オーナーインタビュー
更新2017.05.20
馴染んでいく感覚が心地良い!「フィアット600 プリマ セリエ」オーナー、豊泉 浩さんへインタビュー
松村 透
フィアット600 プリマ セリエ(1956年式)のオーナーである豊泉 浩(とよいずみ・ひろし)さんは、自らクルマをメンテナンスし、これまでのご経験を活かして必要に応じてパーツを加工したりするなど、少しずつ、そして確実に、愛車を自分だけの1台に仕立てているようです。今回は、そんな豊泉さんと愛車であるフィアット600 プリマ セリエ(以下、フィアット600)について取材させていただきました。
── オーナー紹介&どんな仕事をされているのですか?
▲そこに佇んでいるだけで周囲の人から笑顔がこぼれるキュートさが魅力です
現在は「マシニングオペレーター(要約すると、金属加工などの工作機械を操作する仕事)」です。整備士だったこともありましたし、実家が旅行業とバスの運送業を営んでいたので、若いときには長距離バスの運転手もやりましたね。私はバイクも好きでして、30代半ばのころ、自分のお店を持ちたいと思ったこともあったんですね。そのために、まずは金属加工の技術を身につけようと就職したんです。結婚して家族もいましたし、結果としてクルマやバイクは趣味と考え、マシニングオペレーターとしての20年近いキャリアを重ねて現在に至ります。
── 豊泉さんはバイクもお好きなのですか?
▲シンプルな内装。シートやドアの内張りの素材はオリジナルのようですが、ドアポケットはノンオリジナル(豊泉さん談)
ええ、バイクも好きですよ!自宅から少し離れた場所にガレージがありまして、そこに自分好みにフルカスタムしたトライアンフ TR6R(1971年式)と6Tサンダーバード(1953年式)、メグロS3 ジュニア(1957年式)があります。フィアット600もそこに置いてあります。
── 現在の愛車を手に入れるきっかけを教えてください
▲フィアット500と比べて、リアセクションが拡大されているフィアット600。放熱性を考慮して、エンジンフードを少し開けて走るのが豊泉さん流
若いときに所有していたこともあったので、当初はフィアット500を探していたんです。1年くらい掛けて、何台か気になる個体をチェックしていたんですね。なかでもアバルト595仕様の個体は、悩みに悩んで購入の意思をショップに伝えたときは既に売約済みで・・・。もう1台のアバルト695仕様(排気量800cc、ストレートカットギアが入っており、ほとんどレース仕様と言ってよい個体)も、年末に見つけてメールで連絡していたんですが、年明けになってこれも売れてしまったと返信があり・・・。このフィアット600は、偶然あるイタリア車を多く扱うショップで売られているのを見つけたんですね。他のフィアット600を観に行った帰りに寄れる場所にあったため、連絡して行ってみたんです。それが運の尽きでしたね(笑)。
── フィアット600、気に入ってしまったんですね(笑)
▲現代のクルマなら、カーナビのモニターが鎮座する場所がイグニッションスイッチ。「FIAT600」のエンブレムがさりげないアクセントに
フィアット600なんてほとんど見掛けたことがなかったし、売り物自体も珍しいですよね。ショップに行ってみると、このクルマが置かれていたんです。ドアはきちんと閉まらないし、塗装もカサカサで・・・。助手席で試乗させてもらったんですが、意外なほどキビキビ走るし、何だかんだで気に入ってしまったんです。結局、その場で契約してしまいました。
── そして、納車日を迎えるわけですね?
