ライフスタイル
更新2020.08.20
4ローター・1200psのエンジンも実在する!世界のチューニングカー事情
中野 ヒロシ
クルマを楽しむ上で欠かせない存在であるチューニング。ドレスアップをして自慢すること、エンジンの出力を向上させて速さを競い合うこと。クルマというモノを通して自分のセンスや技術力、知見を身につけ、それを磨き上げることが評価される。世界のあらゆる国々で、人々はクルマのチューニングやカスタマイズに夢中になっている。
最近では、チューニングをしなくても300km/hオーバーの世界へ到達できるクルマが増えつつある。しかし、どれほどクルマが進化を遂げようとも、さらなる性能を追い求め、限界を越えることに夢中になる人が消えることはない。
日本においては60年代〜70年代モータースポーツが広がり始め、現在では大御所とも言えるRE雨宮といったチューナーやHKSやトラストのようなチューニングパーツを主に取り扱うメーカーも誕生していった。80年代は谷田部での最高速アタックが盛んとなった。90年代にはスカイライン GT-Rやスープラといったハードなチューニングに耐えうるエンジンなどを持っていたクルマたちの存在により、日本のチューニング業界は円熟を迎える。
地域によって根ざすクルマの文化は異なっていて(アメリカではドラッグレースが盛んであるように)、日本の特徴としては最高速を追求するようなカスタムに加え、峠のようなコーナーが多数あるコースで速さを追求するスタイルや、コーナーをいかに派手に美しくクリアしていくドリフトといった文化が成熟されていった。最近では、サーキットでのタイムアタックが一番盛り上がりをみせているようだ。
昨今の世界のチューニングシーンは非常に興味深い。インターネットが発達した恩恵により、世界中のチューニングカーやカーライフが一個人レベルでの発信はもとより共有できることが特別なことではなくなった。海外のチューナーは世界を舞台として認知を広げ、ビジネスとして成り立つように活動しているところも見受けられる。
世界のチューニングカーはとてつもなくエキサイティングで、日本人の感覚をはるかに超える次元にまで到達している。例えばR35 GT-RはエンジンをVR38のままで2000psオーバーを実現していたり、排気はボンネットを突き抜けていたりするなど、見た目も中身もインパクトが強いクルマも多い。
そのなかでも特筆すべきなのがニュージーランドだ。島国ならではの風土なのだろうか。「無いものは作る」精神がかなり高く、ロータリーエンジンのカスタムの分野では世界的に見ても最先端だ。「PPRE」というショップは4ローターエンジンを作り出すにとどまらず、6ローターエンジンまでも製作。レシプロエンジンではクランクシャフトにあたるエキセントリックシャフトを新たに製作するなど、高度な技術も求められるはずだ。
ニュージーランド出身のプロドリフトドライバー、マッド・マイクはロータリーエンジン使いとして世界的に活動をしているが、彼のマシンのエンジンもPPREが作っている。ロードスターに搭載されたツインターボ化された4ローターエンジンは1200psを発揮。異国の地でロータリーエンジンがここまで進化している光景を見ていると、日本ももっと頑張って欲しいと思うのは筆者だけではないはずだ。
同じくニュージーランドでは、直列4気筒のバイクのエンジンを2つ組み合わせてV8エンジンを作ってしまうメーカーも存在する。「SYNERGY POWER」という会社で、カワサキZX12R(市販車世界最速の座をスズキ ハヤブサから奪うべく開発されたバイク)に搭載される高回転かつ高性能なエンジンを2つ繋げたら凄まじいV8エンジンが作れるのではないか?という大胆な発想を実現してしまったのだ!繋げると言ってもそう簡単なものではなく、腰下のパーツを新規で制作する必要があるのだ。実際のパフォーマンスは10,000rpm 367psをたたき出す。高回転V8エンジンというだけで非常に魅力的な存在であることは間違いない。
工作機械の進化もあって、一昔前では高コストゆえに断念せざるを得なかったような部品も積極的に作られていることが伺える。そして、商売をする相手をドメスティックな市場ではなく、世界を意識したものだから成立しているのではと推測できる。
エンジンブロックにおいては、日本ではSR20やRB26といった人気のあるエンジンでは数が少なくなっていて、実際に値上がり傾向である。エンジンブロックが無ければそもそもエンジンは組み上げることができず、その供給はアフターパーツメーカーでは基本的に不可能であり、自動車メーカーに頼るしかない。その自動車メーカーも昔のエンジンを作るにはコストが大きくかかるようで、つい最近日産がRB26のエンジンブロックを大幅に値上げした。
