カーゼニ
更新2017.06.26
モータージャーナリストは茨の道。それでも生き残れる2つの秘訣とは?
伊達軍曹
12年にわたり飢え死にしなかった秘訣をお教えしよう
で、もしもあなたが自動車ライターになろうと思ったとする。ライターっつーか、いわゆる「著名モータージャーナリスト」みたいなものを含む広義の自動車ライターだ。
まぁカレントライフの中高年読者の皆さまは、絶対に、死んでもそんなことは思わないだろうが、18歳から25歳ぐらいの若手読者(カレントライフにはそれが意外といそうだ)については、もしかしたら「モータージャーナリストあるいは自動車ライターになって、“好き”を仕事にしたい!」と考えてる人もいるかもしれない。
今回はそんなあなたに向けて、真摯にお話しさせていただこう。
今さらながらのモータージャーナリストあるいは自動車ライター志望。それは言うまでもなく茨の道である。「自動車趣味市場」は間違いなくシュリンクしてますからね。
しかしそれでも貴殿が自動車ライターもしくは著名モータージャーナリストを目指さんと固く決意するのであれば、よござんす、わたくしから2つの「秘訣」をお教えしよう。生き残り、そして稼ぐための秘訣だ。
といってもわたくし自身が著名ジャーナリストでも何でもない無名ライターなので、「秘訣を教える」と言ってもあまり説得力というか魅力を感じないかもしれない。それは本当にそのとおりで、自らの不明とショボさを恥じるばかりである。ごめんね。
しかし一つだけ言わせていただくなら、こう見えて独立以来11年8カ月にわたり飢え死にすることなく、どちらかといえば肥満しながら、フリーランサーとしての「商売」を普通に続けることができた拙者である。
聞くところによると、たいていの新規の商売は開業から10年ともたずにたたむハメになる場合が多いのだという。それから考えるのであれば、拙者は「それなりには優秀」と言うこともできるはず。……誰も言ってくれないので自分で言うわけだが、まぁそんな拙者からの実戦的なアドバイスと思っていただきたい。
「締め切りを守る」というだけで注文は途絶えない
とはいえ拙者が貴殿に与える秘訣っつーかアドバイスは、本当にシンプルな2点のみである。なぜならば、その2点を確実に執行するだけで「本当に大丈夫」だからだ。
まず第一の秘訣。それは「締め切りは必ず守る」ということである。
「……そんなんでいいの?」と貴殿は思うだろう。うむ、そんなんでいいのだ。
これは11年と9カ月前、拙者のお師匠さんにあたるMJブロンディこと清水草一さんに伝えられた秘術である。「軍曹くん。独立にあたっていろいろ不安だろうが、とにかく締め切りを守りたまえ。そうするだけで注文は殺到するから」
それを言われた約12年前の自分も、今の貴殿とまったく同じように「……そんなんでいいんですか?」と思い、そして清水氏にそのように言った。たったそれだけで物事が上手くいくとは、到底信じられなかったのだ。
しかしあれから11年と9カ月。清水草一さんが伝授してくれた「秘訣」の効力は絶大だった。まぁ注文が殺到しているかどうかはさておき、大した文才もなく、そして皆さん薄々お気づきだと思うが自動車に関するマニアックな知識も皆無な拙者が、自動車ライターとして得たギャラだけで毎日白米(大盛り)をいただけているのである。
なぜ締め切りを守るだけでOKかというと、「ほとんどのライターが締め切りを守らないから」だ。
ある者は怠惰ゆえ遅く、ある者はこだわりすぎて遅筆で、またある者はその合併症。そういった遅筆軍団には、拙者も出版社の編集者だった時代にさんざん泣かされた。いっそ殺してくれようかとも思った(本当にかなりの迷惑をこうむった)。
しかしそんななかに、いつでもビシッと締め切りを守り、なんなら1日前とか2日前に上げてくる新人ライターが出てきたとしよう。遅筆軍団に悩まされ、「……いっそ殺すか?」とすら考えている担当者からすれば「コイツにまた頼もう!」と思うのは道理である。その積み重ねだけで、なんだかんだ食えてしまうのだ。
『日本語の作文技術』を読めば注文が殺到する
