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ライフスタイル

更新2023.11.22

今まさに、私の目の前で一台のジャガーXJ6が朽ち果てようとしている光景を目の当たりにして思うこと

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中込 健太郎

好きなクルマ…といっても、単に車種が一致していればいいというものでもありません。あの年式のあのグレード、色はこれがいいという「組み合わせ」が大事だったりするものです。そして、そんな好みを左右するイメージをどこでいつ見かけたか。そんなことが影響したりするものではないでしょうか。



思い返すと、小雨が降る鎌倉のお屋敷街の奥の狭い坂道をゆっくりと上がっていくジャガーXJ6(XJ40)、ボディーカラーはリージェンシーレッド。日常的な使用に供される姿は、私にとってある種のカーライフの理想像となっています。そんなクルマが、つい先日、朽ち行く姿で目の前に現れたのです。私もつい、足が止まってしまいました。


■昔思い描いた「理想的なジャガーXJ6」


XJ40型ジャガーは、1991年に大幅なマイナーチェンジを受けてグッと近代化しました。当時の日本は1990年代初頭、バブル崩壊後という時期でした。まだまだ華やかな世の中にあっても、それまでのように唸るようにお金の湧いてくる状況はすでに過去のものとなりつつあった時代だったように思います。その結果、日本市場において世界中の名だたる高級車が軒並み大幅な値下げをしたり、廉価グレードを充実させる施策がなされていました。


それまでジャガーといえば(特に日本仕様は)、ビクトリア調のフルレザーの仕様が中心でした。それがXJ40の後期型XJ6のベーシックなグレードにおいて、シート生地がウールとレザーのコンビとなり、ホイールもスチールホイールにホイールキャップを装着したすっきりとした外観となったのです。


本来であればメルセデス・ベンツSクラスに並ぶプレスティッジでありながらも、EクラスやBMW5シリーズなどに近い700万円を切るプライスタグを掲げた仕様が用意されていました。特にホイールキャップ付きの外観には相当な衝撃を覚えたものです。


元々スタイリッシュなXJ。低くワイドで臆することなく、伸びやかなボディに小さなキャビンを持つ伝統的なフォルムを基調に、よりすっきりとさせた軽快な印象があります。さらに穏やかで上品なワインレッドというか、マルーンのようなボディーカラー名が「リージェンシーレッド」だと知ると、XJ40の理想的なチョイスはリージェンシーレッドのベースグレードだ!そんな刷り込みがいつの間にか自分自身の中にできあがっていたのです。



そして今回、長いこと思い描いていた「我がベストチョイスなXJ40型のジャガー」に、最近しばしば訪れる宇都宮のスペシャル・ショップ「スクーデリア・ブレシア」で出会うことになろうとは…。


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■書類のないクルマは廃車あるのみ?


そのXJ6は12気筒のダイムラーと初代ランドローバー ディスカバリー(ディーゼルエンジン仕様のマニュアル車!)とともに廃車のときを待っていました。どうして!なぜこのクルマが廃車に!思わず声を荒げてしまうほど取り乱してしまいました。


聞けばここにあるすべてではないものの、名義変更する上で不可欠な書類が揃わないクルマなのだそうです。筆者も自動車買取の仕事をしていたことがあり、当時から「書類のないクルマは大きな鉄屑でしかない」といわれていました。そもそも、世界に名だたる名車や希少とか、基本的にはまったく関係ない話なのです。もったいないとは思いつつも仕方がありません。特にこの国では、書類のないクルマは土に帰る日を待つだけなのです。



 
そしてこのジャガー、クラス的なことを考えると素っ気ないほどシンプルなホイール。この意外性は新鮮でした。当時の記事を見るとハンドリング・乗り心地にも奏功とのことで俄然興味が湧きます。内装などはカビなどもあまり気にならず張りも良好でや破れもなくまだまだ生かしたいレベル。やはり風合いの良さには後ろ髪を引かれます。



この話をスクーデリア・ブレシアの社長の森さんにしたところ「実はあのクルマはいろんな経緯で引き取りあそこに鎮座しており、今は書類が揃わないから、直しても再び登録するのは難しい」とのことでした。新旧問わずジャガーの整備・修理も多数手掛けてきた森さんだからこそ、一筋縄ではいかないクルマも集まってきたようです。



