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ドイツ現地レポ

更新2021.01.07

なぜ、日本人はドイツ車が好きなのか?その「意外な理由」をドイツ現地より紐解いてみた

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守屋 健

恒例である新年早々の花火が基本的に禁止されてしまい、例年になく静かな年越しを迎えたドイツ。この国には年末〜正月休みという概念はなく、国が定めた休日は1月1日のみなので、多くの人々は目をこすりながら働きはじめています。とはいえ、ロックダウン中ということもあり、街中の人影はまばらで、この状況はもうしばらく続きそうな見込みです。

筆者が妙に感心してしまったのが、「新年の花火は控えてください」という政府の呼びかけによって、街中で花火を楽しむ人が激減した、という点です。もちろん、呼びかけに応じず花火を上げた人たちはゼロではなかったのですが、「規則は規則」としてルールを守るドイツの人々に、日本人と共通する面もあるとあらためて感じました。

さて、今回のお題は「なぜ、日本人はドイツ車が好きなのか?」です。主語が大きいのでなかなかこうだ!と断言するのが難しいテーマではありますが、日本とドイツの共通点・相違点、さらにドイツ現地に住む筆者の視点も交えて紹介していきたいと思います。

■「外車は壊れやすい?」というステレオタイプとの戦い


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数多くの外国車があれど、そのなかでも圧倒的なシェアを誇るドイツ車。日本人はなぜここまでドイツ車ばかりを買い求めてしまうのでしょうか。

もっともシンプルかつ単純な理由は「ドイツの自動車メーカーと日本の輸入業者による長年の努力の賜物」というものです。ドイツの自動車メーカー各社は現在でも日本を重要なマーケットのひとつと位置付け、上級グレード・上級車種優先としたラインナップを揃えています。また、これまでの日本における「ドイツ車信仰」の成立には、ヤナセやミツワ自動車といった多くの輸入車ディーラーが尽力してきた歴史も一役買っているといえるでしょう。

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現在ほとんどのドイツ車メーカーは日本法人を立ち上げ、日本のメーカーほどではないにしろ、フランス・イタリア・アメリカなどのメーカーに比べるとはるかに多くの販売店網を確立。メインテナンスなどの緊急対応も迅速にできるよう体制を整えています。アフターサービスの充実度は、ドイツが他の諸外国メーカーから大きくリードしているポイントです。さらに、テレビやインターネット、雑誌や新聞を見るかぎり、ドイツの各メーカーが広告にかけている金額はかなりの額にのぼると考えられます。

「外車は壊れやすい」「燃費が悪い」。メーカーと輸入業者はそうしたステレオタイプと長年戦いながら、顧客からの信頼を獲得し続けた結果、ドイツ車は日本において確固たる地位を築くことに成功したのです。

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■意外?ドイツ人の運転は大雑把?


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販売・整備網が優れている、というのは、いわばソフトの面についての話です。ハードの面、つまりクルマそのものについてはどうでしょうか。なにか、ドイツ車だけが他国のクルマより突出して優れている部分はあるのでしょうか?

技術の進歩は、以前は存在していた技術面の格差をほとんど埋めるまでになりました。現在はどの国のクルマも壊れにくく、燃費がよく、細部の仕上げもよくなっています。ドイツ現地の自動車雑誌やインターネットメディア上でも「性能において、ドイツ車だけが特別優れている点はない」という論調が一般的です。

とはいえ、ドイツ車に乗ると「なにかが違う」と感じるのは、読者のみなさんもよく知るところでしょう。がっしりとしたボディ剛性、よく動くサスペンション、アクセルに鋭く反応するエンジンとトランスミッション、安定感のあるハンドリング。ドイツ車の多くに共通する「ドイツ車特有の味」というのは、どこからくるのでしょうか?

