ドイツ現地レポ
更新2020.11.01
ドイツ本国でメルセデス・ベンツやBMW、VWなどを好むオーナー像のイメージとは?
守屋 健
とはいえ、ドイツは16州からなる連邦共和制国家で、州ごとに異なる顔を持ちます。ベルリンの壁が崩壊するまでの約30年間は東西に分断されていたという、複雑な背景を持つ国家です。トルコやベトナムからの移民も多く、簡単に「このメーカーはこんなに人が乗っているよ」と言い切れない側面もあるのですが、いち記者の目から見た率直な意見をつづっていきますので、どうか最後までお付き合いください!
■「御三家(メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ)」に乗るオーナー像は?
基本的に他人のことをあまり気にしない傾向の強いドイツ人ですが、いくつか「こうしたブランドに乗っている人はこんなイメージ」という調査をした結果が残っています。ここでは2018年に行われたドイツのタブロイド紙・ビルトの調査結果も参考にしながら、ドイツでの「ブランドごとのオーナー像」に迫っていきましょう。
●メルセデス・ベンツ
スポーツイメージを押し出す広告戦略、そしてスポーティなクルマ作りに転換してきているメルセデス・ベンツですが、ドイツでのイメージは「高収入で安定志向、傲慢でスポーツ志向ではない」というもの。筆者の目から見ても、オーナーの年齢層は高めで、経営者や会社の上役、弁護士、医者といった職業の人々からは絶大な支持を集めています。メルセデス・ベンツのSUVやGクラスに乗る層もそれほど違いはありません。
一方でスポーティなAMGモデルに乗っている人のなかには、上記の層の他に、筆者の住むベルリンにおいては「移民の流れを汲む成功者たち」も含まれています。ベトナム系、あるいはトルコ系の経営者たちが、高価なAMG GTやAMGのGクラスに乗って豪快に街中を駆け抜けるのはベルリンの日常の一部になっています。
●BMW
BMWのオーナー像は、メルセデス・ベンツよりも若くて収入は少ないものの、スポーツ志向で、環境への関心が低い傾向がある、とドイツ現地では見られています。中高年の肥満が問題視されているドイツでは「メルセデス・ベンツのオーナーより、BMWのオーナーの方がスリムな体型をしている」などと冗談めかして言われることも。
筆者の感覚では、体型がスリムかどうかはわかりませんが、実際にスポーティ志向が強く、そして運転そのものを楽しみたい人が乗っている傾向が強いと感じます。メルセデス・ベンツに乗っている人にとってクルマはあくまで「移動手段」ですが、BMWのオーナーのとっては「クルマは楽しむ道具」といった印象で、まさに「Freude am Fahren(直訳すると運転する喜び)」、キャッチコピーの「駆けぬける歓び」を体現していると言えるでしょう。ただし、ドイツではBMWドライバーの自己中心的な運転が批判の対象になりがちです……。
●アウディ
ドイツにおけるアウディのオーナー像はBMWのそれと非常に似通っていて、収入は平均よりも多く、スポーティ志向が強く、運転では傲慢な一面を見せることがある、と評されています。アウディのオーナーは男性が多く、購入する年齢層もメルセデス・ベンツより低め、とされています。
筆者が実際に目にする範囲では、アウディが男性オーナーばかりに愛されているということはなく、女性のドライバーもよく見かけます。また、アウディに限ったことではありませんが、カブリオレモデルを好む女性はとても多く、天気が良ければ屋根を開け放ってドライブを楽しむ姿はまさに春夏の風物詩です。
アウディに乗っているオーナーの印象としては「目的地でスポーツしたい!」というエネルギッシュな人々が多いように感じます。運転すること自体が楽しい「スポーツ志向ドライバー」のBMWに対し、目的地に着いてから目一杯スポーツを楽しみたい「スポーツ大好きオーナー」のアウディ、というとわかりやすいでしょうか。
■VWやオペル、ポルシェのオーナー像は?
●VW
収入は平均くらいか平均よりも少し低く、真面目で保守的、というのがドイツにおけるVWのオーナー像です。一方でアンゲラ・メルケル首相の愛車もVW・ゴルフであるなど、社会的に地位が高い人にも積極的に選ばれるブランドでもあります。SUVなどでスポーティなイメージを打ち出してはいますが、実際は今も保守的な層に好まれているようです。
筆者在住の首都ベルリンにおいては、免許取り立ての若者や、移住したての外国人、移民にルーツを持つ人々や職人・現場仕事に従事する人々に支持されています。特にゴルフに関しては、中古車市場に圧倒的な数が出回っているため、走行距離・年式・状態・予算などそれぞれの人が求める条件で選び放題という状況。万が一故障が発生しても、修理を行える工場が非常に多いので、その安心感も人気の要因となっています。
●オペル
最近、北ドイツを中心に人気を取り戻しているのがオペル。とはいえ、ドイツでの現状の評価は「平均よりも収入が少ない層に人気を博し、運転の傾向としては控えめ。スポーティ志向ではなく、あまり魅力的ではない」と非常に辛辣です。
筆者の印象としては、若者を中心に人気が出ているように感じます。デザイナーや画家など、クリエイティブな職業の人たちの相棒になっている印象も。新車価格や中古車価格が安いため、若い駆け出しのクリエイターたちから支持を集めやすいのかもしれません。MINI、スマート、フィアット、ルノー、プジョーなどもそうした傾向がありますね。
●ポルシェ
オーナーの大半は男性。社会的に成功し、スリムな体型でスポーティ志向。運転も傲慢で唯我独尊。環境に対する関心が低い。ドイツでのポルシェのオーナー像はこんな風に言われていますが、成功者に対する妬みの視点も入っているかもしれませんね。
アウトバーンの追い越し車線でカッ飛んでいくポルシェは多いものの、街中で危険運転をしているポルシェオーナーはごくわずか。ちなみに個人的な感想を言えば、911や718系のドライバーよりも、カイエン、マカン、パナメーラのドライバーたちの方が、街中で乱暴な運転をする傾向が強いように感じます。
■「オーナー像」とはいうけれど…
ここまで、ドイツでのアンケート記事と筆者の主観を元に、ドイツでのドイツ車オーナー像を紹介してきました。ドイツは州によって独自性が強いので、メルセデス・ベンツやポルシェのお膝元・シュツットガルトや、BMWの生まれ故郷・ミュンヘンなどでは異なる印象を持つ可能性が高く、ここで論じたことを「ドイツ全体の結論はこれだ!」とは言えないのですが、みなさんはどのように感じましたか?
こうしたオーナー像は、時間の流れによって変わっていく可能性もあります。そう、時代は電動化・自動化の大きな流れの中。イメージがどのように変わっていくのか、これかも注視していきたいと思います。それではまた!
[ライター・カメラ/守屋健]