世代的にはジャガーといえばこの形。「ダイムラー・ダブルシックス」のイメージなわけです。オリジナルのストーリーの続きをピニンファリーナが手を入れて「語り継いだ」モデル。しかし注目なのはダブルシックスではなく、「4.2」6気筒モデル。ジャガーとしては伝統的な流儀を感じさせるし、鼻先の軽さでも違うだろうなと思いが巡ります。フォルムの秀逸さを丁寧に際立たせていて、一度一緒に暮らしてみたい一台ではあります。スクーデリア・ブレシアさんには、他にもシリーズ3の4.2はたくさん置いてありました。


後ろのADO16はMG。現実的に英国車入門には最高な選択じゃないかと思ったりします。しかし、この個体は起こすのに相当の胆力・根気そして経済力が求められるかもしれません。



 
動かなくなってもう何年の月日がたっているのでしょうか?すでに十分に朽ち果てたようなクルマたち。キーをさして捻っても、絶対に動かないでしょう。それでも、そんなクルマの真ん中にいると、何か寂しいような、しかし「朽ちてもジャガー」ゆえ、幸せなような独特の気持ちになるものです。


もっとも、スクーデリア・ブレシアの森さんにも「ちゃんと直しても、この時代のイギリス車はなかなかいうこと聞いてくれない。もしかするともっと古いモデルの方がよほどリスク低く維持しやすさは上かも」といわれてしまいました。


私自身、どれほどお金があったとしても、継続して車検を取り、乗り続けようとしていたとしても、クルマとしてちゃんとし続けるという保証はない。維持するお金もないし、そんな余裕もないから。どのみちできないんだけど、そんな言葉に妙に安心してしまったり。朽ち果てたジャガーたちに囲まれてソワソワ、一人勝手に右往左往する自分が妙に可笑しくなってしまいました。


■腐っても鯛、ならぬ「朽ちてもジャガー」


技術レベルとしては1980年代の工業製品であろうこの時代のイギリス車、おそらくはなかなかの強者なのでしょう。それでもドアノブに手をかければ、その丁寧なパーツの仕上げ精度、施錠も忘れられていたのかがちゃんと力を入れるとやや大袈裟に反応する操作感。そして重厚なドア。室内に上半身を潜り込ませるて触ると今でもフカフカしたシートの作り、シート生地の風合い。手は抜かずコストを惜しまない姿勢。その向こうに英国の誇りのようなものも感じ取ることができます。


丸型ヘッドライト=ベーシックグレードとスポーティグレード。なぜか言語化こそされていないものの、この時代特有の手法のような雰囲気もあります。



よく見るとものすごく細部にまで配された小さなスイッチ類。もちろんこの状態なので作動こそしないものの、それらを押したり引いたりしてみると、その動き・押し心地の質感は固く剛性感がありしっかりとしたもの。さすがジャガーと思わせるし、振り返るとその感覚が筆者のジャガー観の原点のようなものでもありました。
 




どんなに電気仕掛けにはなっても、クルマの基本はそれ以前のクルマに準じたもの。それが1980年代から90年代の「ネオクラシック」なクルマたち共通の特徴。そしてそれらが今となっては保存に難しさに拍車をかけている元凶であるとも言えるのです。
 




内張はすでに利用されてしまったのか、骨組みだけになったドア。しかしそのがっしりとした開閉感、そして音。とても重厚なものでした。これこそが高級車の証、そんなふうに思ってしまう小生は、やはりすでに古いタイプの人間なのかもしれません。


書類がない、部品がない、お金がない。それぞれここに置かれているクルマが抱える問題、世の中の事情、オーナーの甲斐性・うつわなど、さまざまな理由があるに違いありません。しかし、クルマは機械、カタチあるものはやがて朽ち果てる。それはいわば「さだめ」なのかもしれません。しかしそれを理解はしていても、何か寂しい気持ちになったり、感情が移入してしまうものです。


それでも思うのは「願わくば直せないものか」ということです。せめてもの悪あがきで、誰か引き取ってくれる人はいないものかと、SNSを通じてメッセージしてみたりしたくなるのです。そのまま朽ちるより、少しでも役に立てば。クルマ自体が直ればいいでしょうが、それは叶わなくても、パーツとして走る仲間が生き延びる一助になれば、などとは思いますから。


