ドイツ現地レポ
更新2017.03.16
ドイツ企業を狙う巧妙な詐欺が急増中!「USTID-Nr.de」を調べてみた
NAO
まず相手の会社はボンに拠点を構えるDR Verwaltung AG(DR管理株式会社)だそうですが、加えて「Deutsches Firmenregister(ドイツ企業登録局)」の名前で手紙を送っています。まずはこの名前をネットの検索にかけてみたところ、ドイツ企業登録局のサイトらしきものと各法律事務所のホームページがヒット。そこには「Abzocke(ぼったくり)」「Vorsicht(注意)」「Falle(詐欺)」の文字が載っており、有名な詐欺ケースになっていることが分かりました。
▲検索結果のスクリーンショット(筆者撮影)
ドイツ企業登録局の名前の他に「USTID-Nr.de」とサイト名らしきものも記載されているのですが、この「USTID-Nr.」はUmsatzsteuer- Identifikationsnummer(付加価値税認識番号)の略称です。付加価値税は日本で言う消費税で、同税は生産や製造、小売りなどすべての売り上げが対象となっていますが、仕入れ費用などは控除されることから一般的に売上税とも呼びます。
登録が義務付けられているかのように見せかける
一体どういう話かをざっくりと説明しますと、企業の売上情報等をネットで管理できる有料ポータルサイトへの登録の勧誘です。登録は任意であるにも関わらず、公的機関からの通達で、登録が義務付けられているかのように見せかけ、支払わなくてもよい金額を騙し取ろうとするのが目的です。
送られてくる手紙の内容に関しては「2011年の税制改革により納税情報を簡素化」「売上及び付加価値税監査と会計調査の義務付け」などの法律・条例云々の書き出しから始まり、その調査簡素化のためドイツ企業登録局が運営しているUSTID-Nr.deのオンラインデータバンクに付加価値税認識番号をはじめ売上会計や内訳などの企業情報を登録・開示するように説明。
手紙ではこのデータバンク登録には登録料が発生するということにも触れてはいますが、最後に脱税防止のために付加価値税認識番号の申告は「法律で決められている」とも書かれており、何やら必ず登録しなければならないような印象を思わせます。
ですが、実際オンラインポータル上での付加価値税認識番号及び売上会計の開示というものは、自身の会社のHPまたは会計報告書を除いて公表する義務はありません。このような法律に基づく情報開示の勧告書は、国の機関から発行されなければならないものであり、ただポータルサイトを経営する見ず知らずの会社が要求するというのは信ぴょう性に欠けると言えます。「法改正」「義務」などの言葉を使い、相手の会社の不注意や税務・法律関係の無知の穴につけ込んで金儲けをしようというただの利益目的でしかないのです。
通常ならプライベート企業の宣伝の手紙が来たところで、必要なければ無視すればよい話なのですが、それでも被害が出てしまった大きな原因は、上記でも触れたように「公的機関からの通知と思わせる」相手側の巧妙かつ悪質な手口にありました。他にも注意すべき要点をいくつかまとめています。
公的機関を思わせるロゴ・封筒デザインの使用
▲実際にドイツ現地法人へ送られてきた封筒
▲公的機関から送られてくる一般的な封筒(筆者撮影)
まず手紙を開いてみると、EU連合を連想させる円状の星のロゴが目に入ります。受け取った側はこれを見てEUの機関から来たものだと錯覚してしまうおそれがあり、偶然ではなくわざとこのようなデザインにした可能性があると考えられます。再生紙を使った書面と灰色がかった封筒、この封筒の書式やデザインに関しても、ドイツの銀行や公的機関が送ってくる封筒デザイン酷似しており、非常に悪質であると言えるでしょう。そして全体的なフォーマット、「○月○日の期日までに書類に記入し要返信」など公的機関関係の書類で、よくある書き方をしている点も受け取り側を勘違いさせる大きな要因となっています。
自動契約更新と高額料金システム
データバンクの登録料は年間398.88ユーロ。それに消費税を加えた金額474.67ユーロ(約6万2000円)を支払わなければならないとのことで、金額が記載された振込用紙も同封されていますが、一度登録すると最低2年間はこの契約を解除することができません。つまり一度契約をしてしまうと最低でも1000ユーロ(約13万円)近い金額を支払わなければならないのです。加えて手紙の最後には受け取り側の会社名や住所などが既に記載されており、情報が間違っていれば訂正、そして付加価値税認識番号等を記入して返送するよう指示がしてありますが、この用紙に会社情報を書き込み、署名して返信してしまうと、この情報がオンラインデータバンクに自動的に登録・公開されてしまいます。
契約解除の方法が不明確
このような詐欺ケースの手紙で気を付けなければならないのは、脚注など小さな文字で書かれている文章。手紙の裾に小さく記載されていたのは「契約を取りやめるには7日間以内に書面にて届け出ること」とあります。しかしこの日数は、契約開始日ではなく手紙を返送した日からの7日間。この期日を過ぎると自動的に2年間契約となってしまい、その後の契約解除の仕方は手紙には記載されていません。
登録を催促する悪質な勧告文
一通目の振り込みの手紙が送られてから、指定された期限までに振り込み・返送しなかった場合「最終警告」と称して再び振込み用紙が届きます。それでも反応しなかった場合には、法的手続きの知らせと罰金を含めた高額の請求書が送られてきます。時間が経つ毎に金額は上がってゆき、何度も何度も催促し恐怖心を煽らせる手口です。
このようなケースの詐欺は初めてではなく、以前にもベルギーのある会社がEU各国の企業に送っていた手紙の内容と非常に酷似していることから、今回のドイツでの被害も関係があるのかもしれません。登録する・しないは各企業の自由ですが、高額な利用料を支払うだけでなく会社の売上情報がオンラインで流出、悪用される可能性を考えると、登録するメリットはまずないと言えるでしょう。
ましてや、このような手段で登録を催促する会社を信用すること自体が難しいと考えられます。ドイツ弁護士協会の意見としては、何度警告文や高額な請求書が送られてきたとしても一切反応しないことと、すぐに担当の弁護士に相談するようアドバイスをしています。この詐欺ケースの現状ですが、手紙に記載されている電話番号に問い合わせてもつながらず、メッセージも残すことができない状態です。ドイツ経済犯罪防止協会が裁判に持ち込むも反応が全くなく、未だ解決策が見えていません。