試乗レポート
更新2023.11.22
世界にファンの多いロードスターがベース、泣く子も黙る「アバルト124スパイダー」に試乗
中込 健太郎
マツダの現行型ロードスターをつかまえて「非力である2000㏄が欲しい!」という人は大変多い。しかし個人的には全くそうは感じませんでした。でもどうしても欲しいならこれに乗ればいい。アバルト124スパイダーに乗って感じたのはそんなことでした。
今年のJAIAの試乗会では、実は個人的に楽しみにしていたことの一つでした。日本で販売されるアバルトも含め、FIAT124スパイダーはマツダの現行型ロードスターをベースにイタリアで企画開発され、広島のマツダの工場で生産されます。外観こそ往年のFIAT124スパイダーの雰囲気を残したデザインモチーフなども感じられるものの、ドアを開け、運転席に座ると配色で多少し異なる部分も残しつつ、基本的にはマツダロードスターのそれを活用したものになっています。しかし、エンジンを始動させるなり、マツダのロードスター専用の1500㏄自然吸気エンジンではなく、フィアットの1400㏄ターボエンジンが目を覚ますことがこんなにも違うものか!私は正直驚いてしまいました。
このクルマのパッケージはロードスター用にできています。ボンネットを開けトランクを開けると、前後とも車軸より外側には何一つ置いてはならん!というようなストイックさを感じるほど何もないことがわかります。確かに多くのクルマ好きが指摘するように、絶対的なパワー自体はほどほどにとどめつつ、とにかくエンジンの応答性、ステアリングを切った際の回答性については「手を伸ばせば届く」セッティングになっているのです。そしてそれらのすべてが乗り手を選ぶ極限値、限界領域で完成するようなものではなく、常用域で「はっ!」とするプロセスが非常に細かく作り込まれているのがマツダのロードスターではないでしょうか。
それに対してアバルト124スパイダーはそんなロードスターとは違い、最近フィアット系のモデルでよく見かける1400㏄ターボエンジン、ロードスターに比べればシャープではありません。少し前の2000㏄クラスのダウンサイジングエンジンに相当するエンジンですね。日本人はイタリアというと色気を想起させますが、つややかさ、あでやかさはむしろ希薄。しかし全域でよりトルクフル。エンジンルームをのぞき込むと、前輪の前にバッテリー(相当重量物ですよね)が鎮座しております。エンジンの上を覆うカバーはずいぶんシンプル。
アバルトだからと言って、何かきらびやかなものがあるわけではありませんでした。なんだか作り込まれた感じはそれほど強くありません。むしろ、端々に大味さすら感じます。でも、思えば往年の124スパイダーもこんなクルマだったのではないか。なんだか懐かしくなってきました。そして、ロードスターというベースの作り込みの良さに改めて感心させられました。また、少しパワーもあって、そういう作り込みのロードスターとFIAT124スパイダーとマツダロードスターとの「距離感」「車格のズレ」が妙にリアルで厳密で、的確なものを感じたのが印象的でした。屋根を下ろして、トルクに任せてドライブする。これ以外に何がいりましょうか。
そもそも、欲しがりすぎなんである。自分で猛省しました。世界にファンの多いロードスターをベースに、泣く子も黙る「アバルト」。思えば当代きってのエンスーダブルネームグルマではありませんか!こういうものが出てきたら両手をついてありがたく頂戴する。昔はこういうもので満足できる程度でいいはずだったのです。それを少しいろいろ乗ったことがあるからと言ってああでもないこうでもないと。贅沢もいいところです。
アバルトと言えば辛口なイタリアンのイメージではあるが、やはり宇品なのである。出自は。すこぶる旨いイタリアン、しかし瀬戸内のオリーブで作ったオリーブオイル、広島の牡蠣、瀬戸内の素材で作られた、瀬戸内の恵をいただいている感じがぬぐえない。合うのはワインより、日本酒の方、そういうクルマではないかと思うのです。
でもこれはいいこと、大切なことだと思います。どこで生まれたか、特にスポーツカーにとっては大事なことでしょう。こんな風味のロードスターが、憧れのヨーロッパ車、FIATのお眼鏡にかなったということなのですから。
そのうえで、このマフラーがアバルトか??とかあらを探せばきりがありませんが、最後にもう一度申し上げておきたいのは、ベースがキメキメなロードスターで、それが少しずつ角が取れたようなマイルドな仕上がりになっているこのクルマ。麗らかな日に屋根を下ろしてカントリーロードをドライブしたりしたら、どうでもよくなることでしょう。
そういう意味でもロードスターとのすみわけ、距離感、そして何より絶対的にFIAT124がかつてそうであったであろうシャープ過ぎない線を実に巧みに描いた一台だ、と思った次第であります。
