ドイツ現地レポ
更新2019.01.24
傷もクルマの勲章?まだまだ日常の足として活躍する、日産マーチの欧州版・初代「マイクラ」
守屋 健
現代の目には新鮮に映る直線的なエクステリアデザインと、ドイツでの実用車らしく適度にヤレた外観。日本でもあまり見かけなくなった日産の初代マーチ、欧州名「マイクラ」を今回はご紹介します。
日々の生活に合ったクルマを選ぶ
ドイツで生活していると、ドイツの人々は各々の生活にフィットしたクルマを選ぶ傾向がある、と強く感じます。言い換えると、「一台のクルマで何でもこなす」ということを重視していない、ということです。例を挙げていきましょう。
あなたがもし、普段一人でクルマを乗ることが多く、大きな荷物もあまり積まない、という場合、どんなクルマを購入候補に入れますか?日本では「たしかに普段大きな荷物は積まないけれど、あまりに荷室が小さすぎたら万が一の時に不便だし、友人や家族と一緒に4〜5人乗車してどこかへ行くときもあるかもしれないし…」と考えて、たとえば5ドアの小型ハッチバックを選ぶ、というのが無難な選択肢ではないでしょうか。駐車場などの理由でクルマを一台しか持てない、子供や家族と一緒に出かけることが多い、となれば、ミニバンを一台だけ所有するという選択肢に落ち着くこともあるでしょう。
日本は駐車場料金やクルマにまつわる税金が高いですし、クルマを2台持ち(または3台以上所有)することについてハードルの高い国のひとつかもしれません。それに比べるとドイツでは、「駐車場は必ずしも必要ではない」というところだけを切り取ってみても、複数台持ちの難易度は日本よりも低いと言ってもよいでしょう。
ドイツに浸透している牽引文化
ドイツ人の場合は、先ほどと同じ条件の場合、スマート・フォーツーやフィアット500などの超小型車を選ぶ場合が多いように思います。理由はもちろん、超小型車の方が燃費がよく、毎日のランニングコストを抑えることができるからです。ドイツ都市部でのスマートの普及率は、日本と比べ物になりません。もし大きな荷物を運ぶ必要がある場合は、レンタカーを借りるか、トレーラーを牽引すればよいのです!
ドイツでは大型キャンピングトレーラーはもとより、軽トラックの荷台ほどの小型トレーラーもたくさん販売されていますし、レンタルすることもできます。「ヒッチメンバー」と呼ばれるクルマに取りつける牽引器具も、ディーラーで取り付け可能です(もちろんスマートも!)。残念ながら、日本では牽引文化が浸透しておらず、多くの輸入車に関しても「ヒッチメンバー」はオプションリストから外れてしまっているのですが…。
話がそれてしまいました。近距離の一人乗りならスマートなどの超小型車、少し近郊まで足を伸ばすことが多いのなら5ドアハッチバック、アウトバーンを日常的に走るなら4ドアセダンや2ドアクーペ、さらに多くの荷物を乗せる必要があるならステーションワゴン。などといった風に、複数台所有を前提としたクルマ選びができるのは、2台持ちが難しい日本からすると羨ましいかぎりですね。
人気の理由は「故障の少なさ」
マーチの欧州版「マイクラ」は、この中に当てはめると「都市部〜近郊で活躍する小型車」といった立ち位置になるでしょうか。
初代マイクラは1982年から1992年にかけて生産されていたので、初期に生産されたクルマは30年以上前にラインオフした、ということになります。直線的でスマートなエクステリアデザインは、基本デザインをジョルジェット・ジウジアーロが手がけ、生産に向けた調整を社内で行うことで完成しました。
フィアット・パンダやプジョー205などと並んで、今見ても古さを感じさせない、非常にバランスの取れた「この時代ならではのデザイン」を体現しているといえるでしょう。ヨーロッパ向けのマイクラの生産は、主にスペインで行われていました。
マイクラは、このクラスでは珍しく5速マニュアルや3速オートマチックを選ぶことが可能であったり(当時のヨーロッパの主流は4速マニュアル)、600kg前半の非常に軽い車体による低燃費が好評を博して、ヨーロッパでは長きにわたり堅実な販売を記録。フィアット・ウーノ、フォード・フィエスタ、プジョー205などと並んで、ドイツにおける代表的な「小型輸入車」のひとつでした。
とくに絶賛されたのは「故障の少なさ」「信頼性」で、ドイツ自動車協会が行った信頼性調査でも好成績を残しています。
傷やヤレた部分が見受けられるものの、このマイクラはまだまだ日常の足として活躍していくことでしょう。日本で初代マーチをほとんど見かけなくなってきている今、ドイツでいまだ初代マイクラが活躍している姿を見るのはうれしいかぎり。これからもドイツの地を長く駆け回ってほしいですね!
[ライター・カメラ/守屋健]