▲当時のカタログ値で最高速は95km/h。大経かつ細身のステアリングもオリジナル
納車されたのは5月で、初夏の陽気といえるくらい暑い日でした。ショップでクルマを受け取り、渋滞に巻き込まれながらガレージまで乗って帰りました。途中、高速道路のサービスエリアで休憩を兼ねてクルマを停めてみたら・・・。下回りからオイルや冷却水が漏れているんです。手に入れた段階ですでに60年近く前のクルマですし、半ば現状販売みたいなものですから、まあ、壊れますよね(苦笑)。どうにかガレージまでたどり着いて、翌日からクルマをバラして、まずは現状把握と必要なパーツを発注しました。暑い時期にこのフィアットを乗り回すのはかわいそうだったし、クルマいじりに没頭できますから、ちょうど良かったと思っています。
── 豊泉さんのこれまでの愛車遍歴を教えてください
▲このフィアット600が履くタイヤのサイズは135/80 R12
最初の愛車は、兄のお下がりで手に入れた日産スカイラインGT(1970年式/ハコスカ)の改造車でした。このとき私は整備士の仕事をしていたので、改造車は御法度だったんです。そこで通勤用にスバル360(1968年式)を手に入れました。それからボルボ122S(1964年式/ボルボ アマゾン)やフォード コンサル カプリ(1963年式/なんと正規輸入車)や、三菱ミニカLA23(1969年式)、フィアット500F(1968年式)にも乗りましたね。その後しばらくは家族用のクルマを乗り継ぎました。
── 輸入車に乗ろうと思ったきっかけを教えてください
▲シンプルなエンジンルーム。排気量633cc、最高出力22psの4気筒エンジンをリアに搭載。バンパーの下から覗くのは、豊泉さんが取り付けたアルミ製のオイルパン。この素材感が足元のアクセントになっています
映画「アメリカン・グラフティ」の影響が大きいですね。この映画いまでも観ますし、何より旧いアメ車に魅せられるきっかけになりましたね。1932年式のフォード モデルB 5ウィンドウクーペなんて最高です。1932年式は、フレームなどがしっかりしていて、トータル的にベストなのですが、モデルAの1930年~31年式はフレームを変えるなど、色々改造できるのでそれもありだと思っています。アタマの中では、このクルマを手に入れてからどういじるか、チューニングプランも描けているんですよ!!
── フィアット600を手に入れて良かった点、苦労している点は?
●良かった点
このクルマを所有して2年になるのですが、いじること自体が楽しいですね。これがフルレストア車だったら、手を加えることを躊躇してしまったかもしれません。適度な「ヤレ」があるからこそ、もっといいコンディションに仕上げたいし、愛おしさのような感情も湧いてきます。
▲ガラスはスライド式。ドアはフロント側に開くタイプ
●苦労している点
強いていえば・・・。こればかりは仕方ないんですが、出足が遅いことでしょうか。でも、それくらいですよ。
▲手前はシフトノブ。特徴的な3ペダル。アクセルペダルは小振り。ブレーキ&クラッチペダルはオルガン式
── 予算抜きで、欲しいクルマBEST3は?(アガリの1台も含む)
▲当時、フィアット社のベストセラーカーとして人気を博したフィアット600。ボディサイズは、全長×全幅×全高:3280×1380×1400mm。車内は思いの外、広々しています
・・・これは悩みますね。ベスト3では決められないので、4台を挙げておきます
・ポルシェ356(Pre-A)
・ポルシェ カレラアバルト
・フォード モデルB 5ウィンドウクーペ(1932年式)
・FIAT ABARTH 750 RECORD MONZA(ZAGATO)
── 豊泉さんにとって、愛車はどんな存在ですか?
▲フィアット500とは似て非なるこのシルエットがたまらなく魅力的なのです!
少しずつ馴染んでくることが実感できる存在・・・でしょうか。
眺めて良し、走って良し、いじって良し。まさに3拍子揃ったクルマです。これはクルマとバイクというくくりは関係なく、極乗車だから馴染むというわけではないと思うんです。一瞬でしっくりくる場合と少しずつ馴染んでくる場合、いつまでもうまくいかないこともありましたね。
私には4人の子どもがいて、家族とクルマやバイクの趣味を両立させるのは大変・・・ではあります。それを許してくれる家族のお陰で好きなクルマやバイクに囲まれて暮らせることに感謝しなければですね。
── 補足:クルマとバイクをこよなく愛する豊泉さんにお会いしてみて
▲生産から60年が経過したいまでも、イタリアから遠く離れた日本で幸せに暮らしています
インタビュー中に、何度も「クルマ(バイク)がかわいそうだから」という仰った豊泉さん。所有している愛車たちへの深い愛情を感じました。と同時に、クルマ&バイク趣味に没頭しつつ、ご家族のことを最優先で考えていらっしゃることは間違いありません。
▲豊泉さんから若いときから愛用しているという工具たち
豊泉さんのガレージには、さまざまなお宝級のアイテムが眠っている気配も・・・。まさに、幼少期に憧れた秘密基地を作ってしまった感のある豊泉さんのガレージにもお邪魔してみたいと思います。
── オーナープロフィール:
お名前:豊泉 浩さん
年齢:55才
職業:マシニングオペレーター
愛車:フィアット600 プリマ セリエ
年式:1956年式
ミッション:4速MT