コラム
更新2020.08.24
空冷ビートルでドラッグレースが人気!その3つの理由とは
ryoshr
そう、日本では「ゼロヨン」と呼ばれているレースだ。正確には、アメリカなどの「ドラッグレース」は4分の1マイル(=402.336m)なので、日本のゼロヨン(400m)とはちょっとだけ距離が違ったりする。話を戻して、このドラッグレースだが、日本でも盛んだったことをご存知の読者は少ないのではないかと想像している。
しかも、国産車だけではなく、空冷ビートル(空冷VW)でのドラッグレースが行われていた事をご存知の方は、さらに「ヘンタイ」の部類であろう(笑)。
実は日本に限らず、空冷ビートルでのドラッグレースはアマチュアの参加が非常に多く、ドラッグレース界でもかなりの人気なのだ。それには3つの理由がある。それは空冷VWのエンジンの設計・構造によるものだ。
1.4つのシリンダーが独立している
リアフードの内側のエンジンを見ると、中央のクランクケースの左右に2つづつ、合計4つのシリンダーが独立してボルトオンされている。そう、これはシリンダーが一気筒づつ外れるということ。「外れる=交換できる」ということだ。
多くの他車のエンジンはいくつかのシリンダーがひとつ鋳造物となっている。そのため、排気量を増やそうと思うと、シリンダーブロックを外し、シリンダーの内側を一つ一つボーリングをして内径を拡げるという作業が必要になるが、空冷ビートルの場合は、オーバーサイズのシリンダーとピストンを交換することによって、比較的簡単に排気量アップが可能で、パワーアップが可能となる。
当然、クランクシャフトの長さからくる限界から、標準のクランクケースで対応できるシリンダーのサイズには限界があるが、さらに大排気量とするため、長いクランクシャフトを内蔵できるクランクケースもアフターマーケットで入手することが可能だ。
ただ、ポルシェ911も同じような構造だが、もともとの設計・排気量で十分なパフォーマンスが得られるため、あえてオーバーサイズのものと交換することは一般的ではないようだ。
2.空冷は冷却水がないので、構造が簡単
「空冷」というくらいなので、エンジンの冷却のための水(クーラント)が通る経路が必要ない。このことによって、エンジンの構造が大変シンプル。ラジエターもウオーターポンプもそれらをつなぐのホースもない。シリンダーやヘッドの周りにも水を通す経路がないため、構造がシンプル。
当然、空冷は「油冷」とも言われるほど、オイルの管理には気を遣うべきだが、空冷ビートルは2.5リッター〜3リッターのオイルでエンジンを冷やしている。少ないオイルで効率的に冷却ができている優れたエンジンということだ。
3.エンジンはボルト4本でミッションにマウントしてあるだけ
空冷ビートルのエンジンはボディにはマウントされておらず、エンジンよりも車の前側にあるミッションの「ベルハウジング」と呼ばれる部分へボルト4本でマウントされている。エンジンは、いくつかのカバーを外せば、車体からおろさずに大抵のメンテナンスが可能だが、もし仮に下ろそうとしても、ボルト4本を緩ませ、リアを高めにジャッキアップしておけば、下ろしてくることが可能だ。
これらの理由から、自宅のガレージでも比較的簡単にエンジンのチューンアップができること、特にアメリカではアフターマーケットのパーツが20年以上前から潤沢だった。その後、インターネットの普及や物流コストの低下などのおかげで、自分で面倒な手続きをしなくても、日本でもパーツの入手が楽にできるようになったため、日本国内でも空冷ビートル(空冷VW)のドラッグレースが盛んになった。
▼VWでのドラッグレースの動画
しかし、東日本大震災をきっかけに、仙台ハイランドにあったドラッグレースコースが閉鎖されたことにより、現在では定期的に開催されるレースが無くなってしまい、全国のショップ、プライベーター達は自慢のマシンを走らせるチャンスがなくなり、さびしい想いをしているに違いない。
ただ彼らは、いつかまたコースで自慢のマシンが自己ベストを更新するために、今日も車に潜り、つめの先を真っ黒にして、キャブのジェットを交換したり、セッティングをなおしたり、エンジンを組みなおしたりして、その日に備えているはずだ。
イマドキの若い人たちにも、ドラッグレースというスポーツが存在していることが知られ、自分もやってみたいと思ってもらうためにも、まずはメッカとなるコースの再建と、定期的なレース開催を望んで止まない。
[ライター/ryoshr]