ドイツ現地レポ
更新2017.07.11
2017年のル・マンが33時間連続、無料で開放!ポルシェ博物館がパブリックビューイング開催
守屋 健
なんと33時間連続で開催!
▲17日朝9時頃の様子。閑散としていますが中継は始まっていました
ポルシェ本社のあるシュツットガルト・ツッフェンハウゼン。向かいの博物館で行われたのが、その名も「ル・マン@ツッフェンハウゼン」です。2017年のル・マンは、現地時間6月17日15時からの24時間で争われましたが、このイベントの開催期間は6月17日9時〜18日18時まで。つまり、レース当日のウォームアップから表彰式まで33時間連続で開催し続ける、という驚きの内容でした。
イベントは入場無料。博物館の中も33時間連続、無料で開放されます。通常8ユーロの入館料がかかることを考えるととんでもない大サービス。併設のレストランでは、この週末だけのフランス料理メニューが用意されていました。グッズなどを扱うショップも23時まで営業するとのこと。
▲博物館の内外に設置されたスクリーンは全部で6ヶ所。用意された座席の数はかなりのもの
マニア垂涎。あの名車のエンジン音が聴ける!
▲ズラリと並んだ歴代のレーシングカー。「ル・マン・サウンド」と題して、エンジンを始動するイベントが2時間おきに開催されていました
▲919ハイブリッド。今年のル・マンにおいて1号車でドライブした、ニール・ジャニ、アンドレ・ロッテラー、ニック・タンディの3人の名前が刻まれています。リアビューミラーやヘッドライト、リアウイング周辺の形状から、2016年WEC第2戦以降のロー・ドラッグ・スペックだと思われますが、カラーリングは2017年仕様なので何らかのテストに使用された車両かもしれません
▲911GT1 ’98。26号車は1998年のル・マンの優勝車です。トヨタGT-One TS020との激闘の末、25号車との1-2フィニッシュを決めたのも、もう20年近く前になるのですね。911と名乗っていますが、新たに設計されたカーボンモノコックのボディやミッドシップにエンジンを積むなど中身は完全に別物です
▲2004年製911 GT3 RSR(996)。2004年のGTクラスの主役といっても過言ではありません。ALMSやFIA GT選手権、ル・マン24時間とスパ24時間でのクラス優勝など、デビュー初年度から世界中のサーキットで勝利を収めました。オーバーフェンダーが凄みを感じさせます
▲オーバーフェンダーといえばこのクルマを外すわけにはいきません。935/77です。シルエットフォーミュラ(グループ5)規定下で生まれた630馬力のモンスターマシン。マルティニ・カラーの935は、かつての「スーパーカーブーム」を巻き起こした立役者のひとりといえるでしょう。このカラーリングに懐かしさを覚える読者の方も多いのでは
▲1973年製911カレラRSR。1973年のタルガ・フローリオで3位に入ったマシンだそうですが、その後の様々なレースやテストを経てリペイントされた後に博物館に収蔵されました。タルガ・フローリオ当時はマルティニ・カラーで、リアウイングやオーバーフェンダーの形状も現在とは異なります
▲1961年製718 W-RS スパイダー。当初は4気筒エンジンが積まれていましたが、後に240馬力を発生する空冷水平対向8気筒エンジンに換装。1963年のル・マンで8位入賞を果たしています。座席後方、水平に置かれた空冷ファンが印象的です
▲エンジンを始動する場面に立ち会うことができました。かなり気難しい性格なのかなかなかエンジンがかかりません。爆音とともにアイドリングし始めると周囲の観客から歓声と拍手が!鋭い吹け上がりを披露していました
▲550スパイダー。写真の個体は1956年製で、アメリカの顧客が購入し現地のレースで活躍したとのこと。1956年のタルガ・フローリオで、クラスが上のフェラーリやマセラティなどを抑えて総合優勝を飾ったり、俳優ジェームス・ディーンが交通事故死した際にハンドルを握っていたのがこのクルマだったりと数々の伝説が残る名車ですね。 無駄のないコクピットもシンプルで美しいです
▲こちらもエンジンを始動中。かなり野太く、唸るようなエグソーストノート。ミッドに搭載されたエンジンの搭載位置の低さがわかります。アルミ製ボディパネルの内側の造形も興味深いですね。ポルシェのスタッフもみなさん笑顔で楽しそうです
子どもも大人も夢中!アトラクションの数々
▲子どもたちに大人気だったのが、ポルシェ・ハイジャンプと名付けられたトランポリン。ル・マンのパブリックビューイングという、かなりマニアックなイベントを子どもと一緒に楽しめるイベントに変えてしまうあたり、さすがとしかいいようがありません
▲「何秒でタイヤ交換をできるかな?上位入賞者にはおもちゃをプレゼント!」という企画にチャレンジする親子。ジャッキアップするとストップウォッチがカウントを始めるあたり、なかなか凝っています。よちよち歩きの男の子もお母さんが手伝いつつなんとかクリア!
▲ドイツのクルマのイベントには欠かせない存在、スロットカー。お父さん、子どもより真剣です
▲こちらは別の場所で開催されていたスロットカー・イベント。自転車のペダルを漕いで発電し、その電気でスロットカーを走らせるというもの。コースが大きく、かなり一生懸命漕がないとスピードが出ないようで、みなさんゼーゼー肩で息をしながら挑戦していました
▲筆者が思わず「これ欲しい!」と呟いてしまったドライブシュミレーター。ステアリングやシートの造形、ポルシェのロゴにニヤリとしてしまいます。手前の女の子はポルシェ919ハイブリッドでサルテ・サーキットに挑戦中!
