
カーゼニ
更新2017.07.03
クルマを楽しめるのはあと15年?その前に「欲しかった一台」を買わねば。

伊達軍曹
これをお読みの貴殿が何歳かは存じ上げぬが、予は今年の秋で50歳になる。「人間五十年」などというフレーズがメジャーだった大昔であれば立派な後期高齢者であり、そうでなくても生物学的な寿命はあと30年ぐらいであろうか……などと考えるお年頃である。
草野球ができるのはあと5年、クルマを楽しめるのはあと15年?

まぁそもそも80まで生きるかどうかも不明だが、仮に生きたとしても「自動車趣味人」ならびに「草野球選手」としての死は、さらに早いタイミングで訪れる。
まず草野球選手としての選手生命を考えよう。
今と同じような調子でプレイできるのはせいぜい55歳ぐらいまで、つまりあと5年ほどだろうか。その後の5年、つまり56歳から60歳までは騙し騙し、おっかなびっくりプレイするようになる。で、60歳を超えるとさすがに引退試合のスケジュールをおぼろげに考えるようになって、そして満65歳の誕生日に盛大なる引退試合を(誰もしてくれないので自分で)開催する。
物事が最高レベルに上手く運んだとしてもそんなもんだろう。要するにある程度ちゃんとできるのはあと5年か、せいぜい10年ぐらいしかないということだ。……1戦1戦、練習の1日1日がたまらなく愛おしくなってくる。
自動車趣味人としての寿命は、草野球選手のそれよりは長いのかもしれないが、決して楽観はできない。
ある程度の年齢になれば、運動機能や認知機能になかなかシビアな問題が生じてくる可能性は大。また運動機能等に問題がなくても、加齢により仕事と収入が減少して「自動車趣味どころではない」という状況になることも考えられる。
草野球のように「だいたい●歳ぐらいまで」という見当は付けにくいが、まぁ自動車趣味人でいられるのはなんとなく65歳ぐらいまでだろうか? となればあと15年ほどで、予の自動車趣味人としての人生は終焉を迎えることになるのだ。う~ん、マンダム。
15年などあっという間。その前に「欲しかった一台」を買わねば

この「15年」だが、小学生男子に15年といえば「果てしなく遠い未来のこと」と感じるだろう。この夏10歳となる小学4年生の玉造健太郎クンにとっての「25歳の自分」は、アンドロメダ星雲よりも遠い場所にいる。が、予のような後期中年者にとっては15年などあっという間だ。
や、さすがに「あっという間」というのは言い過ぎかもしれない。しかしここのところ年々「時計、壊れてんじゃねえか?」と思うほど時間の速度が上がっているので(ついこないだお正月だと思ったのに、もう1年の半分が終わりましたね……)、やっぱり15年は「あっという間」に感じられるのだろう。
つまり、予の自動車趣味人生はこのあと「あっという間に終わる」ということが、きわめて濃厚に予測されるのだ。
となれば、先ほど草野球の話で「1戦1戦、練習の1日1日がたまらなく愛おしくなってくる」と申し上げたが、クルマに関しても、今乗っているマツダNAロードスター、あるいはこれから(たぶん)買うだろうクルマの1台1台が、たまらなく愛おしくなってくる。
そして「乗れるうちに、本当に乗りたかったクルマを買わねばならない」と思うようにもなってくる。
しかし、予が「本当に乗りたかったクルマ」とは何なのだろうか?
無理すれば買えなくもない空冷ポルシェ911

こう見えていちおうはクルマ好きであるため、「本当に乗りたいクルマ」はいろいろあるわけだが、自分の心の奥底を静かに覗いてみると、出た答えは「やはり空冷ポルシェ911、そのなかでもタイプ964のMTでしょう」であった。
空冷911の相場が現在のように高騰する直前ぐらいまで、予はオートマ(ティプトロニック)の964に乗っていて、あれはあれで最高のクルマだと思ったものだ。しかし自動車趣味人としての寿命を終えるまでには、やはりどうしてもMTの964に乗っておきたい。涙の引退式はその後の開催、ということにしたい。
じゃあ買うか、MTの964……ということになるのだが、ご承知のとおりここ数年、964を含む空冷ポルシェ911の相場はアホほど高騰している。自分がドイツ車専門誌の編集者をしていた時代はせいぜい車両350万円も見ておけばエンジンO/H済みの一台を買えたものだが、その後倍になり、3倍になり……というのはご承知のとおりだ。
じゃあ無理じゃん……という話になるわけだが、実はこのところタイプ964の中古車相場はそれなりに下がってきている。
や、依然としてアホほど高騰しているのは確かなのだが、ピークは過ぎ、若干のダウントレンドに入った感もあるのだ。具体的には、ピーク時には1000万円級だった個体が800万円級になってきた……というイメージだろうか。
それならば、買えないこともない。
だが、どうしても車屋さんへ行くことができない

仮にポルシェ911カレラ2(5MT/フルノーマル)が諸費用込みで800万円だったとしよう。実際はもう少し高いかもしれないが。
800万円をキャッシュでドドーンと払ってしまうのも一計だが、我が家のキャッシュフローを考えるとさすがに無謀かもしれないので、とりあえず半額の400万円をキャッシュでドドーンならぬドン! ぐらいで払い、残りの400万円を月賦で支払うものとする。月賦は、できれば販売店御用達の信販会社ではなく銀行系の低金利ローンを引っ張りたいところだ。
例えば三菱東京UFJ銀行の「ネットDEマイカーローン」で借りると、金利は(変動だが)2.95%。これで男の120回均等払いにすると、月々の支払額は3万8532円。
……う~んマンダム、やってやれないことはない買い物である。
日々の中華三昧をチャルメラにダウングレードさせれば3万8532円ぐらいは何とかなりそうだし、総合的にモロモロが厳しくなってきたら964を売り払ってしまえば良い。チャラか、多少の負債あり程度で清算できるだろう。そういった荒業も可能なのが、高バリュー希少名車の美点である。964はもともとは希少車でもなんでもなかったのだが、世の中の事情が変わって今や希少名車へと変貌したのだ(ただしフルノーマル上質車の場合のみ)。

そうとわかったならばこんな陰気な原稿書きなどとっと中断し、ポルシェ専門店とかガレージカレントとかに行って、とっとと964の商談をしてこまそう……と思った予だが、なかなか立ち上がることができない。家を出ることができない。
ゼニが惜しいのだろうか? 先日86歳で亡くなった老義母M子を見ていて「年をとると人間、ゼニへの執着が強くなるというか、それを減らすことに対する恐怖心が強まるものなのだなぁ」などと思っていた予だが、予自身に、齢四十九してすでにその傾向が現れている……ということなのだろうか?
わからない。予にはわからない。
ただただ今は、ポルシェ911タイプ964というクルマが「で、お前はこの先どう生きるつもりなんだ? ん?」と、鋭くも重い質問を突きつけている。マンダム。
[ライター/伊達軍曹]