しかし、そのエンジンブロックをアルミの削り出しで制作しているメーカーも海外には存在し、ハードなチューニングが施された1000ps級のマシンが多いドラッグレースやドリフトといったフィールドでは使用され始めてきている。鋳造された鉄で出来ているエンジンブロックをより高剛性かつ軽量というのも大きなメリット。これについては昔からV8エンジンのエンジンブロックそのものをアフターパーツで入手することが出来たアメリカの土壌が産んだ賜物といえるだろう。やはりアメリカのクルマに注ぎ込む熱量と資本の大きさは日本の比ではない。
そして2015年のSEMAショーで多くの評価を集めたのが、ライワイヤーのDC2インテグラだ。エンジンを「魅せる」べく、エンジンルーム内のワイヤーを隠すワイヤータックと呼ばれるカスタムがあるのだが、このインテグラを作ったのはワイヤータックのプロでもある「ライワイヤー」というショップだ。
K24ブロックを使用し、ヘッドはK20にしたVTECエンジンに巨大なターボチャージャーが装着される。排気がボンネットを突き抜けるのは最近トレンドでもあるが、見た目にも迫力がある。もちろんエンジンルームはワイヤータック化され、美しい仕上がりと凶暴性が同居している異質なものだ。
ボディには強固なロールケージが張り巡らされ、足回りもAPレーシングのブレーキにレイズのホイールなど一級品を揃えている。トランスミッションはなんとシーケンシャルとなっていて、ステアリングにはパドルシフトが備わっている。
一見すると純正プラスα程度のエクステリアの中身は最新のパーツ、一級品のパーツで固められた究極とも呼べる仕様というのがそそられるところだ。これを制作するにあたって一番意識したのは所有していたポルシェ 911 GT3 RS(997)だ。インテグラを介して、ポルシェの隙の無さを「換骨奪胎」とも呼べるカスタムにより表現されているように感じる。車体色のオレンジもポルシェの車体色に由来するものだ。
日本車は海外に渡り、その国の人達の新たな解釈によってそのポテンシャルを大きく広げている。その日本車が秘めていた力というのは、一番身近にあったであろう。日本人さえも気づかなかった、もしくは気づけなかったものなのだろう。しかしそのような自体になるのは仕方のないことで、日本ではクルマを楽しめる空間というのがアメリカといった地域に比べると圧倒的に少ないというのが要因と考えられる。
日本でもそのような空間が存在すれば、一つの産業として今よりも大きく育っていて、海外でより大きくビジネスをすることも可能だったのではないのだろうか?現在海外で人気となっている日本のアフターパーツメーカーとしてはリバティーウォーク、ラウ ヴェルト、TRA京都(ロケットバニー)のようなエアロパーツを販売するところが目立つ。実際に日本発というものに流れは「来ている」と感じているし、これからの日本のチューニング業界がどのような展開を見せていくのかに期待したい。
[ライター/中野ヒロシ 画像/youtube]
最近では、チューニングをしなくても300km/hオーバーの世界へ到達できるクルマが増えつつある。しかし、どれほどクルマが進化を遂げようとも、さらなる性能を追い求め、限界を越えることに夢中になる人が消えることはない。
日本においては60年代〜70年代モータースポーツが広がり始め、現在では大御所とも言えるRE雨宮といったチューナーやHKSやトラストのようなチューニングパーツを主に取り扱うメーカーも誕生していった。80年代は谷田部での最高速アタックが盛んとなった。90年代にはスカイライン GT-Rやスープラといったハードなチューニングに耐えうるエンジンなどを持っていたクルマたちの存在により、日本のチューニング業界は円熟を迎える。
地域によって根ざすクルマの文化は異なっていて(アメリカではドラッグレースが盛んであるように)、日本の特徴としては最高速を追求するようなカスタムに加え、峠のようなコーナーが多数あるコースで速さを追求するスタイルや、コーナーをいかに派手に美しくクリアしていくドリフトといった文化が成熟されていった。最近では、サーキットでのタイムアタックが一番盛り上がりをみせているようだ。
昨今の世界のチューニングシーンは非常に興味深い。インターネットが発達した恩恵により、世界中のチューニングカーやカーライフが一個人レベルでの発信はもとより共有できることが特別なことではなくなった。海外のチューナーは世界を舞台として認知を広げ、ビジネスとして成り立つように活動しているところも見受けられる。
世界のチューニングカーはとてつもなくエキサイティングで、日本人の感覚をはるかに超える次元にまで到達している。例えばR35 GT-RはエンジンをVR38のままで2000psオーバーを実現していたり、排気はボンネットを突き抜けていたりするなど、見た目も中身もインパクトが強いクルマも多い。
そのなかでも特筆すべきなのがニュージーランドだ。島国ならではの風土なのだろうか。「無いものは作る」精神がかなり高く、ロータリーエンジンのカスタムの分野では世界的に見ても最先端だ。「PPRE」というショップは4ローターエンジンを作り出すにとどまらず、6ローターエンジンまでも製作。レシプロエンジンではクランクシャフトにあたるエキセントリックシャフトを新たに製作するなど、高度な技術も求められるはずだ。
