにフェラーリやランボルギーニの印象、そして正確な「発音」を聞いてみたかったからだ。
ほかにも滞在をより楽しいものとするため、お勧めのスポットやレストラン、料理の名前を聞いてみたかった。
ジャンカルロによるとこうだ。
フェラーリはイタリアの至宝といえる。イタリア人でフェラーリを知らない人はなく、誰もが誇りに思っている。
一方でランボルギーニはというと、「知名度は高くない」としながらも、エクストリームなデザインが有名であり、イタリア人よりも外国のお金持ちが買う、というイメージがあるそうだ。
それにしても、ランボルギーニやフェラーリが本社を構える地としては、スーパーカーを全く見ない。
ぼくはそれについてもジャンカルロに聞いてみた。
「ボローニャの人々はゆったりした生活を好む。お金持ちは多いが、物質面よりも精神面での充足を好み、スーパーカーに乗って、それを見せびらかすようなことはしない」。
なるほど、とボクは思った。
しかしながら、途中で立ち寄ったフェラーリ本社(これは機会をあらためて紹介する)近くになると様相が一変する。
フェラーリの特徴的な「レッド」を使用した建物が急に増え(フェラーリとは関係がない)、フェラーリグッズを販売するショップ(これも直営のフェラーリストアではない)、テーマにしたカフェ、そしてレンタカーショップが増えてくる。
フェラーリのレンタカーは非常に人気だという。多くの観光客が記念にと、同社の本拠地にでフェラーリを運転して帰るのだ、とジャンカルロは教えてくれた。
▲フェラーリ本社に近づくにつれ、こういった感じのショップが増えてくる
そして途中にはマセラティ本社前も通過した。高架道路からは工場の中庭が見え、中にはスパイフォトでおなじみのカモフラージュ用ラッピングで覆われた車両がズラリと並ぶ。
ランボルギーニ本社へ到着。足を踏み入れる
ランボルギーニ本社は郊外にある。ランボルギーニから公開されているオフィシャルフォトを見てもわかるとおり、本社の周囲は畑に囲まれている。
その畑を左右に見ながらランボルギーニへと向かうのだが、途中にはテスト中と思われる、やはりカモフラージュを施したアヴェンタドールを見かけた。
畑に囲まれた田舎道を、奇っ怪な柄のシートで偽装されたアヴェンタドールが走っているのはなかなかシュールな光景だ。
できればそういったプロトタイプを写真に収めたかったが、存在に気づき、カメラを取り出した時点ですでにテスト車両たちは走り去っていて、結局撮影ができないか、シャッターを押せたとしても、ほとんどが「ピンボケ」だった。
よくスパイフォトグラファーが鮮明な画像を提供しているが、彼らの苦労や腕前については「相当なもの」であることがよくわかる。
そしてボクたちはランボルギーニ本社へ到着した。
ジャンカルロは道路向かいのカフェで休憩しているので、適当に見て戻ってきてくれればいい、といって立ち去った。
▲これがランボルギーニ本社だ。ガラス越しにヒストリックカーが見える
ランボルギーニ本社はガラス張りの、シンプルだが美しい建物だ。
向かって右がミュージアム、左側がランボルギーニ・ストアとなっている。
▲いかにもランボルギーニらしい「ゴミ箱」。ゴミ箱のフタを開閉する「取っ手」がランボルギーニの車に採用されるシフトレバーと同じ形状だ
建物の中へ足を踏み入れると、そこはもうランボルギーニ好きにとってワンダーランドだ。
ランボルギーニをイメージした彫刻、壁一面にあるモニターに映し出されるイメージ映像。
なぜもっと早くここを訪れなかったのか、とボクは後悔した。
▲屋内に入ると、すぐに「受付」がある。ここでミュージアム見学、もしくは工場見学の料金を支払う。工場見学の場合は予約した際の名前を伝えるのを忘れずに
ミュージアムは1Fと2Fという構成で、それぞれのフロアにはランボルギーニの歴史を語る上では外すことのできないクルマやコンセプトカー、レーシングカー、ボート用の巨大なエンジンなどが展示してある。
まずは画像にてそれぞれのモデルを紹介しよう。
▲受付を済ませ、奥に進むとランボルギーニの市販車第一号、「350GT」が鎮座している
▲ディアブロ。現代のランボルギーニとはまた異なるオーラを放っている
▲ミウラ。その美しさは格別だ
▲セスト・エレメント。もはやこの車は人間用とは思えない。宇宙から来た物体のようだ
▲じきに発表されるウルスのコンセプトモデル、そしてそのルーツでもあるLM002
▲先日別の個体がオークションに登場し、話題となったコンセプトS
▲2Fには、壁面に飾られたアヴェンタドールがあった。この前はディアブロが同じスペースに展示されていたようだ
▲ヴェネーノ。プロトタイプだと思われ、公式発表されたモデルとはヘッドライト内部構造が異なる
▲ミウラ・コンセプト。想像していたよりもかなり大きい
