アイキャッチ画像
ドイツニュース

更新2020.08.12

20年前は約8割がMT車!現在は…?ドイツの最新トランスミッション事情

ライター画像

守屋 健

ヨーロッパでレンタカーを借りた経験がある方なら、おそらく実感したことがある「欧州はマニュアルトランスミッション(MT)車がほとんど」という事実。レンタル料金が少し高めのクルマを選ばないとオートマチックトランスミッション(AT)車には乗れないので、その機会に「久しぶりにMT車を運転した!」という人も多いのではないでしょうか。

20年前は約8割がMT車!現在は…?ドイツの最新トランスミッション事情

筆者の住むドイツでも例に漏れず、長らくMT車が優勢でした。近年、現地の自動車メディアでは「MT離れが急速に進み、アメリカや日本ほどではないものの、ATの比率はますます増加していくだろう」と言われています。ここにきて、急速にMTからATへの転換が進んでいる理由はどこにあるのでしょうか。今回のドイツ現地レポでは「マニュアル主義に異変?ドイツの最新トランスミッション事情」と題して、MTとATをめぐる最新情報についてお伝えします。

ドイツでは新車販売の約半数がAT


20年前は約8割がMT車!現在は…?ドイツの最新トランスミッション事情

日本では9割以上がATになっていますが、ドイツでは20年前まで約8割以上がMTでした。しかし、現在のドイツでは新車販売の約半数がATとなり、ドイツ全土のクルマの3割以上がATに置き換わりました。その割合はさらに増え続けるといわれています。それでも、日本に比べればずいぶんとATの割合は低いですが…。

そもそも、なぜドイツではATが普及しなかったのでしょうか?その理由は4つあります。

・ATはMTよりも『下』という偏見
・かつてMTの方が燃費がよかった
・新車購入時や修理の際にかかる価格差
・MTの方が、ドライバーの意のままに運転できる

ひとつずつ解説していきましょう。「ATはMTよりも『下』という偏見」についてですが、かつてドイツの男性の一部では「ATに乗っているやつは軟弱」と言ったり、「ATは老人の乗り物」「女はMT車をうまく運転できない」といった年齢や性別に関する悪口をささやく風潮がありました。男はMTに乗ってこそ、という社会的偏見が一部に存在したのです。

20年前は約8割がMT車!現在は…?ドイツの最新トランスミッション事情

ところが、ドイツでは趣味や文化が多様化し、ここ20年で都市への回帰現象が起きています(ドイツの都市部では家賃の上昇が社会問題のひとつとなっています)。このような現状があるため、クルマだけにお金をかけるという人は少なくなり、クルマはより一層「移動のための道具」としての性質が強くなりました。そこで登場してくるのが「かつてはMTの方が燃費がよかった」というふたつ目の理由です。

「MTに乗っているやつの方が偉い」と主張する人々の根拠のひとつは、ATよりもMTの方が燃費がいい、というものでした。しかし現在は技術革新が進み、ATの方が燃費に優れるのは周知の通り。さらに都市への回帰現象の結果、都市部の渋滞は増え、ATの優位性はますます高まりました。ドイツは環境保護と差別的発言に関して神経質なので、燃費が悪いMTに執着し、あまつさえ「ATは女や老人の乗り物だ」なんて主張したら、周囲から白い目で見られるのは必至です。

外車王バナー外車王バナー旧車王バナー旧車王バナー

ミドルクラス以上はもはや「ATが主流」


20年前は約8割がMT車!現在は…?ドイツの最新トランスミッション事情

意外と根強い問題なのが、三つ目の「新車購入時や修理の際にかかる価格差」です。ATが壊れやすく、修理代が高くついたのも昔の話。絶対的な耐久性こそおよばないものの、ATの信頼性は以前に比べて大幅に向上しました。修理代の高さは相変わらずですが、修理そのものの頻度は低くなっています。とはいえ、MT派の「壊れたときに高くつく」という意見は、現在でもネット上で散見されます。

新車購入時の価格差も、ドイツでは大きな問題です。VW・ポロくらいのクラスでは、ATの方がMTよりも高く、その価格差は1,000〜2,000ユーロ(約12万〜24万円)とその差は小さくありません。ここまで価格差があると、庶民やレンタカー会社は高価なATよりもMTを選びがちです。

しかし近年はドイツにおいても、ミドルクラス以上のクルマにMTを設定しない場合も増えてきました。ドイツメディアの多くは「ミドルクラス以上の7割はすでにATしか選択できない」としています。ドイツでは、MTは一部のスポーツカーか小型車でしか選べなくなってきているのです。

現代のATが提供する「新たな楽しさ」


ドイツ乗用車新車登録、7月は5.4%減少

最後の「MTの方が、ドライバーの意のままに運転できる」という理由ですが、これはドイツのドライバーの運転スタイルに関わってきます。

ドイツのドライバーの一部には、交通ルールの範囲内で最大限、自分の想い通りにクルマを操りたい!という層がいます。急発進、急加速、激しいブレーキング、攻めのコーナリング、そして速度無制限のアウトバーン…そうした様々な状況下でダイレクトな操作感が得られるMTは、長年ドイツのドライバーに愛されてきました。