昼の12時を回ったところで、筆者は一旦博物館を後にしました。写真の様子から、だんだん人が増えてきたのがわかると思いますが、館内も外もまだまだ混雑と呼ぶには程遠い状況。正直なところ用意した席が埋まるとは思えませんでしたが、夜になってから再訪することにします。
夜22時を過ぎても大盛況!
▲博物館前のオブジェ。後方の赤く光るポルシェロゴの建物が本社ビルです。撮影したのは22時頃。この時間にしては人通りが多いように感じますが……さっそく中に入ってみましょう
▲会場内はいったいどこからこれだけの人が?と思うくらいの大盛況ぶり
まさにお祭りといった雰囲気で、みなさんの話し声や歓声でとても賑やかです。用意された座席はほとんど埋まっていて立ち見の人で溢れるほど。ビールやおつまみ片手にモニターを食い入るように見つめています。ドイツはこの時期、日の入りが21時半くらいなのでまだうっすらと明るさが残っていますね。会場にはテレビカメラやリポーターも入っていて、ル・マンと中継を繋ぎ「ポルシェ博物館にお集まりのみなさん!元気ですかー?」「イエーイ!」なんて場面も!
▲博物館内もたくさんの人で溢れていました
先ほど紹介したドライブシュミレーターやスロットカーにも長蛇の列。館内にもビールやワイン、軽食が用意されていて、それらをつまみながら観戦する人も多く見られました。昨年の優勝記念Tシャツを着て応援する人もちらほら。オーバーテイクやスピンが映し出されるたびに、歓声やため息、拍手が沸き起こります。子どもも大人もスタッフもみなさん本当に元気!
レースはこの時間、トヨタTS050ハイブリッドの7号車と8号車が1-2体勢でリード。ポルシェ919ハイブリッドの1号車は3位で追いすがり、2号車はトラブルから復帰後必死に追い上げ中、という展開。GTE-Proクラスの911RSRもアストンマーティンやフォードの後塵を拝するなど、ポルシェとしては苦しい時間帯でしたが、ツッフェンハウゼンに集まった人々にはさほどの悲壮感はなく、ニコニコと笑顔を浮かべながら応援していました。23時以降にはステージにDJも登場し、ダンスパーティが始まるよ!とのことでしたが、体力が尽きた筆者、ひとまずホテルへ帰って休むことにします。
ゴールの瞬間!そのとき集まった人々は
翌朝。レースの最新情報をインターネットで集めつつ、急ぎ足で再びイベント会場に向かいます。資料によると博物館のカフェは夜中も休みなく営業しているとのこと。朝食をカフェで食べられたらいいな、と思いつつ、朝7時に会場に到着。さて、人は残っているのでしょうか?
いました。昨夜ほどの人出はないですが、みなさん朝食を取りながらモニターを眺めています。朝まで飲んでいたのでは?というような赤ら顔の人も。この時間、919ハイブリッドの1号車が1位を快走。心なしか昨夜よりもさらに雰囲気が明るいです。筆者もここに混ざって朝食を取りました。余談ですが、ドイツの硬水はコーヒーとの相性が抜群でとても美味しいです。
▲朝、受付で無料配布していたのが、この「リラックス・キット」。博物館の半額チケットと各種案内、アイマスク、歯磨きセット、耳栓が写真右下の12cm角の紙袋(959の写真入り)に収められています。「本当にタダでいいの?」と疑ってしまうような気の利いたお土産ですね
長かった24時間のレースは現地時間15時にゴールを迎えます。筆者は残念ながらゴールの瞬間には立ち会えなかったのですが、こちらの動画を見る限り大盛り上がりだったようですね!
▲ゴールの瞬間は4:45
昨年のトヨタの悲劇が記憶に残っているのでしょうか、最終コーナーまで固唾を呑んで見守っている様子が伺えます。結果はご存知の通り、919ハイブリッドが3連覇を達成。19回目の総合優勝を獲得しました。
▲中継が終わってもビールを飲みながら話し込んでいる人々があちらこちらに
ほぼ最下位からの追い上げで優勝を果たした919ハイブリッドの2号車について、みなさん興奮さめやらぬ様子。長丁場のイベントを終えたスタッフの方々も疲れは隠せないものの、晴れ晴れとした表情で片付けていました。
「ル・マン@ツッフェンハウゼン」に何度か足を運んで筆者がひしひしと感じたのは、ポルシェというメーカーにとってル・マン、そしてレースに勝つということはとても重要で、2シーターや2+2のスポーツカーだけでなく、カイエン、マカン、パナメーラといったSUVやサルーンを生産するようになった今も、その重要性は全く変わっていないということです。こんなにもモータースポーツに夢中になり、勝とうと必死になり、それでいてファンと一緒に楽しもうとするメーカーを筆者は他に知りません。
またポルシェは、レースで鍛えた技術や経験を絶えず市販車に還元しています。ターボチャージャー、カーボンセラミックブレーキ、PDK、ハイブリッドシステム……こうしたレーシングカーと市販車の関係が続く限り、ポルシェがレースをやめることはないでしょう。世界中のポルシェ・ファンもそう信じているからこそ、熱狂的に応援し続けます。レースでの活躍に憧れた人々が、レーシングカーの技術がフィードバックされた市販車を購入し、その売り上げでポルシェは再びレースに参戦する。そんな好循環が今も続いているのです。
仮に来年もポルシェとトヨタがLMP1クラスでル・マンに出場するとしましょう。トヨタはル・マン参戦20回目の記念すべき年でなんとしても勝ちたいはずです。しかし、そこに立ち塞がるのは4連覇、通算20回目の総合優勝を狙うポルシェ。あのツッフェンハウゼンの夜を振り返るたび、ただ速いクルマを作るだけでは勝てない、他に何か大切なことがあるのでは?と思わずにはいられません。
[ライター・画像/守屋健]