▲アヴェンタドールのローリングシャシー。メカ好きのボクにとっては非常に興味深い展示だ
▲ステルス戦闘機と同じ塗料を使用したレヴェントン。たしかに塗料の質は他のクルマと異なり、厚みが感じられる
▲カウンタック。今見ても斬新すぎるデザインだが、前衛的な中にも上品さが感じられる
▲コンセプトカー、「カラ」。ガヤルドの前身と言われている
▲ランボルギーニのレースカー。F1マシンもある
と、こんな感じではあるが、見どころが多すぎてすべてを紹介することはできない。
このほかにも悲運のコンセプトカー「エストーケ」も展示してあった。
ランボルギーニの製造現場へ。チェンテナリオもここで製造されている
ここからは「工場見学」を紹介しよう。ただし、写真撮影はNGなので、画像はない。
まずは入館時に受付で伝えられた時間に、指定場所へと向かう。
指定場所はミュージアムの一角にあり、迷うことはない。
ポツポツとほかの工場見学参加者が集まったところに、金髪の美女が現れる。
名はクリスティーナさんという。彼女がボクたちを案内してくれるようだ。
ひとつのグループは10人程度で、多くは白人だ。話を聞いてみると、イタリアやスイスといったヨーロッパから人たちが大半のようで、ボクのほかには黄色人種はいなかった。
クリスティーナ嬢から簡単な説明があり、イヤホンつき無線機を手渡される。
工場の中は作業時に発生する音が大きく会話を聞き取りにくいため、こういった装置を使用しているそうだ。
説明は英語だが、必要であれば自分で用意した通訳を連れて入ることもできる。
ただし通訳の入場料は「自分持ち」になるため、そこは計算に入れておかねばならないし、あらかじめ通訳のぶんだけ「人数を多く予約」する必要がある。
その後はカメラや携帯電話をロッカーに入れて工場見学の開始だ。
ミュージアムから工場へと通じる扉を開き、工場の敷地内に入ると、テスト用なのか出荷待ちなのかはわからないが、色とりどりのウラカン、アヴェンタドールが中庭のようなところに並んでいた。
その中庭を抜けていよいよ工場内へ。
工場内部は「工場」というにはあまりに明るく、そして清潔だ。ランボルギーニが公開するオフィシャルフォトそのままの風景がそこにある。
工場は大きく分けると「ウラカンのアッセンブリーライン」、「アヴェンタドールのアッセンブリーライン」、「エンジン」、「インテリア」といったところだ。
ボクたちが「おお」とその風景に驚いていると、クリスティーナ嬢はいう。
「あなたたちは今日見学に来てラッキーよ」。
彼女が指差した方向には見慣れない車体がエンジンの組付けを待っていた。
「今日はチェンテナリオを作ってるわ」。
ここでボクたち見学者のテンションは一気にオーバーレブしそうになる。
クリスティーナ嬢は、そのチェンテナリオの製造にかかわる「仕様書」のようなものを見せてくれた。ボクは後の報道で、その個体が中東向のオーナー向けに作られていたと知ることになる。
見学をしている間は終始このような感じで、彼女のホスピタリティは完璧だった。
テクニカルな説明も難なくこなし、「ランボルギーニ社員が結婚するとランボルギーニ車を貸してもらえる」、「社員食堂にはダイエットメニューがある」など、こぼれ話も聞くことができた。
どのラインにおいても、そこで作業する人々の表情は一様に明るい。
おそらく、自分たちが作っているものがどれだけ人々に歓びをあたえ、それを見るもの、触れるものをどんなに幸せにするかを一番よく理解しているからだろう。
ほかにも興味深い風景、話や作業工程は多々あったが、画像を抜きに説明するのは難しい。
機会を作ってぜひランボルギーニの工場を訪問し、自分の目で見て、耳で聞いてそれらを確かめてほしい。
工場見学を終えて戻ってくるのはランボルギーニ・ミュージアムの一角だ。工場を見たあとでは、そこに並ぶモデルたちも以前とはなんとなく違っているように見える。
うまくはいえないが、その製造に携わった人々の顔が浮かんでくるかのようだ。
もういちどすべての展示されているモデルを見た後、ボクはランボルギーニ・ストアへ向う。そこではランボルギーニのエンブレムが大きくプリントされたTシャツを購入した。
このTシャツを見ると、今でも工場で楽しそうに働いていた人びとの顔を思い出すことができる。
▲これがそのTシャツだ。オンラインのランボルギーニ・ストアにはないカラーで特別感がある
ランボルギーニオーナでなくともそうでなくとも、工場やミュージアムを訪れることはお勧めだ。そのブランドの歴史をより深く知ることができるし、これから歴史をつくろうとする人々の話を聞き、姿を見ることができる。
なにより、その歴史のほんの一部にでも自分が立ち会うことができた、というのはクルマを愛するものにとって大きな歓びとなるはずだ。
[ライター・撮影/JUN MASUDA]