20年前は約8割がMT車!現在は…?ドイツの最新トランスミッション事情

ところが現在はATも進化し、高級スポーツカーや高級サルーンではDSGのようなダイレクト感あふれるATが主流となりました。これらはMTでは到底かなわない変速スピードを実現し、ギアの選択もパドルシフトによってドライバーが能動的に行えるなど、「クルマを意のままに運転できる」という意味ではMTよりも進化しています。「クルマを意のままに運転できる」ことを「楽しい」と定義すると、現代のATはMTには到底実現できなかった、コンピューターゲームのような「新たな楽しさ」を与えているといえるでしょう。

結局「クラッチを踏んで、シフトノブを使ってギアを選択し、再びクラッチをつなぐ、その一連の動作が楽しい」と感じる人たちだけが「MTの方が、運転していて楽しい」という理由で、MTをこれからも選んでいくのかもしれません。なかなか意のままに操れないという「もどかしさ」も含めてMTを選ぶドライバーは、最終的にはどのくらい残るのでしょうか。

外車王バナー外車王バナー旧車王バナー旧車王バナー

メーカー主導で進む「AT化」


20年前は約8割がMT車!現在は…?ドイツの最新トランスミッション事情

さて、現在ドイツでAT化が急速に進んでいる理由は、以下の4つと言われています。

・メーカーがATの割合をより増やそうとしている
・ATは先進安全装備や自動制御との親和性が高い
・高齢者と都市生活者の増加
・運転免許の取得が簡単

ドイツでは環境問題への取り組みが重要視されているため、燃費のよいATへの移行は、メーカーとしても積極的に進めていきたいと考えているようです。電気自動車の開発も急ピッチで進められているため、それほど遠くない未来に「内燃機関のMT車」が過去のものとなるでしょう。

個人的には、この急速なAT化の背景には、VWディーゼル不正問題もきっかけのひとつになっていると感じます。それまでの庶民にとって燃費のいいクルマの条件、つまり「低排気量ディーゼルとMTの組み合わせ」の将来性が断たれてしまい、環境問題への観点から、ATやハイブリッド技術、電気自動車、そして自動運転車への早急な転換を余儀なくされてしまったからです。

中古車市場におけるATとMTの価格差は?


20年前は約8割がMT車!現在は…?ドイツの最新トランスミッション事情

最後に、中古車市場での価格や需要について紹介しましょう。AT車は新車価格が高いのと、中古車市場では数が少ないという理由で、MT車よりも高めの相場に落ち着く傾向にあります。ところが、少し古いスポーツカーなどにスポットを当ててみると、日本とドイツでは大きな違いがあることに気付きます。

例えば日本において、フェラーリ・F355やポルシェ・911(964)などいったクルマでは、MTの方がATより圧倒的に高価で、中古車市場でも人気があります。ところが、ドイツではこうした年代のスポーツカーでも、MTとATの間にほとんど価格差は存在しません。もともとATのスポーツカーの流通自体少ないのですが、ATを欲しがる層の需要とバランスしているのか、日本のような「スポーツカーはMTの方が高価」現象が存在していないのは、MT大国であるはずのドイツの不思議なポイントといえるでしょう。

外車王バナー外車王バナー旧車王バナー旧車王バナー

今、あえてMT車を発表する理由


なんだかMTのネガティブな面ばかりクローズアップしてきた感がありますが、筆者自身はMTの運転が大好きです。クラッチペダルを通して感じる振動、シフト操作がスパッときまった時の爽快感…。そうした「機械を操作する実感」を好む層は、ドイツやイギリスの開発者の中にもまだまだ存在しているようです。

現行型ポルシェ・911(992型)は2020年モデルから、カレラSとカレラ4Sに7速MTのオプションを追加(欧州仕様、日本導入は未定)。ドイツでは無償オプションとして、8速PDKもしくは7速MT(スポーツクロノパッケージとセット)のどちらかが選べるようになりました。

そして2020年8月4日にワールドプレミアとなった、ゴードン・マレー・オートモーティブ・T.50。ゴードン・マレー氏本人が、あのマクラーレン・F1を「考えうるあらゆる方法で改良した」と言わしめるスーパーカーですが、選ばれたトランスミッションはマクラーレン・F1と同じ形式、つまりHパターンを持つ3ペダル式の6速MTでした。F1登場から約30年が経過しても、ゴードン・マレー氏にとってトランスミッションはMTでなければならなかったのです。

いつまで公道で内燃機関とMTの組み合わせが楽しめるかはわかりませんが、ATが主流になっていく今後も、熱狂的なMTファンは「機械との対話」を個人的に楽しんでいくのでしょう。現地のメディアが予想している通り、ドイツでもATがMTを駆逐してしまうのか、今後も注意深く見守っていきたいと思います。

[ライター/守屋健・画像提供/松村透]

外車王SOKENは輸入車買取20年以上の外車王が運営しています

外車王SOKENは輸入車買取20年以上の外車王が運営しています
輸入車に特化して20年以上のノウハウがあり、輸入車の年間査定申込数20,000件以上と実績も豊富で、多くの輸入車オーナーに選ばれています!最短当日、無料で専門スタッフが出張査定にお伺いします。ご契約後の買取額の減額や不当なキャンセル料を請求する二重査定は一切ありません。