更新2024.05.26
本当に欲しいクルマを手に入れるには「強烈な動機付けがないと無理かもしれない」という話
松村 透
先日、フェラーリ テスタロッサを30年近く所有している方とお会いする機会があった。かつて自分も夢にまで見たモデルであり、またプライベートでもあったので気持ちが昂ぶった。
そして、久しぶりにじっくりと眺められたテスタロッサは美しいクルマだなと改めて思う。現代のフェラーリよりも存在感があるように思えたのはひいき目もあるのだろうか。
■乗れるときに乗っておかないと買えなくなっちゃうよ
オーナーさんと談笑している際に、テスタロッサは少年時代から憧れのクルマであることを伝えた。
するとオーナーさん曰く「本当にテスタロッサが欲しいなら、乗れるときに乗っておかないと買えなくなっちゃうよ」。そのとおりだと思った。
かつては500万円以下でテスタロッサが買えた時期があった(その後の維持費はさておき)。それがいまや、Webカーセンサーに乗っている売りモノはいつの間にやら2000万円前後、あとはASKといったありさま。ここから整備費用にいくら掛かるんだろう…。
オトコの120回ローンを組めば買えるかも…と、淡い期待を抱いてシミュレーションしてみた。総支払額が約2100万円、これに頭金を300万円入れたとして(ボーナス払いなし)、金利3.9%で月々18万1千円。もはや賃貸マンションの家賃か住宅ローンの支払い額の域だ。
そういえば、20代の頃のこと。勤めていた会社を退職した日、目の前を真っ黒のフェラーリ512TRが走り去って行った。このとき不覚にも「あぁ、俺はまだフェラーリを買えるかもしれない」と思ってしまった(笑ってください)。あれからおよそ20数年。いつの間にやらアラフィフになってしまった。そういえばフェラーリはまだ買えていない。正直いって認めたくないのだが、すでに「乗れるときに乗っておかないと買えなくなっちゃう」領域なのかもしれない。認めたくないけれど。
■10代のときの強烈な体験があれば
私事で恐縮だが、是が非でも欲しいと思い、実際に手に入れきたクルマがある。それはポルシェ911とユーノスロードスターだ。いずれも10代のときに強烈な体験して「これは何としても手に入れたい」と思えるほどのインパクトを受けた。
その後、関連書籍や雑誌を買いまくり、カーセンサーで気になる売り物を見つけては、自転車に乗って片道3〜40km離れた中古車販売店まで観に行った。なんでクルマで行かないのかって?クルマを維持できるほどのお金がなくて、自分のクルマを所有できなかったからだ。
もし、10代のときにポルシェ911やユーノスロードスターのような強烈な体験をフェラーリでしていたら…。別の人生があったのかもしれない。
■年齢という見えない壁
先日「フェラーリ 12 Cilindri(ドーディチ チリンドリ)」というニューモデルが発表された。EVでもプラグインハイブリッドでもない、純内燃機関の12気筒(もちろんNA)エンジンを搭載するモデルだという。
1970年代の名車、フェラーリ 365GTB/4 デイトナを連想させるフォルムだ。カッコイイと思った。この際、仕事でも何でもいいから早く実車を見てみたいと心から思った。だけど、何が何でもこのモデルが欲しいという気になれない。これはクルマに問題があるわけではなく、自分自身の問題だ。悲しいかな「是が非でも手に入れたい」という内から湧き上がるような衝動が起こらないのだ。
20代ならいざ知らず、アラフィフともなれば「現実として受け容れざるを得ない」ことも増えてくる。諦めたらそこで終わり。頭では分かってはいるのだが、地元なら豪邸が建つような費用を投じてまでフェラーリを手に入れたいと思えなくなったことも事実だ。
すでに人生の折り返し地点を過ぎたあろう、自分の現在地、そして守るべき家族という存在。
言い訳じみていて自分でも悲しくなってくるのだが、遅まきながらようやく現実を受け入れる心の準備が整ったともいえるのかもしれない(ホンのちょっぴりだけど、まだ完全に諦めたわけではない)。
■本当に欲しいクルマを手に入れるには強烈な動機付けがないと無理かもしれないという話
私の友人で、お子さんが東大生という人がいる。父親である友人が優秀なDNAの持ち主であることはいうまでもないが、友人曰く「東大生は強烈な負けず嫌いの集まり」と感じることがあるそうだ。
友人のお子さんが東大を目指すことを決意したのは中学生のとき。親に強制されたわけではなく、自分の意思で「東大に必ず合格する」という明確な目標があるので、起きているときはひたすら勉強していたそうだ。
結果的に一浪したすえに見事東大に合格。今年の春からは東大の大学院に進学したそうだ。
長期間にわたって「東大に必ず合格する」というモチベーションを維持するのは並大抵ではないと思う。しかし、本人の決意が固ければ固いほどそんなことは苦にならないのだろう。また、それくらいの覚悟と強い意志がなければ東大には入学できないということだ。諦めたらそこで終わり。戦線離脱だ。
ごくまれに、ものすごく地頭がいい人がさらっと東大に入ってしまうケースもある。そして、もともと家が裕福で割とサラッとフェラーリが買えてしまう(正直いってうらやましい)人もいるが、いずれも例外だ。
それと同様に、自分を含めてたいていの人にとっては雲の上の存在である「本当に欲しいクルマ」を買うには、大げさかもしれないけれど、何が何でも東大に合格するくらいの強烈な動機付けがないと無理かもしれない。
[画像・Ferrari、ライター・撮影/松村透]