ただし、締め切り厳守あるいは締め切り日よりも前にビシッと上げてきた原稿が、内容的に全然ビシッとしていないようでは「次」はない。新人は、クライアントが「おっ、コイツなかなかやるね!」と思うクオリティの原稿を書かねばならないのだ。
そういった能力(ビシッとした文章を書く能力)を得るにあたっても「秘訣」はある。それが2つめの秘訣である。これは清水氏ではなく拙者のオリジナル手法だ。
で、その秘訣とは簡単なことだ。文庫本として安く売られてる『日本語の作文技術』(本多勝一著/朝日新聞出版)という本を書店やアマゾンなどで書い、それを熟読し、内容すべてを自らの血肉レベルにまで落とす。……ただそれだけである。
ここでホンカツこと本多勝一氏のイデオロギーを気にしてはいけない。拙者も20歳ぐらいの頃はホンカツ氏の著作に傾倒したものだが、今ではいっさい読んでいない。しかしそんなことはどうでもいいのだ。そのタイトルどおり「日本語の」「作文」の「技術」を獲得するためには、これ以上有効な書籍はない(と拙者は思っている)。
これさえ読めば、そして血肉化すれば、貴殿は注文が途絶えないライターとなるだろう。
なぜならば、この本の内容を理解すれば「フツーに意味がわかる文章」が、フツーに書けるようになるからである。
「……そんなのライターとして当たり前のことでは?」と貴殿は今思ったかもしれない。だがライターを、特に自動車関係のライターを、ナメてはいけない。彼ら彼女らは「悪文の総合商社」である。や、もちろん上手い人もそれなりにいらしゃることは、彼ら彼女らの名誉のためいちおう言っておきたい。しかし下手な人もかなり多いのだ。
悪文家が多いゆえ「フツーに書ける」だけで優位性が生まれる
下手っつーか、読んでも意味がわからないのである。何度か読んで「……この人はたぶんこういうことを言いたいのだろうなぁ」と推測するのだ。そういった悪文家の文章が雑誌等ではそれなりに読めるものになっているのは、ひとえに編集者による修正作業の賜物である。
「そんな、ある意味作家の文章に他人が手を加えるなんて!」と貴殿は思うかもしれない。拙者だってそう思うよ。しかしだね、そういった悪文を平気で書く人というのは、文章に対するこだわりがそもそもないんだよ。クルマに対するこだわりはあっても。
なので「センセイ、この部分をご修正いただきたく……」なんてやっても、「あ、そこはキミのほうで直しちゃって」で終わるのである(※もちろん全員が全員そうというわけではありません。念の為)。
……という感じなので、前掲の『日本語の作文技術』を熟読した貴殿が、フツーに一読しただけでスッと意味が入ってくる文章を書けば、それだけで担当者は「この新人、なかなか書ける奴だねえ!」なんて思うのである。で、次回注文になるのである。
ただ、これは著者の本多氏も言っていることだが、『日本語の作文技術』を熟読血肉化したところで、いわゆる「美文」が書けるようになるわけではない。それはまたぜんぜん別の話だ。この本で得ることができるのは、先ほども申し上げた「フツーに一読しただけでスッと意味が入ってくる文章を書くことができる」という能力だけだ。
ただ、それで十分なのだ。なぜならば、そういった文章を書ける人間の数が(実は)かなり少ないから。フツーに書けるだけで、なぜか優位性が生まれてしまうのである。困った話ではあるが、本当だ。
ということで以上2点(締め切りを守る/『日本語の作文技術』を読む)が、わたしの手法のすべてだ。ほかのことは一切やっていない。クルマの研究もそこそこに、東京ヤクルトスワローズの試合ばかり観ている。
そんな拙者でも飢え死にしないのだから、クルマに燃え、向学心にあふれ、機械に詳しく、そして若きエネルギーを炸裂させている貴殿であれば、あっという間にトップ近くまで登りつめることも可能であろう。まぁトップ近くにおける政治活動については拙者はあまり知らないので、また別の人に聞いてほしいが、そこまではこの2つプラス熱意だけで絶対に行ける。間違いなく行ける。
貴殿のご健闘を心よりお祈り申し上げます。
[ライター・画像/伊達軍曹]