たかがクルマ。でも、どうしても気持ちが入ってしまうので、それが文字通り往生際を悪くしてしまう原因だったのかもしれません。


しかしなんとか生きながらえさせることはできないものか、と思ってしまいました。このXJ6も、少なくとも傷の少ないホイールキャップ付きホイールは温存しておいた方がいいかも、と思いました。このベースグレード、もはや一台も中古車の売り物もありませんから。


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■そんなのより、これ乗らない?と言われたスーパーチャージド


書類がないというのは、正直現実的には「最後通告」に近いです。自動車趣味ではどんなに「名車」「通好み」「捨てがたい一台」と囃し立てても、書類が揃わないクルマというのは、大いなる鉄屑でしかない。酷なようですが、そういう側面は否めません。ですから、手元にあるクルマの再生を先延ばしにしておいて、こちらを気にしてしまう。こだわりを持つというのはある種のないものねだりであり、先にやることがあるだろうと周りからいわれても仕方ないような部分はあるのです。



といったことを踏まえて…でもないでしょうが、スクーデリア・ブレシアの森社長に「それよりもこれ乗らない?」と言われたのはX300型、前述のジャガーよりさらに新しいXJのスポーツモデル、直列6気筒エンジンをスーパーチャージャーでよりパワフルにしたモデルです(そもそもいいなあ、と眺めていると、乗るクルマを探している前提で別の、より現実的な選択肢を勧められる。クルマ好きあるあるですね)。


全幅1800ミリ、全長5メートル超えるクルマの割には、元々それほど重量級というわけでもないこのジャガー。その直列6気筒エンジンにスーパーチャージャーが与えられたクルマですから、伝統を踏襲しつつ、爽快な新時代のジャガーらしさも上手く表現した一台といえるでしょう。


もっとも、さまざまな状況を考えると大振りなシリンダーを持つ直列6気筒エンジン+スーパーチャージャーという組み合わせ自体、現代においては簡単に生まれないタイプのクルマです。そして何より、税金や現実的な維持費の面でも、選んだだけで「漢のチョイス」というクルマであることは間違いありません。


また、こちらのジャガーをセレクトしたところで機械的な信頼性が格段に上がるということもないのもまた事実です。むしろ、少しずつ手を入れて乗り続けるというような、趣味的カーライフの本質と、じっくり向き合うような。そういう暮らしに憧れを抱くわけであります。



「この(隣のオレンジ色の)グレムリンも、向こうのBMW528も、奥のベントレーターボRも、栃ナンバーの190も、みんないい嫁ぎ先探してるんだけどね」。プレスは使わず鋳型に鉄を流し込んだのではないかと思うほど、コンパクトながらがっしりしっかりと重厚、独特奇異なグレムリン。英国車で一度乗ってみたいといえばなSZ系でありながら、多くがロングホイールベースなのに珍しいショートボディのベントレーターボR。タイヤはAVONを忠実に選択されていて、距離も浅い一台。「栃ナンバー」の維持すること考えると、どこに車庫があfればいいのかな?ラムサール条約で指定された湿地帯、渡良瀬遊水地のほとりあたりで飛来する鳥と一緒に過ごすのも悪くない?などと保管場所探しが気になってしまうフィンテイルの190。



  
ジャガーや、BMWの少し古いモデル用のものを中心にホイールのストックも多数持つスクーデリア・ブレシア。もし探しているようであれば、ぜひお問い合わせを。


・tel.028-660-6131


・メール:info@brescia.co.jp


お金、そしてクルマをはじめモノに執着しすぎるのはよくないこととはいえ、それでも救ってあげられない甲斐性のなさを悔やみたくなるスクーデリア・ブレシアの第二工場でのひととき。書類がなければそのときを待つばかりでしょう。しかし、動くクルマも動かさなければそう遠くない将来動かなくなってしまう。これはほぼ断言できることなのです。



このクルマ自体が復活できないということであれば、ホイールだけでも外して、一番シンプルな装いのXJ40に仕立ててみたい。リージェンシーレッドのXJ6には、理由も筋合いもないのに妙に急かされ、焦ってしまったのでした。



取材協力:株式会社ブレシア https://brescia.co.jp/


[ライター・画像/中込健太郎]

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