▲これはJAIAの試乗会ではないが、先日のイベントでのアバルト124スパイダーと立花サキさん
[ライター・カメラ/中込健太郎]
今年のJAIAの試乗会では、実は個人的に楽しみにしていたことの一つでした。日本で販売されるアバルトも含め、FIAT124スパイダーはマツダの現行型ロードスターをベースにイタリアで企画開発され、広島のマツダの工場で生産されます。外観こそ往年のFIAT124スパイダーの雰囲気を残したデザインモチーフなども感じられるものの、ドアを開け、運転席に座ると配色で多少し異なる部分も残しつつ、基本的にはマツダロードスターのそれを活用したものになっています。しかし、エンジンを始動させるなり、マツダのロードスター専用の1500㏄自然吸気エンジンではなく、フィアットの1400㏄ターボエンジンが目を覚ますことがこんなにも違うものか!私は正直驚いてしまいました。
このクルマのパッケージはロードスター用にできています。ボンネットを開けトランクを開けると、前後とも車軸より外側には何一つ置いてはならん!というようなストイックさを感じるほど何もないことがわかります。確かに多くのクルマ好きが指摘するように、絶対的なパワー自体はほどほどにとどめつつ、とにかくエンジンの応答性、ステアリングを切った際の回答性については「手を伸ばせば届く」セッティングになっているのです。そしてそれらのすべてが乗り手を選ぶ極限値、限界領域で完成するようなものではなく、常用域で「はっ!」とするプロセスが非常に細かく作り込まれているのがマツダのロードスターではないでしょうか。
それに対してアバルト124スパイダーはそんなロードスターとは違い、最近フィアット系のモデルでよく見かける1400㏄ターボエンジン、ロードスターに比べればシャープではありません。少し前の2000㏄クラスのダウンサイジングエンジンに相当するエンジンですね。日本人はイタリアというと色気を想起させますが、つややかさ、あでやかさはむしろ希薄。しかし全域でよりトルクフル。エンジンルームをのぞき込むと、前輪の前にバッテリー(相当重量物ですよね)が鎮座しております。エンジンの上を覆うカバーはずいぶんシンプル。
アバルトだからと言って、何かきらびやかなものがあるわけではありませんでした。なんだか作り込まれた感じはそれほど強くありません。むしろ、端々に大味さすら感じます。でも、思えば往年の124スパイダーもこんなクルマだったのではないか。なんだか懐かしくなってきました。そして、ロードスターというベースの作り込みの良さに改めて感心させられました。また、少しパワーもあって、そういう作り込みのロードスターとFIAT124スパイダーとマツダロードスターとの「距離感」「車格のズレ」が妙にリアルで厳密で、的確なものを感じたのが印象的でした。屋根を下ろして、トルクに任せてドライブする。これ以外に何がいりましょうか。
そもそも、欲しがりすぎなんである。自分で猛省しました。世界にファンの多いロードスターをベースに、泣く子も黙る「アバルト」。思えば当代きってのエンスーダブルネームグルマではありませんか!こういうものが出てきたら両手をついてありがたく頂戴する。昔はこういうもので満足できる程度でいいはずだったのです。それを少しいろいろ乗ったことがあるからと言ってああでもないこうでもないと。贅沢もいいところです。
アバルトと言えば辛口なイタリアンのイメージではあるが、やはり宇品なのである。出自は。すこぶる旨いイタリアン、しかし瀬戸内のオリーブで作ったオリーブオイル、広島の牡蠣、瀬戸内の素材で作られた、瀬戸内の恵をいただいている感じがぬぐえない。合うのはワインより、日本酒の方、そういうクルマではないかと思うのです。
でもこれはいいこと、大切なことだと思います。どこで生まれたか、特にスポーツカーにとっては大事なことでしょう。こんな風味のロードスターが、憧れのヨーロッパ車、FIATのお眼鏡にかなったということなのですから。
そのうえで、このマフラーがアバルトか??とかあらを探せばきりがありませんが、最後にもう一度申し上げておきたいのは、ベースがキメキメなロードスターで、それが少しずつ角が取れたようなマイルドな仕上がりになっているこのクルマ。麗らかな日に屋根を下ろしてカントリーロードをドライブしたりしたら、どうでもよくなることでしょう。
そういう意味でもロードスターとのすみわけ、距離感、そして何より絶対的にFIAT124がかつてそうであったであろうシャープ過ぎない線を実に巧みに描いた一台だ、と思った次第であります。
▲これはJAIAの試乗会ではないが、先日のイベントでのアバルト124スパイダーと立花サキさん
[ライター・カメラ/中込健太郎]