ドイツ現地レポ
更新2017.05.09
エンブレム以外は不要?ドイツで見かけるグレード不明なクルマたち
守屋 健
現代の「羊の皮を被った狼」というと、BMW M3やM5、AMG C63、アウディRS6アヴァントといったところが代表格になるでしょうか。少し古いクルマに目を向ければ、メルセデス・ベンツ500Eやボルボ850T-5R、ルノー21ターボあたりが思い出されるかもしれません。
クルマに興味のない人から見れば、ただの大人しいデザインのセダンやクーペ、ワゴン。けれどもひとたびエンジンに火を入れれば、本格的なスポーツカー顔負けの走りを見せるこれらのクルマは、クルマ好きにとっていつでも気になる存在です。フェラーリやランボルギーニのように、万人が振り返るようなクルマでなくていい。さりげなく、目立たず、それでいてアクセルを踏み込めば飛ぶように速く、かつ人も荷物も運びたい。ドイツではそういったコンセプトのクルマが特に多いように感じますが、ベルリンの街角でクルマを眺めている時にふと、思ったのです。
「狼ではないクルマも、自らの素性を意図的に隠そうとしていないか……?」
ベルリンの街角で発見!「グレード不明」なクルマたち
改めてドイツの路上を走るクルマたちを観察すると、わかる人はわかる、というレベルを超えて、グレードが全くわからないクルマが多数走っていることに気付きました。それらは決して先ほど例に挙げたような「羊の皮を被った狼」でもなんでもなく、ただ単に「メーカーエンブレム以外のロゴを外された」クルマたちです。
▲「グレード不明」なクルマが最も多かったのはメルセデス・ベンツです。特にベルリンの街中では、車名ロゴやグレード表記が外されたメルセデス・ベンツが簡単に見つかります。
▲二代目SクラスであるW126です。とても状態が良い個体ですが、どのエンジンが搭載されているのか外観からはわかりません……
▲続いてアウディ。2000年以前のモデルではほとんど見かけないのですが、近年のモデルになればなるほど車名・グレード表記を外されたクルマが多い傾向です。
▲BMWも多いです。1990年代半ばのモデルから現行にいたるまで、表記を外されたクルマを多数見かけます。一方で、M3やM5でロゴを外しているクルマは見かけませんでした。やはりあのMエンブレムは外せないのでしょうね!
▲少数派ですが、フォルクスワーゲンでも時々見かけます。ロゴが外されることで、シンプルな外見がよりシンプルに見えます。一番奥に写っているのはメルセデス・ベンツのVクラスですが、こちらもロゴが外されています。
▲日本ではあまり馴染みのない、シュコダ・オクタヴィア・コンビです。シュコダはチェコのメーカーですが、フォルクスワーゲンの子会社なので、ドイツではポピュラーな存在です。ロゴを外しているシュコダは少数派でした。
▲流麗なスタイリングで日本でも人気の高い、アルファロメオ156スポーツワゴンです。アルファロメオでロゴを外していることはほとんどなく、写真の個体は珍しいと思います。アップルのシールがご愛嬌。
ロゴを外しているのはドイツ車ばかり
撮影を終えての結論は、ロゴを外しているのはほとんどがドイツ車で、車両価格が高いか安いかは関係がない、ということでした。メーカー別に分けると、特に多いのがメルセデス・ベンツ、BMW、アウディ。次点がフォルクスワーゲン。写真には収められませんでしたが、ロゴを外しているオペルも見かけました。時々見かけるのは、シュコダ、セアトといったフォルクスワーゲンのグループ会社。逆にロゴを外しているクルマをほとんど見かけないのが、フランス車とイタリア車、そして日本車です。
先ほど「素性を意図的に隠そうとしている」と書きましたが、実際は何を思ってロゴを外しているのでしょうか。残念ながら、ロゴを外してクルマに乗っているドイツ人オーナーが知り合いにいないので、直接聞くことはできませんが、推測することはできます。
等身大の大切なパートナーとして
ひとつは、ドイツ人が、ごくシンプルな見た目の虚飾を排したデザインを好む、ということです。同じドイツのプロダクトで代表的なライカのカメラを例に挙げましょう。ライカといえばカメラ正面の赤い円のロゴが有名ですが、現行のラインナップを俯瞰すると、必ず「赤い円のロゴが無いモデル」が入っています。それはライカ本社に、カメラがより控えめな存在であってほしい、という要望が絶えず届くからなのだそうです。車名のロゴやグレード表記を外すことで、より目立たない、控えめなデザインにしたいというオーナーが、ドイツには多いのではないのでしょうか。
それから、ここに写真を挙げたクルマたちに共通するのは、ドレスアップパーツやステッカーの少なさです。ほとんどがノーマル状態で、かつ日本で頻繁に目にする「Baby In Car」のようなステッカー類は見当たりません。また、ドイツ国内にしては、洗車が行き届いているクルマが多かったようにも思います。
日本ではかつて、「◯◯仕様」といったクルマが流行し、ドレスアップパーツが市場に溢れた華やかな時代がありました。それは言わば、自らの手の届かないクルマに外見だけでも近付けたいという憧れから生まれた存在です。ここに挙げたクルマたちは、それらとは真逆のベクトルを示していると言えるでしょう。必要以上に自らを大きく見せることなく、等身大で、控えめで目立たないけれども、毎日そばにいる大切な道具、パートナーであってほしい。そんなオーナーたちのささやかな思いが込められているように思うのです。
[ライター・カメラ/守屋健]