更新2022.01.29
EVシフトを急ぐメルセデス・ベンツ、e-fuelを模索するポルシェとVW・・・ドイツの現状とは?
守屋 健
再生可能エネルギーへの転換を急いでいるドイツ。2038年までに84基もの石炭火力発電所を停止し、より風力発電量を増やす方針を発表するなど、積極的な取り組みを進めています。
クルマに関しても、コロナに対する経済刺激策と環境負荷低減の考え方から、電気自動車(以下EV)の低減税率や助成金が今後もかなり優遇されることになっています。
今回のドイツ現地レポは、現在EVを購入するとどのくらいの補助金がもらえるのか、税金はどのくらい軽減されるのかを解説しつつ、EVに関しての各メーカーの動向や普及の妨げになっている問題などについて紹介していきます。
■充実したドイツの補助金制度
最初に紹介するのは、ドイツ政府がEVに対して行っている優遇政策です。純粋なEVを新車で購入する際、2022年末まで最大9,000ユーロ(約117万円)もの補助金を受け取ることが可能です。
この金額は、ドイツ政府が負担する補助金が2倍になる「イノベーションプレミアム」が2022年末まで適用されるからであり、これがEVの新規購入のペースアップに拍車をかけています。
ちなみに「イノベーションプレミアム」終了後の2023年から2025年にかけては、ドイツ政府が負担する補助金は通常に戻る予定となっています。
この「イノベーションプレミアム」効果もあって、連邦自動車運輸局によると2021年の7月末までの統計で、367,905台の充電可能なクルマが販売され、同時期のディーゼルの販売数を6,757台も上回りました。
2019年におけるEVとプラグインハイブリッドの合計販売台数の割合は全体の4パーセントに過ぎませんでしたが、現在は2021年には23パーセントにまで上昇しています。
ドイツ政府の補助金はリースや中古車にも適用されているため、カンパニーカー制度が普及しているドイツにおいては非常に効果があると考えられています。
中古車についても、今はまだガソリン車と比べて高価なEVの購入の助けになるとして、補助金適用の効果は後々大きくなっていくことでしょう。
EVはさらに、税金面でも優遇されています。新車購入後10年は車両税が免除され、しかもこの政策は2030年末まで継続されます。
さらに、10年の間にクルマの所有者が変更になったとしても、新しい所有者は残りの期間の免税が認められています。この税優遇制度も、中古EVの取引数増加に効果があるだろうと期待されています。
■ドイツの各メーカーの方針は?
こうしたドイツの政策を受けて、ドイツ国内メーカーの動きも非常に活発です。アウディは2025年までに20を超えるEVの発表が控えており、2033年までに燃焼式エンジンの生産を段階的に廃止することを明言しています。
iシリーズを中心にEVをこれまでに16万台以上販売してきたBMWは、2030年までに売り上げの半分をEVで達成することを目指しています。一方で、燃焼式エンジンの生産終了時期については明言せず、市場の変化を見極めながら柔軟に対応する、と発表しました。
傘下ブランドのMINIについてはまったく状況が異なり、2021年に販売した15パーセントがすでにEVだったため、2030年にはEVのみのブランドとすることを目標としています。
EV化への資金をとにかく大規模に投入しているのがメルセデス・ベンツです。今後数年間でラインナップ拡張につぎ込む資金は100億ユーロ以上、バッテリー生産に対する投資は10億ユーロを予定しています。
2022年中にはどのセグメントでもEVが選べるようになり、EUでは2030年以降内燃機関を搭載したモデルを販売しないと宣言しています。
もっとも野心的にEVモデルの開発をしているメーカーは、フォルクスワーゲン(以下VW)です。2029年までに75もの新EVを発表予定で、2030年までには売り上げの70パーセントをEVで達成するという、他社よりもさらに踏み込んだ計画を立てています。
VWと同じグループに属するポルシェは、最後まで内燃機関を搭載するメーカーとなるでしょう。というのも、ポルシェとVWはe-fuel(イーフューエル)と呼ばれる代替燃料の開発に尽力しており、タイカンのような純粋なEVだけでなく、911やハイブリッドを搭載したモデルも「延命」したいと考えています。
ドイツではe-fuelに対する期待は大きく、既存のガソリンエンジンでかつ安価に供給できるようになれば、EVシフトと併せて気候変動に対する切り札となるのではないか、と見られています。
■EV購入に踏み切れない理由
さて、ここまで政府とメーカーが躍起になっているEVシフトですが、市民はどのように考えているのでしょうか? ADAC(ドイツ自動車連盟)が400のドイツの自治体、約2,600人を対象に行ったアンケート結果をもとに見ていきましょう。
アンケートによると、次回購入時の候補としてEVの購入を考えている人は40パーセントにのぼりました。しかし、2年以内に新車購入予定の人に限ると、その割合は14パーセントまで低下し、ガソリンもしくはディーゼルの割合が20パーセントと上回る結果となりました。
これは、EV購入を思いとどまっている多くの人々が、充電インフラの整備がいまだ十分ではなく、現行EVの航続距離が不足していると考えていることがアンケート結果であきらかになりました。
充電ステーションを設置してほしい場所については、地下の駐車スペースや公道上、職場の駐車場、高速道路のサービスエリア、スーパーマーケットなどが挙げられています。
また、現行EVの航続距離が不足していると考えている人は36パーセントにのぼりました。
■EVシフトを成功させるために
低地が多いドイツは、気候変動への対策をEUだけでなく地球規模で実現していかなければ、今後も大規模な洪水被害に見舞われると予測されています。
そのためのCO2削減目標であり、自動車産業界全体で進めるEV化であり、e-fuelや水素燃料などの代替燃料であるわけですが、すべての足並みを揃えなければならない点が非常に難しいといえるでしょう。
市民の立場になって考えると、政府からの補助金や優遇税制が継続している今、EV普及の妨げとなっている最大の要因は、高額なEVの販売価格ではなく「充電インフラの不足」といえるかもしれません。
各メーカーの努力や政府の補助金制度を無駄にしないためにも、充電インフラの整備は早急に取り組まなければならない急務です。またそれこそが、ドイツのEVシフト成功のカギを握っているといえるでしょう。
[ライター/守屋健]