ドイツに暮らしていると実感するのですが、日本人に比べてドイツに住む人の多くは、手先があまり器用ではありません。性格もおおらかで、悪くいえば大雑把な人も多いです。また、第二次世界大戦後は、イタリア、トルコ、ベトナムから多くの移民が渡ってきました。そのためドイツの工業製品は、最初から「誰が作っても目標の性能が出せる」ように設計し、必要な治具を揃えてから生産を開始します。クルマもその例にもれず、生産地がドイツ国内であっても国外であっても、高い品質をキープできるよう設計段階から配慮されているのが特徴です。AMGのように、現在でも選ばれた熟練工だけがエンジンを手組みするメーカーも、例外として存在してはいますが……。

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不器用で大雑把、という性質は、ドイツ人の運転にもあらわれています。ドイツの人々がクルマに求めるのは、挙動のわかりやすさと剛性感です。もっと簡単にいってしまうと「ガバッとアクセルを踏んだらドンッと加速して、ギュッとブレーキを踏んだらガツンと止まって、適当にハンドルを切ってもグイグイ曲がってほしい」。ドイツ人ドライバーの多くは「繊細な操作」というのを嫌うので、多少ラフな操作をしても受け止めてくれる剛性感も欠かせない要素です。制限速度100km/hの一般道や、速度無制限のアウトバーンを何時間も走破することも考慮すると、高速安定性や耐久性も重要なポイントとなってきます。

このあたりが「エンジンは事務的だが足回りが柔らかくて疲れにくく、結果的に長距離を素早く駆け抜けられる」フランス車や、「感情に訴えかけてくる官能的なエンジンと、低速でも運転していて楽しい機敏さを持つ」イタリア車とは明確に異なる点といえるでしょう。結果的にドイツ車は、先に挙げた美点ーーがっしりとしたボディ剛性、よく動くサスペンション、アクセルに鋭く反応するエンジンとトランスミッション、安定感のあるハンドリングーーを獲得することになったのです。また、優れた高速性能は、日本の道路状況下での大きな余裕を生むことになりました。

■自社の持つ伝統と、革新の提案、その融合を図る


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ドイツ車が他の外国車と異なっていて、かつ多くの日本人から好まれる大きな要因となっているポイントは、おそらく「デザイン」ではないでしょうか。

イタリア車やフランス車の前衛的なデザインやカラーバリエーション、アメリカ車のマッシブな造形は、控えめを美徳とする日本の人々には気恥ずかしいと感じてしまう面もあるのも事実。その点、ドイツ車のシンプルな面で構成されるエクステリアや、必要以上の加飾が少ないインテリア、色こそ目立たないけれども仕上がりの美しい塗装は、多くの日本人にとって受け入れられやすいと感じるはずです。

現代のドイツ車は、日本車と同様に徹底的なマーケティングを行い、ターゲット層も極めて明確に設定します。しかし、そこからの作り方は日本と異なり、「自社の伝統」と「自社が提案する革新」の折り合いをつけたクルマ作りを行うのが大きな特徴です。

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結果的に生まれてくるクルマはポルシェ・911を例に挙げるまでもなく、誰が見ても「そのメーカーだ」とわかるデザインをまとっています。こうした「伝統を重視しつつ新しいデザインを織り込む」手法は、ドイツのデザインが特に優れているところで、クルマ以外ではライカのカメラなどで顕著に見られます。普遍的な美しさを保ちつつ、新鮮さをも失わないドイツのデザインは、モデルチェンジごとにまったく新しいデザインに変わってしまう多くの日本車と比べると、流行に左右されない力強さを持っているといえるでしょう。

運転していても、シンプルで洗練されたインテリアの恩恵はかなり大きいです。必要とする場所にはっきりと見やすく設置されたメーターやボタン類。タッチ操作もしやすい大きなディスプレイ。視界を妨げないダッシュボードの造形。こうしたひとつひとつの小さな工夫が、長時間運転時の疲労を低減してくれるのです。

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■EV時代にもドイツ車は好まれるのか?


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ドイツ車が日本人に好まれる理由。それは、普遍的な美しいデザインと平均速度が高い交通事情から生まれた走行性能、そして外国車随一の優れたディーラー網にあるといえます。

正直なところ、ドイツにおける日本車の評価は「高温多湿に強く、燃費がよく、故障は非常に少ないが、アウトバーンの長時間走行には向かない」というのが一般的で、特に高速走行時の直進安定性の低さを指摘されることが多いです。

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しかし、今はエネルギー転換の真っ只中。それぞれの国のクルマの評価は、今後登場してくるEVでも基本的には変わらないのでしょうか? そして、ドイツのメーカーたちはこれからも「さすがドイツ車」と唸らせてくれるような、魅力的なクルマを発表してくれるのでしょうか? デザインを含め、今後のクルマがどう進化していくのか、まったく目が離せない状況が続きそうです。

[ライター/守屋健]

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