ニュージーランド出身のプロドリフトドライバー、マッド・マイクはロータリーエンジン使いとして世界的に活動をしているが、彼のマシンのエンジンもPPREが作っている。ロードスターに搭載されたツインターボ化された4ローターエンジンは1200psを発揮。異国の地でロータリーエンジンがここまで進化している光景を見ていると、日本ももっと頑張って欲しいと思うのは筆者だけではないはずだ。
同じくニュージーランドでは、直列4気筒のバイクのエンジンを2つ組み合わせてV8エンジンを作ってしまうメーカーも存在する。「SYNERGY POWER」という会社で、カワサキZX12R(市販車世界最速の座をスズキ ハヤブサから奪うべく開発されたバイク)に搭載される高回転かつ高性能なエンジンを2つ繋げたら凄まじいV8エンジンが作れるのではないか?という大胆な発想を実現してしまったのだ!繋げると言ってもそう簡単なものではなく、腰下のパーツを新規で制作する必要があるのだ。実際のパフォーマンスは10,000rpm 367psをたたき出す。高回転V8エンジンというだけで非常に魅力的な存在であることは間違いない。
工作機械の進化もあって、一昔前では高コストゆえに断念せざるを得なかったような部品も積極的に作られていることが伺える。そして、商売をする相手をドメスティックな市場ではなく、世界を意識したものだから成立しているのではと推測できる。
エンジンブロックにおいては、日本ではSR20やRB26といった人気のあるエンジンでは数が少なくなっていて、実際に値上がり傾向である。エンジンブロックが無ければそもそもエンジンは組み上げることができず、その供給はアフターパーツメーカーでは基本的に不可能であり、自動車メーカーに頼るしかない。その自動車メーカーも昔のエンジンを作るにはコストが大きくかかるようで、つい最近日産がRB26のエンジンブロックを大幅に値上げした。
しかし、そのエンジンブロックをアルミの削り出しで制作しているメーカーも海外には存在し、ハードなチューニングが施された1000ps級のマシンが多いドラッグレースやドリフトといったフィールドでは使用され始めてきている。鋳造された鉄で出来ているエンジンブロックをより高剛性かつ軽量というのも大きなメリット。これについては昔からV8エンジンのエンジンブロックそのものをアフターパーツで入手することが出来たアメリカの土壌が産んだ賜物といえるだろう。やはりアメリカのクルマに注ぎ込む熱量と資本の大きさは日本の比ではない。
そして2015年のSEMAショーで多くの評価を集めたのが、ライワイヤーのDC2インテグラだ。エンジンを「魅せる」べく、エンジンルーム内のワイヤーを隠すワイヤータックと呼ばれるカスタムがあるのだが、このインテグラを作ったのはワイヤータックのプロでもある「ライワイヤー」というショップだ。
K24ブロックを使用し、ヘッドはK20にしたVTECエンジンに巨大なターボチャージャーが装着される。排気がボンネットを突き抜けるのは最近トレンドでもあるが、見た目にも迫力がある。もちろんエンジンルームはワイヤータック化され、美しい仕上がりと凶暴性が同居している異質なものだ。
ボディには強固なロールケージが張り巡らされ、足回りもAPレーシングのブレーキにレイズのホイールなど一級品を揃えている。トランスミッションはなんとシーケンシャルとなっていて、ステアリングにはパドルシフトが備わっている。
一見すると純正プラスα程度のエクステリアの中身は最新のパーツ、一級品のパーツで固められた究極とも呼べる仕様というのがそそられるところだ。これを制作するにあたって一番意識したのは所有していたポルシェ 911 GT3 RS(997)だ。インテグラを介して、ポルシェの隙の無さを「換骨奪胎」とも呼べるカスタムにより表現されているように感じる。車体色のオレンジもポルシェの車体色に由来するものだ。
日本車は海外に渡り、その国の人達の新たな解釈によってそのポテンシャルを大きく広げている。その日本車が秘めていた力というのは、一番身近にあったであろう。日本人さえも気づかなかった、もしくは気づけなかったものなのだろう。しかしそのような自体になるのは仕方のないことで、日本ではクルマを楽しめる空間というのがアメリカといった地域に比べると圧倒的に少ないというのが要因と考えられる。
日本でもそのような空間が存在すれば、一つの産業として今よりも大きく育っていて、海外でより大きくビジネスをすることも可能だったのではないのだろうか?現在海外で人気となっている日本のアフターパーツメーカーとしてはリバティーウォーク、ラウ ヴェルト、TRA京都(ロケットバニー)のようなエアロパーツを販売するところが目立つ。実際に日本発というものに流れは「来ている」と感じているし、これからの日本のチューニング業界がどのような展開を見せていくのかに期待したい。
[ライター/中野ヒロシ 画像/youtube]