ドイツ現地レポ
更新2017.03.03
どうやって愛車を遺すのか?ドイツの住宅街で見つけたメルセデス・ベンツ190E(W201)を通して
NAO
先日、私用で朝早くから静かな住宅街を歩いていたところ、あるクルマが目に入り、すこしギョッとしてしまいました。そこには苔が生え、さび付いた1台のメルセデス・ベンツ190E(W201)がひっそりと置かれていたのです。
生前、ご主人が乗っていたメルセデス・ベンツ190E(W201)を処分できずに・・・
そのときは時間も迫っていたため、写真を撮り、先を急ぎました。きちんと庭が手入れされた一軒家でした。それなのに、なぜあのクルマだけがこのような状態で置かれているのか?どうしても気になってしまい、帰りにもう1度寄り道してみたのです。住人の方には会えなかったのですが、偶然外に出ていたご近所の方に声をかけてみました。
聞くところによると、ここには老夫婦が住んでいて、このメルセデスはご主人の愛車だったそうです。そのご主人が亡くなった後、奥さんはどうしてもこのクルマの処理ができず、少なくとも5年ほどそのままにしているようでした。ボディカバーもかけず、この数年間雨風にもさらされながらじっとその場に留まり、劣化してゆくメルセデス。なぜこのままに?奥さんはあえて、最愛の人が毎日停めていたのであろうこの場に残しているのだろうか?と、想像しつつも色々な考えが頭の中を巡ります。
オーナーなき後、所有していたクルマの遺し方について考えさせられる
ドイツをはじめ、世界には「クルマの墓場(独:Autofriedhof)」と呼ばれる場所があります。オーナーが亡くなったあと、彼らのコレクションたちが放置され、結果的に墓場と呼ばれるようになったもの。また、アートの一環として、意図的に森の中に長期間放置して、ツルやコケを生えさせる場合もあります。大規模なものでは、フランスのプロヴァンス地方やアメリカのジョージア州には1つの場所に4000台以上のクルマたちが眠っており、今や観光地化しているものもあります。
基本的にクルマの墓場というのは、複数台のクルマが集まっている場合を意味しますが、今回のメルセデスはどうでしょうか。現実的な話として、所有者が亡くなった場合、身内や友人が事務手続きを通して廃車なり名義変更なりしていきます。しかし、財産であるクルマをどう扱うのかは、生前の本人や残された人が決めるもの。ドイツニュースでも幾度か紹介してきたように、オーナーの死後、ガレージに眠っていたクルマをオークションに出品したところ、何十億もの価値があったという話もあります。
名車かどうなのか・・・ではなく、そのクルマに乗っていた人の想い出は何物にも代えがたいはず。奥さんは、どのような想いでご主人の愛車だったこのメルセデスを見ているのでしょうか。「主なき後、どうやって愛車を遺すのか?」今回、1台のメルセデス・ベンツを通して、新たなクルマの遺し方を見つけたような気がします。